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飛田友宏元教諭が記事の削除を求める裁判(13) 「取材・報道の自由」を脅かす名誉毀損裁判の実態!

 2023年6月15日13時30分、私は東京地裁立川支部(タイトル画像)に到着した。山下幸夫弁護士とは、1階のロビーで待ち合わせすることとなっていた。

 しかし、第1回審尋の開始時間の5分前、13時55分になっても、山下弁護士が現れない。とりあえず、私はエレベーターで4階の民事第4部へ向かった。

 民事第4部の窓口で、私は「審尋期日呼出状」を提示してから、「山下弁護士は来ていますか」と尋ねた。すると、男性職員が「こちらに来るとか来ないとか電話があって、よくわからないんです」と答えた。そして、私に待合室で待機するよう指示した。

 待合室の長椅子に座り、スマホでメールをチェックすると、山下弁護士からメールが届いていた。本日、山下弁護士が民事第4部へ提出(ファクシミリで送信)した書面がPDFファイルで添付されており、「作業に時間がかかり、立川支部に到着するのが30分以上遅れそうなので、私は電話で参加させてもらうようお願いしています」旨が書かれていた。

 約10分後、先ほどの男性職員が現れ、「山下先生とは、電話でつなぐみたいです」と言い、私をラウンドテーブル法廷へ案内した。

 入廷すると、ラウンドテーブルの奥の真ん中に佐々木麗裁判官、同裁判官の右手側に飛田友宏元教諭の代理人の櫻町直樹弁護士が着席していた。飛田元教諭本人の姿はなかった。

 私は佐々木裁判官の左手側に着席するよう指示された。山下弁護士と電話がつながり、ラウンドテーブル上に設置されたスピーカーから同弁護士の声が聞こえてきた。

 山下弁護士は書面に基づき、「〈横浜市が性暴力教諭の懲戒免職を隠蔽〉の記事が真実でないことの蓋然性は、債権者(飛田元教諭のこと)が主張・立証しなければならない。しかし、債権者はそれをまったくせずに、『記事が真実であることは、債務者(寺澤のこと)が主張・立証しなければならない』と主張している。このような主張自体が失当だから、仮処分の申し立ては直ちに却下されるべきだ」と主張した。

 本連載の第8回で述べたとおり、債権者は仮処分の申立書で、「記事は真実ではない」とは、ひとことも言っていない。記事が真実であることを債務者が裁判で証明するよう主張しているだけだ。

 このような主張が通るなら、記事が真実であっても、裁判を起こすこと自体が目的の裁判を起こすことができる。記事を執筆したり、公開したりした者に対し、金銭的、時間的、精神的負担をかけることで、記事の訂正や削除に応じさせる、つまり、真実を真実でないとさせることが可能になるかもしれないのだ。

 これは、日本国憲法第21条が保障する「取材・報道の自由」の侵害以外のなにものでもない。だからこそ、山下弁護士は「主張自体が失当」「直ちに却下」と語気を強めているわけである。

 ところが、佐々木裁判官は「寺澤さんのほうで、記事は真実であるということを主張・立証していただくのが法律的な整理になる」と言った。山下弁護士は「書面で主張・立証しています」とつけ加えた。本連載の第12回で述べたとおり、私は、記事が真実であることを証明するため、陳述書2通を作成している。

 続いて、佐々木裁判官は櫻町弁護士に発言を促した。櫻町弁護士は「裁判官が『立証責任(記事が真実か否かを主張・立証する責任)は債務者にある』とおっしゃっているので、それでやっていただきたい」と言った。とたん、ラウンドテーブル上のスピーカーから山下弁護士の荒い声が響いた。

「そちらが(記事が真実でないことを)主張・立証しないなら、それでいいです。こちらは(立川支部で記事の削除の命令が出ても、東京高裁に)抗告しますし、最高裁まで争いますから」

 佐々木裁判官が割ってはいり、「記事が真実であるということは、債務者が書面でいちおう主張・立証している。債権者が反証できなければ、債務者の主張が通る可能性がある」として、次回の審尋で債権者が反論するよう求めた。

 櫻町弁護士からは、先行の仮処分(飛田元教諭がnote株式会社を相手どり、〈横浜市が性暴力教諭の懲戒免職を隠蔽〉の記事の削除を求めた仮処分)を取り下げた理由についても発言があった。

「裁判官から『記事の投稿者(執筆・公開者)が(寺澤と)わかっているので、(プロバイダにすぎないnote株式会社に対して、記事の削除の命令を出すには)難がある』と言われたため」

 要するに、そのまま続けても、却下されるのが明白だったから、取り下げたというわけである。

 次回の審尋を6月30日11時から開くことを決め、第1回審尋は約20分間で終了した。

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