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飛田友宏元教諭が記事の削除を求める裁判(8) 「取材・報道の自由」を脅かす名誉毀損裁判の実態!

 2023年6月3日は土曜日だった。通常の郵便の配達は休みのため、飛田友宏元教諭の代理人の櫻町直樹弁護士から〈横浜市が性暴力教諭の懲戒免職を隠蔽〉の記事(以下、本件記事)の削除を求める仮処分の申立書などが届くとしたら、速達で送られてくると思っていた。

 そこで、同日は在宅のまま過ごした。しかし、夜分になっても速達は届かなかった。

 翌4日未明、コンビニへ買い物に行き、帰宅時にポストをのぞくと、封筒が入っていた。櫻町弁護士からの申立書などはクリックポスト(信書以外の書類や書籍、商品などを送る郵便局のサービス。ポストへ届けられる)で送られてきていたのだ。

 さっそく、私は封筒を開いた。「削除仮処分命令申立書」と証拠の書類が入っていた。

削除仮処分命令申立書(印影にはモザイクをかけた)

「削除仮処分命令申立書」の「権利侵害:名誉毀損について」の項目を読むと、本件記事の以下の記載5つが「債権者(寺澤注:飛田元教諭のこと)の社会的評価を低下させるに足るものであり、名誉毀損が成立する」という。

(1) 性暴力教諭

(2) 飛田教諭は「親に言うな」と口止めするなど、加害児童らをかばっていたという。おかげでイジメは深刻になった。

(3) 5年生のときから飛田先生は二の腕をもんだりとか、体を触るようになった。後ろからおおいかぶさって、耳元で『ハァ、ハァ』と言われたことも何回かある。

(4) 飛田先生が体を触っていたのは、発育のいい女子だけ。ロリコンだったと思う。

(5) A子が飛田先生からセクハラされていた

「権利侵害:名誉毀損について」の項目の冒頭(前項目の部分にはモザイクをかけた)

 確かに、以上の記載5つは飛田元教諭の名誉を毀損するものだ。しかし、それは、飛田元教諭が自分で自分の名誉を損なうことをしたからで、自業自得以外のなにものでもない。

 ところが、日本では、自業自得以外のなにものでもない個人や団体が「名誉毀損」を理由に、報道を差し止めたり、損害賠償を請求したりする裁判を起こすことが許されている。しかも、「超手軽に」だ。

 飛田元教諭の「削除仮処分命令申立書」では、上記の記載5つが「名誉毀損」だとしたうえで、次のように述べている。

「本件記事の真実性等については、債務者(寺澤注:寺澤のこと)において主張立証すべきものである」

「本件記事は真実ではない」とは、ひとことも言っていない。むしろ、本件記事が真実でもかまわないのである。

 日本の名誉毀損裁判では、報道が真実か否かを主張・立証するのは、訴えた側(通常の裁判なら、原告。仮処分なら、債権者)ではなく、訴えられた側(通常の裁判なら、被告。仮処分なら、債務者)とされている。だから、訴えられた側は報道で一目瞭然な事実関係まで改めて裁判で説明しなければならない。

 つまり、日本の名誉毀損裁判は「訴え得」なのだ。報道が真実でも「名誉毀損」で訴えられるから、仮処分なり通常の裁判なり、しかも、それぞれ、地裁、高裁、最高裁と、財力があれば、提起し、継続していける。

 一方、真実を報道しても「名誉毀損」で訴えられた側は、裁判を戦い抜く財力がなければ、敗訴するか、不本意な和解をするしかない。訴えた側の報道の差し止めなどの要求が通ってしまうのである。

 本連載のタイトルにある「『取材・報道の自由』を脅かす名誉毀損裁判の実態!」が、読者にもハッキリと見えてきたのではないだろうか。

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