見出し画像

勉強会な日々 〜デヴィッド・グレーバー著『ブルシット・ジョブ』〜

こんにちは、Zenkigen Labの水坂です。

今回は、普段のZenkigen Labで行われている勉強会の様子を、少し紹介します!

Zenkigen Labには、感性工学や物理学、社会学、心理学など様々な専門を持った研究員が集まっています。普段は「心理的安全性」(第1回&第2回)などのテーマについて、各専門の知見を生かした議論をしていますが、1冊の本を題材に2週間に1回の勉強会をしています。今回はデヴィッド・グレーバーの『ブルシット・ジョブ』の会をダイジェスト版でお届けします!

勉強会ってなに!?

勉強会は、1冊の本をお題に参加者が話し合うイベントです。普段はあまり読まない本を題材にすることで、参加者の専門性が生かされたり、新しい知見が生み出されたりする場になっています。この活動はすぐに会社のプロダクトに繋がったり、何か新しい答えが出たりするものではありません。むしろ参加者の知見を広げ、今後のLab内での議論の方向性が見つかる場を目指しています。
そのためビジネス本や自己啓発本ではなく、社会学や物理学、心理学の専門書を中心に課題図書としています。単に話しやすそう&読みやすそうな本を選ぶというよりも、議論が深まりそうな本を選ぶのがポイントです。今回紹介する『ブルシット・ジョブ』は、文化人類学者のデヴィッド・グレーバーがホワイトワーカーに焦点を当てて書いた本です。

『ブルシット・ジョブ』:なんでこの本が選ばれたの?

Amazonにおける『ブルシット・ジョブ』の紹介には、以下のような文章が付されています。

やりがいを感じないまま働く。ムダで無意味な仕事が増えていく。人の役に立つ仕事だけど給料が低い――それはすべてブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)のせいだった! 職場にひそむ精神的暴力や封建制・労働信仰を分析し、ブルシット・ジョブ蔓延のメカニズムを解明。仕事の「価値」を再考し、週一五時間労働の道筋をつける。『負債論』の著者による解放の書。

そもそもその仕事自体が不毛で不要なものである可能性から問い直す本書は、働き方改革や働くことの意義が繰り返し問い直される現代にぴったりな本でした。選書者も選書理由として、「これまでの労働問題においては、基本的に低賃金労働の問題(シットジョブ)やAIなどによって労働環境が奪われる問題などが議論されてきました。しかし本書は現代的でありかつ深刻なブルシットジョブ(労働現場において不要であるだけでなく、その不要さを取り繕うために自らが必要だと欺瞞的に思い込まなければならない仕事)の増加を取り上げた画期的な本です。人類学や思想史が現代の労働や会社の問題を明らかにする上で、どれほど重要かを実感する意味でも、本書が果たした役割は大きいと思い選書しました」としています。人類学や思想史といった、一見すると仕事とは関係なさそうな学問が、仕事の現場を問い直す鋭い刃を持っていることが、本書を通じて理解できます。少々分厚い本なので、今回は3回(計1ヶ月半)に分けて、勉強会を実施しました。

実際の議論:自分たちの仕事は「ブルシット・ジョブ」なのか?

勉強会の中では、まず自分たちの仕事は「ブルシット・ジョブ」ではないのか、現代の全ての仕事において、一部はブルシット的なものがあるのではないかといった話題が提起されました。現代社会は「自分の仕事が無意味なものだと本人が確信している」(p.6)仕事で溢れかえっている社会だと、グレーバーは分析しています。無意味に肥大化した管理職、誰にも読まれないレポート、仕事がある状態を作るためだけにある仕事(Excelファイルを他のExcelファイルにコピペするだけの仕事など)といった、真に無意味な(そしてしばしば望外に高給な)仕事は、ただ無意味なだけでなく労働者にとって「精神的暴力」(p.99)になります。今回の勉強会は、自分たちの仕事がどのような社会的意味を持っているのかを内省する機会になりました。

他にも、自分たちの仕事を内側から理解することの難しさについても話し合われました。グレーバーのように外から指摘してもらえると、自分たちの仕事がブルシットである可能性に気づけますが、そうでないと基本的には自分たちの仕事を(やや自覚しながらも)美辞麗句を伴って理解してしまいます。「これはきっとサステナブルな未来に繋がっている」とか、「たぶん世界にイノベーションをもたらす」とかです。後ろめたさを感じながら、なかなか気づけない自分たちの仕事の「価値のなさ」を再考するきっかけになるのも、文化人類学の学問的貢献なのかもしれません。

また本書では、COVID-19で顕在化したエッセンシャル・ワーカーの給与の低さの問題(シット・ジョブ問題)も取り上げています。社会的意義があり自己実現に繋がる仕事ほど、そうであるからこそ給与が低くてもいい(裏返すと、ブルシット・ジョブは自分にとっても社会にとっても価値のない苦行だからこそ高給でなければならない)という倒錯した論理が形成されたことを、参加者は本書を通じて学びました。この議論は、社会的価値と給与という資本主義社会では避けては通れない問題を問い直す重要な視点になっています。

このようにZenkigen Labでは、現在のビジネスと直結しなくとも議論すべき価値のある本を読んで、対話を通して理解を深めています。Labのメンバーはそれぞれが専門性を有しているため、一冊の本を議論する中で多様な視点が浮かび上がり、一人で読んでいるときには気づけなかった論点やテーマを学ぶことができます。勉強会の価値は、こうした視点の多様性にもあると思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?