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読書感想文における上位入賞の秘訣

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 以前紹介した『考える読書 第65回青少年読書感想文全国コンクール入賞作品集』(2020年04月刊行/全国学校図書館協議会【編】/毎日新聞出版)には、内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞をはじめ、各学年のコンクールを勝ち抜いた入賞作品110作品あまりが収録されています。闇雲に読書感想文の練習を重ねていくよりも、上位入賞作品から学び取ることが上達の近道です。また、下記のように主催者や中央審査委員長による総評も掲載され、そこにも上達のヒントが多くあります。

 「青少年読書感想文コンクールは読書感想文を書くことを目的としていません。本の内容を読み解く力や要約する力、まとめて発表する力などを通して、多様な見方や考え方の育成を目指しています。読書感想文を書く過程で、著者や登場人物の考えをよく読み解いたうえで、批判的な見方や考え方を培い、自分の主張を論理的に述べることができるようになってほしいと願っています。」(公益社団法人全国学校図書館協議会理事長 設楽 敬一 氏)
「いずれも優れた感想文であるが、その中でも高い評価を得る作品には、共通する特徴があるようだ。まず、発達段階に応じた適切な本、しかも質量ともに読み応えのある本に正面から取り組んでいること。また、世の中で人と関わりながら成長してきた自分の感受性を大きく、あるいは細やかに発揮していること。そして、読書を通じて得た感動について深く掘り下げて考え、それを率直に表現していることである。」(中央審査委員長 新井 康之 氏)
素晴らしい感想文は、自分についてばかり語るものでも、本の内容についてばかり語るものでもない。自分と本との間に生まれた感動に目を向け、感じたこと考えたことを語っている。背伸びをすることも格好をつけることもない。読書による成長と自己変革が伝わってくる。」(中央審査委員長 新井 康之 氏)

 まずは上記のポイントをしっかりとおさえたうえで、選書、読書、執筆、そして見直しに臨みましょう。

 続いて、上位入賞作品のうち各部門の内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞のみ公式サイトの<入賞者・作品紹介コーナー>で拝読することができます。著作権は主催者にあることから、こちらでの転載は差し控えさせていただきますので、下のURLより参照ください。

上位入賞作品の特徴

 小学校低学年・中学年の部の上位入賞作品は、「この文章は本当に2年生⁉」と思うほどとてもハイレベルで、小学校高学年の部以上になるとさらにレベルは格段に上がり、まさに大人顔負けの文章でたいへん読みごたえがあります。

 上位入賞作品に共通する点は、本人にとってベストな選書であること、かつ市販されている読書感想文の参考書やネット情報から入手した記入例、定石どおりの書き方を引用せず表現・内容ともにオリジナリティに富んでいます。また、タイトルや本文の書き出しにはインパクトがあり読み手を引き込む展開、感想文を読むなかでその図書の魅力や筆者本人の人間性を感じ取ることができます。

 そして、例えば小学生低学年・中学年が学校や塾では学習していない表現技法(比喩倒置法共感覚法誇張法体言止め反復法など)や語彙を上手く用いていています。

上位入賞者の特徴

 青少年読書感想文全国コンクールの主催の一つが毎日新聞社であることから、都道府県コンクールの特選受賞者や全国コンクールの入賞者の特集記事が、入賞者発表のタイミングに合わせて掲載されます。また内閣総理大臣賞にもなると、週刊誌や教育雑誌などでも特集記事を組まれることがあります。

https://mainichi.jp/ch151130797i/%E9%9D%92%E5%B0%91%E5%B9%B4%E8%AA%AD%E6%9B%B8%E6%84%9F%E6%83%B3%E6%96%87%E5%85%A8%E5%9B%BD%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB

 そうした掲載記事では、受賞した児童の読書習慣や読書感想文執筆時のエピソードや創意工夫、そして家族の関わり方などが記されています。そうした特集記事や作品そのものから、上位入賞者の特徴やその家族の姿が見受けられることから、以下ではそれらを取りまとめて紹介します。

 課題図書、自由図書に限らず、上位入賞者はその図書を読んだ後いきなり感想文を書くことをしません。分からない言葉や興味をもった言葉を辞書で調べたり、疑問に感じたり知的好奇心から図鑑や他の参考図書などを活用して調べます。活字からの情報だけではなく、例えば科学館、博物館、資料館などへ家族で赴き学びを深めることもあります。そうした積み重ねから、学習意欲の高さ、探求心や向上心の高さ、そして努力や家族の関係性が作品からも伝わってくるのです。

 また、読書感想文を一宿題として熟すのではなく、1週間以上かけてじっくりと取り組みます。小学生の場合、親や兄・姉も同じ本を読んだ上で家族で感想を共有したり、時にディベートをして多角的な視点で本を読み解いています。書き終えた後も、数日寝かせて加筆修正、そしてまた数日寝かせて加筆修正といったように、色々な人の協力も得て繰り返し見直しをします。つまり、選書から校正までの工程を家族との協働作業によって進めることで、素晴らしい作品へと仕上げているケースが多いようです。そして読書感想文を強要されているのではなく、本人自らの意志で読書や感想文を書いていること、自身が成長していくことに喜びを感じていることも伝わってきます。

 それから、普段の日常における体験や家族・友人との関係から得た気づきを大切にし、感想文ではそれらの気づきを素材に加え綴っています。単に本の感想を列挙するのではなく、自身の体験を自分の言葉で語り、大人のような固定観念にとらわれず自由な視点、自由な発想を持って唯一無二の感想文に仕上げていることが見て取れます

 次回は、その<体験>についてより深く一緒に考えてみましょう。

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