記者クラブいらない訴訟、はじまる

 2020年7月28日、塩田康一鹿児島県知事の就任記者会見に参加しようとしたフリーランス4人が、通信社や新聞社、テレビ局の社員の人間バリケードにより、会場へ入ることを阻まれるという取材・報道の自由を侵害する一大事件が発生しました。

 当日、フリーランス側は取材の様子をYouTubeでライブ配信しており、問題の場面も含め、全経過が以下の3本の動画で確認できます。

カメラを止めるな! 7月28日(前編)

カメラを止めるな! 7月28日(中編)

カメラを止めるな! 7月28日(後編)

 フリーランス4人のうちの2人、三宅勝久と寺澤有が原告となり、2023年7月27日、「記者クラブいらない訴訟」を東京地裁に提起しました。

 以下、訴状の全文を公開します(誤字等もママ)。

訴 状

令和5年7月27日

東京地方裁判所民事部 御中

原告訴訟代理人弁護士 山下幸夫

原告 寺澤有
原告 三宅勝久

被告 前田晋吾
被告 久納宏之
被告 一般社団法人共同通信社
代表者代表理事・社長 水谷亨

損害賠償請求事件
 訴訟物の価額 金220万円
 ちょう用印紙額 金1万6000円

請求の趣旨

1 被告らは原告寺澤有に対し、連帯して金110万円及びこれに対する令和2年7月28日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 被告らは原告三宅勝久に対し、連帯して金110万円及びこれに対する令和2年7月28日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに仮執行宣言を求める。

請求の原因

第1 本件事案の概要
 本件は、フリーランスのジャーナリストである原告らが、鹿児島県知事の就任会見を取材する目的で会場の鹿児島県庁の大会議室に入室しようとしたところ、幹事社の被告前田晋吾ら県政記者クラブのメンバーに立ち塞がれて実力で大会議室への入場を拒否され、同知事の取材を妨害されたため、県政記者クラブの幹事社であった被告一般社団法人共同通信社(以下「被告共同通信社」という。)の鹿児島支局支局長の被告前田晋吾(以下「被告前田支局長」という。)と部下の被告久納宏之記者(以下「被告久納記者」という。)、その使用者である同社に対する損害賠償を請求する事案である。

第2 当事者
1 原告ら
(1)原告寺澤有(以下「原告寺澤」という。)は、警察の不正腐敗問題を中心に取材・執筆活動をするフリーのジャーナリストである。
(2)原告三宅勝久(以下「原告三宅」という。)は、多重債務問題、自衛隊内のイジメに関する問題、奨学金ローンに関する問題、不動産会社に関する諸問題、研究不正問題、行政の腐敗問題などを中心に取材・執筆活動をするフリーのジャーナリストである。
2 被告ら
(1)被告前田晋吾
 被告前田支局長は、令和2年7月当時、被告共同通信社の鹿児島支局の支局長であった者である。
(2)被告久納宏之
 被告久納記者は、令和2年7月当時、被告共同通信社の鹿児島支局に所属する記者であった者である。
(3)被告共同通信社
ア 被告共同通信社は、正確公平な内外ニュースを広く提供し、国民の知る権利に応えるとともに国際相互理解の増進に貢献することを目的とし、国内、海外のニュースを国内の主要報道機関、海外メディアに日本語、英語、中国語で配信し、アジアに軸足を置く日本を代表する総合国際通信社である。
イ 被告共同通信社は、被用者である被告前田支局長及び被告久納記者の使用者として、被告前田支局長らが業務において第三者に与えた損害を賠償すべき使用者責任(民法715条)を負う者である。

