新しい匂い




父と母は何年か前に別れていて、
でも同じ県に住んでいて、
それぞれを久しぶりに訪ねた。


父は新しい車を買っていて、
家族全員で乗っていた愛車がとうとう
なくなってしまうのかと思うと
少し寂しかったが、
昔の私ほど失くなるものに対して刹那的な思いや執着は出てこなかった。

新車にいざ乗ってみると、
すごく乗り心地がよくて、シートがあったかくて、とにかくしんとした明るい感じがして、
新しいほうが好きだと思った。そしてそれを伝えた。
そんな私に自分で驚いた。



母は私たち娘を連れて逃げこんだ仮の住まい
(とは言ってもなんだかんだで10年弱住んだ)を手放して、ついに一人暮らしを始めていた。
お気に入りの家具を揃えて、
物たちの帰る場所をきちんと決めて、
キャラクターのグッズがちょっぴり飾ってある部屋をひとつずつ嬉しそうに案内してくれた。

自分が育った歴史のある家でいつまでも迎えてくれるような「実家」は私にはもうないかもしれないけれど、
母の一人暮らしの家に泊まりに行くなんて、
女友達の家に行く感じがして、
なんとなく嬉しかった。
なんでも揃ってて、独特な安心感のある、女子だけのあの感じ。
前の家よりも、母の新しい家は、しんとしてて、明るくて、好きだと思った。
そしてまた、それを伝えた。


何もかもに永遠なんてものはなくて、
心なんて置いてけぼりで変わってしまうもの
だらけだけれど、
何かが終われば、必ず何かが始まる。

その新しいものは、誰かを出迎える余地を含んでいる。
私はそんな匂いを好きになれた。
少し大人になった自分をちょっぴり誇らしく思った。



もうすぐ冬が佳境を迎える。
冬の外の匂いも、どこか新しいものを感じる。澄んでいて、しんとしている。


もうすぐ今年が終わる。
新しい年は、何かを連れてきてくれる。
そんな匂いを、全身で感じている。

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