見出し画像

れいゆ大學④② ディズニーランドの夢と魔法は現実か

「東京ディズニーランドは渋谷にあればもっと良い」と、彼女は言った。


バブル崩壊から現在に至るまで日本社会の矛盾のリアル、それは悪徳や悲劇も内包し、東京都心に象徴される。アングラ文化の匂いを残す新宿、無秩序の中で発展する池袋、テレビ局や電波塔が建つ六本木麻布などがある中で、渋谷という街は、ヤンキーの喧嘩も外国人の不法滞在も女子高生の援助交際もそして散乱するゴミさえも、ポップにカラフルにまぶされるという異色の都市である。それは谷間に形成された街だからというアースダイバー的理由もあるが、宗教的な構造がその土地の雰囲気を醸造していく様子は、日本的なリアルだ。ポップとは正義や安心のことではなく、世界の示され方の問題なのである。そうした渋谷の真ん中に、東京ディズニーランドがあればいいと彼女は言うのだ。

彼女が憂鬱そうな顔で口ずさむそうしたアイディアは、まさしく絶望からの再生にともなう思想であり、ウォルト・ディズニーの哲学とはまるで正反対だ。非現実と現実が混ざり合う地平に真理を見出そうとする彼女に対して、ウォルトは極めてアメリカ人的に非現実と現実を完全に分断する。彼は世界中のディズニーランド、ディズニーシー、ディズニーワールドを外界から遮断している。それらは施設の周囲に広がる現実の街並みを想起させないような造りになっていて、海沿いや田舎といった視界的に都市部から切り離される立地を選んでいる。ミッキーマウスたちも異世界の住人として漫画映画のキャラクターを完璧に演じる。ディズニー社の価値観は徹底され、ときには客の服装にさえルールを敷き、そのように夢と魔法の国が厳しければ厳しいほど、その相対効果によりユニバーサルスタジオジャパンに目立ちたがりのバカが湧く。独立国家ディズニーランドでは、絶え間ない企業努力と観客の積極的協力がそこにファンタジーを維持させている。

しかし彼女はさらに、東京ディズニーランドが外から見えてしまう場所がわずかにあるなどと口走る。非現実と現実が意図せず繋がって、資本主義によるファンタジーが漏れ出してしまっている瞬間は、ディズニーランドの内側に正式に入園するよりもある意味では重要な現象だとまで言うのである。もはや彼女は闇のフィクサーのようであり、素直になりたいがゆえの悪魔的態度を際立たせる。ますます彼女とウォルトの価値観は真逆である。彼女は決して悪趣味的にミッキーマウスの着ぐるみを脱がせようとしているわけではない。ただ、シンデレラ城をいつか白日のもとに反転させたいのである。


さて、我が国のディズニーランドは、千葉県浦安市の埋め立て地、舞浜に存在する。

千葉の先端であり、旧江戸川を挟んで東京の向かい側にある浦安は、かつてアサリやハマグリの漁場として栄えた。漁師たちは裕福で大きな家を構え、そのあたりに住む住民も貝類による豊富なビタミンによって健康な食生活を享受していた。

しかし、1958年(昭和33年)、江戸川沿いの製紙工場の汚染水によって海は汚れてしまった。漁師たちは役所に抗議したが、国は環境保全より新興の経済を優先し、浦安の海は黒く濁るばかりだった。ついに漁師たちは工場に乗り込んだが、革命に敗北し、彼らはやむなく漁場復活を諦めた。

やがて千葉県は東京湾を埋め立て、舞浜という地域が生まれた。漁師たちには新しい仕事などが紹介された。舞浜の土地は安い値段で売却され、そこで浮かび上がったのがディズニーランドの誘致だった。

東京ディズニーランドは、その名に堂々と偽りを含みながらも、浦安に富をもたらした。土地の伝統や自然産業が滅んだところで、本来は縁もゆかりもなかったディズニーの世界と融合し、復活したのである。考えてみれば「シンデレラ」「くまのプーさん」「ピノキオ」「ピーターパン」などほとんどの物語およびキャラクターはウォルト・ディズニーが創造したものではない。ディズニーカンパニーは国連をも凌ぐほどに、世界を所有しながら統合していくというのか。

世界が再定義されていく際には、創世以上の矛盾を含んでいく。良いことと悪いことはつねに裏表である。東京ディズニーランドも例外に漏れない。日本政府が高度経済成長の折、製紙工場の肩を持ち、公害による環境汚染を野放しにしたことにより、夢と魔法の国は生まれたのだ。海の向こうからミッキーたちが蒸気船ウィリーに乗ってやってきた。ふんふふん、ふんふふんと、鼻歌うたい、ステップ踏みながら舵を廻す。では、アサリを獲っていた漁師たちはどこへ行ったのか。やさぐれて、フック船長になってしまったのだろうか。

そんな負の歴史と繁栄のどちらをも持つ浦安市は、少子化対策として精子と卵子の凍結保存に力を入れているという。かつて「製紙」工場の汚染水によって海が滅び、ディズニーランドで栄えたあとは「精子」を凍結しているのである。製紙から精子へ。アサリ、ハマグリ。貝は海の中で、魚たちと同じようにセックスをし、種の保存を続けている。

ああ、ミッキーマウスは現実のネズミなんだろうか。彼も宇宙開闢以来の生命の歴史につらなるんだろうか。あるいは彼のご先祖様はノアの方舟に選ばれたネズミだったんだろうか。それともミッキーマウスはクローンなのか、バーチャルなのか。


1945年、ロサンゼルスの下水道でミッキーのやつ、ベイクドチーズケーキを食べていた。マンホールのフタを開けて、見上げた空。どうやら戦争が終わったらしい。

だけど、考えてもみてくれよ。どだいアメリカという国家は、インディアンを虐殺し、アフリカンを奴隷にし、ハワイを侵略し、アラスカを侵略し、イスラエルの軍事を補い、世界中の戦争に関わり、そして日本を51番目の州のように扱う。ロスチャイルド、ロックフェラー、マクドナルド、マイクロソフト、フェイスブック、ケネディ、ブッシュ、トランプ、CIA、FBI、NASA、フリーメイソン…。

アメリカは世界だろうか。ミッキーマウスはアメリカだろうか。ディズニーランドの非現実は現実だろうか。神の啓示のようにアイドルはつぶやく。「僕はアメリカではない」


さて、いよいよ闘うミッキーマウスなんだナ。世界の行く末を決めるビルダーバーグ会議に乗り込んで、魔法のステッキふりかざし、世界を支配するイルミナティの奴らを宇宙まで飛ばしちゃおう!

偽りの自由を謳う自由の女神像はロケットで、コックピットでDJだ。被虐の歴史から生まれた素晴らしいアメリカ音楽。

子供たちが聞くだろう。"What's this music?"
ミッキーマウスは答える。"it's Jazz!"

そして宇宙空間に飛翔する。蒼き美しき地球。仮定された我が故郷。人類のすべてが間違いだった。これですべてが嘘になる。

いっつ・あ・すもーる・わーるど。ブラックホールにコカ・コーラの空き缶捨てて、夕方までには帰ってくるよ。チュー。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?