第3 本件に至る経過について
1 鹿児島県知事選挙と新知事の就任
 任期満了に伴う鹿児島県知事選挙は、令和2年(2020年)7月12日に投票があり、即日開票の結果、無所属新人で前九州経済産業局長の塩田康一氏が、22万2676票を獲得して初当選を果たした。
 塩田氏は、同年7月28日に、鹿児島県知事に就任することになり、同日、就任会見が行われることになった。
2 鹿児島県の県政記者クラブについて
 鹿児島県庁3階には、鹿児島県政記者クラブ「青潮会」がある(以下「青潮会」という。)。
 青潮会の加盟社は14社(南日本新聞、西日本新聞、日本経済新聞、読売新聞、毎日新聞、朝日新聞、南海日日新聞、共同通信、時事通信、NHK、MBC南日本放送(TBS系)、KTS鹿児島テレビ(フジTV系)、KKB鹿児島放送(TV朝日系)、KYT鹿児島テレビ(日テレ系))であり、幹事社は、テレビ、新聞各1社ずつ2ヶ月ローテーションで回している。
3 就任会見当日の就任会見前の状況について
(1)原告ら2名及び訴外有村眞由美(地元出身のフリーランスのジャーナリスト。以下「訴外有村」という。)らのフリーランスのジャーナリストは、同月28日午前に、鹿児島県庁の広報課を訪問し、水溜義仁・報道企画係長との間で、「「(知事記者会見で)我々(フリーランスのジャーナリスト)を排除することはありませんね」といった質問を行ったところ、同職員は「ええ、ありません」と答えた。
 事前に、原告らと広報課との間では、同日の知事就任会見にはフリーランスのジャーナリストも参加してかまわないという話がついていた。
(2)その後、原告らは、鹿児島県庁の庁舎玄関付近に行き、新知事の初登庁の様子の撮影を行った。また、庁舎内の部屋をいくつか移動し、新知事の職員に対する訓示・挨拶等の状況を取材した。これら一連の取材には、鹿児島県県政記者クラブの青潮会会員記者らも参加していたが、その際には、青潮会の会員や県職員からはなんら注意を受けることはなかった。

第4 新知事の就任会見への会見場への入場を拒否された経緯
1 新知事の就任会見は、同日午前11時過ぎから、鹿児島県庁6階大会議室で開かれる予定だった。
2 原告らが、県庁6階の大会議室前のロビーに移動すると、その一角に机を出して鹿児島県の職員らしい女性が受付作業を行っていた。そこで、原告らが、その女性に対して、知事就任会見の取材に来たと述べると、その女性は自身の手元の紙を見た上で、「本日は参加いただくことができません」と答えた。原告三宅が、「知事は、先ほど就任挨拶で『開かれた県政』とおっしゃっていました。ここはぜひ参加させていただきたい」と言って、名刺を差し出した。
3 すると、その脇に立っていた被告久納記者が、「ちょっといいですか」と唐突に話に割り込んできた。原告三宅は、話をしている女性が鹿児島県の職員かどうか確認すると、その女性は鹿児島県の広報課の職員であることが判明した。
 そこで、原告三宅は、その女性に対して 新知事の記者会見の受付を鹿児島県の広報課職員が行っていることを確認した上で、なぜ、就任会見への参加を拒否するのかの理由を聞こうとしたが、被告久納記者はそれを遮った。
 そのため、原告三宅が、被告久納記者に対して、「ここは鹿児島県の庁舎であって、共同通信社ではないでしょう」と述べると、被告久納記者は、「知事記者会見は青潮会の主催であり、青潮会が県職員に受付をお願いしている」と説明した。
4 その後、記者会見開始まで時間があったので、原告ら2名及び訴外有村とフリーランスのジャーナリストと県政記者クラブの幹事社である被告共同通信社の被告久納記者らと話し合うことになった。
 被告久納記者らによれば、新知事の就任会見は青潮会主催であり、同会会員以外の記者が参加するには事前に青潮会に申請して承認を得る必要があり、過去6ヶ月に発表した署名入り記事2本を提示しなければならないと説明した。
 原告らは、こうした主張を青潮会がしているのは聞き及んでいたが、鹿児島県の広報課がフリーランスのジャーナリストの参加を認めているのに、青潮会がさらに参加の可否を決めるというのは不当と考えており、大会議室に入場させてくれるよう何回も繰り返し訴えたが、被告久納記者らは、頑として会見参加を認めようとはしなかった。
 もとより、県知事が県庁舎で記者会見を行う以上、本質的には鹿児島県の事業であり、任意団体にすぎない記者クラブが他の記者の参加の可否に干渉するのは筋違いである旨を被告久納記者らに伝え、記者会見への参加を邪魔しないでほしい旨と再三にわたって訴えたが、被告久納記者らは、青潮会が決めた「ルール」に従わなければ参加させない、との姿勢をいささかも変えようとはしなかった。
5 記者会見の開始時間が迫ってきたので、原告らは被告久納記者らを無視して記者会見が行われる大会議室に入ろうとした。すると、鹿児島県の職員にはそれを制止する者はいなかったが、被告久納記者ら多数の青潮会記者及び応援の青潮会以外の記者らが会場の入口にバリケードを作るようにして立ち並び、原告らが会議室に近づくのを物理的に妨害し始めた。被告前田支局長もそのバリケードに参加した。
 原告寺澤は、被告前田支局長らに対して、「やめてください。」、「取材報道の自由の侵害です。」と何度も抗議したが、その妨害は継続され、結局、原告らは、会見場である大会議室に入ることが物理的に妨害されてできなかった。
 そのため、結局、原告らは、新知事の就任記者会見の会場に入ることができず、取材することができなかった。
6 なお、原告らは、やむなく、別途、知事会見を申し入れて、同日の夕方にようやく短時間の会見取材が実現したが、極めて不十分なものであった。
7 以上の経緯は全てYouTubeでライブ配信しており、上記のやりとりを全て確認することが可能である。

