ワークショップ

チームビルディングとしてのオフィスづくり

 この3年間進めてきたオフィスづくりのふりかえりと、以前にNEO(オフィスの研究会)で議論されていた生命化の話。そこから見つけた組織イメージの重要性とオフィスの果たすべき役割について紹介したい。いわばチームビルディングとしてのオフィスづくりであり、メンバーの間で組織イメージを共有していく上で、オフィス空間が果たす役割は大きい。

メンバーの活動を左右するひとりひとりの組織イメージ

 生命が持つ特徴として構造的カップリングがある。個体はそれ単体で存続しているように見えるが、魚が水中に生息しているように、環境と個体との間にある境界を介して一対の関係を持つ。ひとも同様に環境との間に一対の関係にあるが、ひとが持つ想像力によって社会的関係をつくれるところに特徴がある。個人の周りにいる他人からなる社会的な環境があり、その代表例が組織だ。ひとは他のメンバーと協調した組織行動を通じて、社会との関わりを生み出すことができる。是非はともかく、UberのようにITプラットフォームを介してひとの活動同士を接続することによって社会的な関わりを生み出すアプローチもある。あるいはティール組織のように、メンバーの中で社会環境と組織、組織とひとの関係をイメージして、互いにコミュニケーションを取り合い、自律的に協力していくこともできる。それほどに、ひとの想像力は本当に柔軟で強力だ。

 その一方で、仕組みの中でただ働かされているように感じられて自己効力感を得られない、自分の取り組みと社会とのつながりが見えず意義を感じられない。といった疎外感も、一人一人の持つ組織イメージがもたらす。ワクワクする気持ちにも閉ざされた気持ちにもなるし、前向きにアイデアを出そうとする気持ちにも、与えられた役割を粛々とこなす気持ちにもなり得る。そんな働く姿勢の前提となるメンタルモデルを組織イメージとして持っている。

何が組織イメージをつくるのか

 組織イメージはコミュニケーションからつくられる。日常の中で、身近な仲間に何かを伝えたときに、返ってくる言葉。その積み重ねから、その組織イメージがその人の中に描かれていく。タックマンモデルは日々のコミュニケーションを通じたチームの成長を描き出しているが、組織イメージも同じように日々のコミュニケーションから描かれる。しかし、チームと違って組織のサイズになると、すべてのメンバー同士がコミュニケーションをとることは現実的に困難であり、組織の中で果たす役割によってそれぞれの周囲のメンバーとのコミュニケーションから組織イメージが生み出される。その結果、本人はそれが真実だと感じていながらも、ひとりひとりが持つ組織イメージはバラバラになる。そのままだと、メンバーは孤立感を募らせるだけでなく、創造性を失い、仕事の意義さえも確かめることができなくなってしまう。そんな状況に置かれるひとが多いのが実情だろう。

 では、自分を活かせる組織をイメージし、社会的な意義も感じられる。そんな組織イメージはいかに育めるだろうか?アプローチの一つとして、組織を語り合う機会がある。例えば、ビジョン、ミッション、バリューを策定する際には、社会と組織の関わり、組織とひとの関わりを言葉にまとめるべく、多く現場のメンバーを巻き込んだ話し合いが行われる。その結果、あるテキストが生み出され合意されるが、同時に話し合いに参加したメンバーの間で組織イメージが生み出されて共有される。こうした関係自体が、組織が機能していく土壌であり、ひとりひとりの組織イメージのつなぎ直しが求められている。

組織イメージづくりにオフィスづくりを活かす

 こうした組織イメージのつなぎ直しの機会をオフィスづくりの中で生み出すことができる。働く上で、これから大切にしていきたいことは何か?それを実現する空間とはどのような姿か?そんな問いから話し合うことを通じて、メンバーの間で組織イメージが生み出されて共有される。結果として、オフィスづくりのプロセスがチームビルディングの役割を担うことができるのだ。これまでのオフィスづくりでは機能性、快適性、ブランディングといった面からいかに効果的な空間をつくるかが議論されてきた。しかし、共につくる体験自体が大切だったということだ。共に考え、つくる中で互いを理解し、組織イメージを共有していくことができる。

 共につくり、組織イメージを共有していく上で、何が大切になるか。

 ひとつは話し合いをはじめる問いかけである。何について話し合うか、メンバーみんなが乗っかれる問いを設定することがスタートになる。急激にメンバーが増えている組織であれば、多くのメンバーの関心が互いを知らないことにあるかもしれない。ものづくりの組織であれば、部門間の意識の差が顕著になり、その違いをどのようにケアしていくかがテーマになることも多い。若い組織であれば、共に達成していきたいことをいかに実現するか?というテーマになる。オフィスづくりは組織全体に関わることなので、テーマを設定しやすいことが最大の特徴なのだと思う。そして組織の課題は相互に結びついていることが多いので、テーマ設定が多少変わっても主要な課題が紐づいてでてくるため、課題設定の正しさよりも、取り組みやすさ、話し合いやすさを重視してまずはスタートを切ること。

 次に、自身の体験を通じて語り合うことだ。何を大切と感じるかは一人一人の体験に由来する。組織イメージが過去のコミュニケーションの蓄積によるように、自身が働く上で大切だと感じるものも本人の体験によるものである。日常のコミュニケーションの中で、本人が持つ経験談にまでたち戻ることは少ないと思われるが、そのひとが何を大切に思っていて、その背景やエピソードを知るとその考えに共感できることも増え、協力もスムーズになる。お互いが違う体験をつんできた人間であることに気づき、話し合えば互いに理解し合える存在であることを確かめる経験は、オフィスづくりの後にも良い関係性として残すことができる。この関係性は、また次の機会に役に立つだろう。

 最後に、語られる空間を残すこと。これから大切にしていきたいことは何か、言葉に残すことが欠かせない。話し合いを通じて何を共有できたのか、新しいオフィスで何を実現したかったのか、言葉がなければ生まれた組織イメージは霧のように散ってしまう。しかし、何を大切にするためにその場をつくりあげたのか、空間と言葉が対になっていると、生み出された意味が簡単には失われなくなる。新しいオフィスができたとき、こういうことを考えてつくったのだよ〜と、メンバーを主語として語られる。日常の中で語られることで、もう一度メンバーの中に組織イメージが形を現れる。中世の教会は彫刻が物語を語り継ぐことをサポートしてきたが、オフィス空間にもその力を宿すことができる。そうして空間を実際に使ってみて、手応えをつかむことで、さらにストーリーが確かなものになっていく。

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オフィスの未来

 組織イメージとオフィス空間が対の関係にあることに気づくと、生命の持つ個体と環境が対の関係にあることの一つの現れとして理解できる。NEOでの活動を通じて、そうしたひとへの理解が深めることができた。今後も少しづつひととオフィスへの理解は深まっていくことだろう。

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