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別れ際、私が必ずすること。

ある日、母からこう言われた。
「優雨、いつも出かけるときに振り返らないで歩くでしょう。あれ、送り出す方はちょっと寂しいんだ」
頭にハテナマークが浮かんだ。それを察してか、母はこう続けた。
「1回だけでも振り返ってバイバイって手を振るだけでも違うものなんだよ」と。

衝撃だった。少なくとも私にとっては。言われてみれば、母は出かけるときに必ず一度振り返って手を振っていた。
「確かに、振り返って何かある訳じゃないんだけどね。でも“振り返る”って動作が一つ入るだけでこちら側も安心するんだよ」

母はそれからしばらくして、「毎回律儀に振り返らなくてもいいよ」と私に言った。母からすれば、もう大人になった私にそこまでの心配をしなくなったということなのだろう。それでも私は、別れ際に振り返って手を振る。相手が誰であってもそれは変わらない。
その人と目が合うこともあれば、振り返った私が去っていく相手の背中を見送ることもある。一度も目が合わないと少し切なくなるのだ。昔の母もそう思っていたのかもしれない。

私はいつも、別れ際に振り返る。胸元に手を持ってきて、バイバイと振る準備をして。
どうか相手が振り返ってくれますようにと願いながら。

#大切にしている教え

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