第5 被告らに不法行為が成立すること
1 不法行為が成立すること
(1)前記第4で述べたとおり、被告前田支局長及び被告久納記者らが、原告らが新知事就任会見を行う大会議室へ入室して新知事を取材する行為を妨害した。
 本件会場は、鹿児島県庁の庁舎管理権に服する場所であり、その鹿児島県知事並びに鹿児島県の職員には、フリーランスのジャーナリストの取材を制限する意思がないことを事前に示しており(前記第3,1)、明らかであるし、そもそも、新知事の就任会見という広くオープンに公開されるべき性質の会見であるにもかからず、それを記者クラブである青潮会の内部で勝手に決めた規約等に反するというような理由で、第三者である原告らの取材を妨害することは、憲法21条が保障する報道の自由とそのために認められている取材の自由の保障からして、到底、認められるべきではない。
 したがって、被告前田支局長らの妨害行為は、原告らに憲法上保障された報道の自由、取材の自由を侵害する行為であり、憲法の私人間効力による間接適用により、不法行為(民法709条)が成立するというべきである。
(2)なお、被告久納記者は、この日原告らと同行した訴外有村が事前に新知事の就任会見に参加した旨を申し出た際に、その出席を拒否する回答をしており、フリーランスのジャーナリストを排除する意図が明確である。
2 原告らが受けた損害
(1)精神的損害
 原告らは、被告前田支局長及び被告久納記者による違法な取材妨害により、大会議室で行われた新知事の就任会見に参加できず、新知事に質問することができなかった。同日夕方に短時間の会見が実現したものの、極めて不十分なものであった。
 これにより、著しい精神的苦痛を受けたものであり、それを慰謝するための慰謝料としては、原告1人当たり金100万円を下らない。
(2)弁護士費用
 原告らは、本件訴訟を原告訴訟代理人に委任せざるを得なかったが、相当因果関係が認められる弁護士費用としては原告1人当たり10万円が相当である。
3 合計
 以上から、被告前田支局長及び被告久納記者に不法行為が成立し(民法709条)、その使用者である被告共同通信社には使用者責任が認められるから(民法715条)、被告らは、連帯して(不真正連帯)、原告らに対し、原告1人当たり、合計110万円の賠償義務がある。

第6 結語
 よって、原告らは、被告らに対して、不法行為に基づく損害賠償金として、原告1人当たり金110万円及びこれに対する不法行為の日である令和2年7月28日から支払済みまで民事法定利率年3%の割合による遅延損害金の支払いを求める。

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