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鎮魂歌を歌おうと思ったけれど

6月はバッグのことばかり考えていた。

事の始まりは4月だった。
現在、私が一番よく使っているバッグは、柔らかい牛革の白いものである。その持ち手にインドのザリ刺繍のホワイトホースのキーホルダーを付けている。2月に購入してから今日までずっとかわいい。

白いバッグは汚れが目立つ。汚れに気づくとレザーケアグッズを使い、ケアをしていた。だけどある日、落ちない汚れがあることに気づいた。小さいけれどまばらに、茶色にも黒にも見える汚れが点々としていた。さらによくよく見ると、汚れではなく傷になっていて色が剥げているようだった。ちょうど傷がある位置はキーホルダーが触れる部分である。私は、キーホルダーがバッグを傷つけていることを知ってしまった。ザリ刺繍の金の縁取りは、金属のモール糸(針金のようなもの)なので、それがバッグを傷つけてしまったようだった。バッグ自体は気に入っていて、買おうと思えば金額的にも在庫的にももう一度購入が可能だった。だけど、私の中ではバッグとキーホルダーはニコイチ(死語)みたいな存在で、バッグをもう一度買って、キーホルダーは付けないという選択肢はなくなっていた。

正直、傷自体はそこまで目立つものではなく、他人から指摘されることはなかった。だけど、バッグが目に入る度に私は気になる。急ぎではないけれど、バッグ探しの旅をぼちぼち始めないといけないなあ。そんな風に考えたときに、今のバッグとキーホルダーが合わさったようなバッグが欲しいと思い、私はムーンプランナーにユニコーンみたいなバッグを見つけたいと書いた。ユニコーンみたいなバッグがどんなものなのかイメージはあまり湧かなかった。キラキラでカラフル。そんな曖昧なイメージだけだった。ただ、そんなバッグは定番品であるわけない。私は、アンテナ感度を高く持つこと、そして見つけたときに購入できるように貯金しておくこと、とりあえずそのふたつを決意した。

5月末、私のアンテナに引っかかるバッグを見つけた。それは、yeeの展示会に自問自答ガールズのあいさん、ちりぺさん、ユキノコさんと行ったときのことだった。展示会のあと、ランチをして、せっかくなのでウインドウショッピングをしましょう!となった。マルジェラに入ったところ、ものすごく惹かれるバッグがあった。だけど、私にとってマルジェラはnot for meなブランドだと思っていたので、せっかくガールズといるのに試してみたいと申し出ることもなく、横目に見るだけだった。

マルジェラと言えば、昨年の「1年3セットの服で生きる」発売記念のあきやさんとムーンプランナーさんのインスタライブが印象に残っている。私はそこで匿名性がコンセプトだということ、無名で生きていきたいと願う人がいることを知った。私はそんなこと考えたことがなかった(むしろその逆に憧れている)ので、マルジェラはご縁がないブランドなのかな〜と思っていた。スキップスキップレディオでマルジェラの映画の話があがったときもキーワードがかすってもこなかった。

しかし、あのバッグは気になる。バッグのことばかり考えていた。何者かになりたい私、特別でいたい私。そういう自分がいることは、自問自答をして見つけていた。だけど、今の私は何者でもない。だけど、私は私である。そう思った瞬間に、何者でもない私を受け入れるために鎮魂歌を歌ってもいいのかもしれない。それだったらあのバッグは最適解かもしれない。ひとつの解が見つかって、ようやく試着をしに行こうと思った。

初めて見たのと同じ店舗へ行く。
店員さんに声をかけて、持たせてもらう。

派手すぎる、ということはなかった。きらきらしていて、見ているだけでうっとりとした。入荷量は日本全体でそう多くはないこと、なくなれば終わりなこと、を教えてもらう。もちろん、理解できる。

思ったよりも似合った。
たぶん買っても買わなくても後悔はあるような気がした。
そしてどちらを選択するか、それがすべて私の手に委ねられている。
不安になった。これが、自己決定権というものなのか。

バッグを買うことを人に相談しない、と決めた。

バッグについて考える。
まずかわいい。見ていて心が安らぐ。
そして、ユニコーンみたいなバッグという言葉が私の中でぴったりと当てはまった。
不安要素としては、カラートーンが思いきりブルベ寄りなので、ふだん着ている服とは相性があまりよくない。とくに先日yeeさんでオーダーした服とは合わない気がした。
もちろん、すべての服とすべてのバッグが合わなくてもよくて、この後に及んで着回しを考えている自分に笑う。そしてyeeさんの服はまだ出来上がってないから合う可能性ももちろんある。出来上がったら着て、もう一度試着に行こう、なんて考えていた。

買うか、買わないかも自己決定だけど、いつ買うかも自分にゆだねられている事実に震えた。誕生日に、記念日に、昇給に、今はひとつも言い訳がない。「ぬののふく」さえ装備をしていないような自分で、とても不安な気持ちになったけれど、この不安を受け止めて購入をすることが必要なんだな、と思った。

そう思っていたら、人生で初めて、火のないところに煙をたてられていたことを知った。そのありもしない噂が流れていたのは昨年の秋のことで、当時の私はまったく知らなかったんだけれど、最近そういう噂が流れていたことを知ってしまった。噂の内容は、ぼんやり書くと、私が不正にお金を手に入れているのではないか、ということだった。そんなふうに思われていたことが本当に腹立たしくて、自分のお金でいいバッグを買ってやるんだ、という気持ちが大きくなってきた。

今、振り返るとこの辺りから、鎮魂歌を歌うことよりもバッグを買うことが自分の中でフォーカスされつつあった。

そして、社内での昇級が決まり、ボーナスの日程も出た。昇級する前のボーナスをもらう前の、ただの私の状態で買いたい気持ちが大きくなった。そんなときに、7月3日が山羊座満月だと気づいた。私は山羊座なので、一つの集大成として、この日までに買うのも悪くないな、なんて思い始めた。思い切りぶれているよ!!!

もう一度、試着をしに行く。やっぱりかわいい。
気持ちはもう固まった。
買って後悔することもあると思うけれど、その後悔込みで「買う」という選択をしたい、買ってみてわかることを体験したい。
そう決意した。

ただ、有難いことに忙しく、なかなかバッグを買いに行く時間がとれなかった。そして、私は牧野植物園に行った。

そして、この帰りのバス停で「何者かになりたい」と思ったときに、バッグ買うのやめよ~と思った。鎮魂歌も素敵だけど、私は私を認めてあげられたときに、素敵なバッグを買ってあげたい。もしかしたら、あとで買うかもしれない。だけど、今の私には、たぶん必要ない。

だけど初めてバッグと真剣に向き合い、自己決定権をリアルに実感し、成長できたと思う。買わなくても、こんなに成長できるなんて、ファッションはすごい!

いつかバッグを買ったときに書こうかと思っていたんだけど、あきやさんのtwitterを読んで、買わない選択をした私を残しておきたいなと思って書いてみた。素敵なバッグを見つけたけれど買わなかった、というだけの話なのにおよそ3000字になっているので書いてよかったなと震えている。笑

とりあえず、バッグの傷は気になるので、何か傷つかない素材のバッグにキーホルダーを付け替えられたらなーとは思っている。あとユニコーンみたいなバッグを深掘りしていく必要があるね。

最後に、私が惹かれたバッグをご紹介して終わりにする。

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