千葉ロッテマリーンズ 岡田幸文選手の引退に添えて

広島の新井貴浩、巨人の杉内俊哉、中日の岩瀬仁紀・荒木雅博・浅尾拓也、埼玉西武の松井稼頭央。プロ野球界を牽引してきた、そうそうたる顔ぶれだが、これらは全て今季で引退を表明している選手たちだ。

今季限りでの引退を表明した選手の中で、情報を聞いたとき、思わず「マジで⁉」と、一人暮らしの誰もいない部屋で声を上げてしまった選手がいる。

千葉ロッテマリーンズの岡田幸文だ。

岡田は2008年に育成枠で指名を受け、マリーンズに入団。1年目のシーズンの3月末に支配下登録され、2年目からは1軍で活躍した。2010年の日本シリーズ第7戦で、中日ドラゴンズの浅尾拓也から放った、日本一を決めるタイムリースリーベースヒットは、マリーンズファンのみならず、多くの野球ファンの心に刻まれているはずだ。

彼を語る上で欠かせないのはその守備力。打球判断の良さ、一歩目のスタート、思い切りのいい飛び込み。そして、それらを存分に生かす脚力。彼にしかできないプレーで何本ものヒットを奪い取り、その度に打者を落胆させた。

当時、MLBのシアトル・マリナーズではイチローが活躍していた。その驚異的な守備力と「51」という背番号から、マリナーズの本拠地「セーフコ・フィールド」のライトは「エリア51」と呼ばれた。この「エリア51」は、元々アメリカの空軍基地の俗称である。エリア51は厳重な警備で知られており、そのイメージがイチローの守備と重なったのだろう。

そんな偉大なイチローになぞらえて、いつしかマリンスタジアムのセンターは「エリア66」と呼ばれるようになった。


そんな岡田に、自分を重ねた。

高校で野球部に所属していた私は、体が小さく、とにかく非力だった。同じポジションには、1年生の頃からレギュラーで活躍していた同級生もおり、なかなか試合に出れない日々が続く。そんな自分に、何が出来るのか。それを教えてくれたのが岡田だった。

長打が打てなくても、打席で粘りを見せ、バントは確実に決める。ヒットが打てなくても、「それでも使いたい」と指導者に思わせるだけの守備をする。岡田のプレースタイルは、私に選手としての「生き方」を教えてくれた。

その結果、練習試合では使ってもらう機会が増えたが、結局3年間公式戦には一度も出場していない。それでも、沢山考えて練習した経験は、今とても役に立っている。試合に出るだけが野球じゃない、ということも学んだ。


そんな岡田もここ2年は苦しんだ。昨季は40打席に立つが、結局ヒットが1本も出ないままシーズンを終えた。今季もここまで無安打。そんな状況が、決断に踏み切る要因になったのかもしれない。

マリーンズの今季残り試合は14。最後にもう一本だけ、岡田のヒットが見たい。彼らしい内野安打でも、らしくない本塁打でもいい。ただ、もう一度だけ、塁上でライトスタンドに向けて手を掲げる彼を見たい。

打てよ力強く 放て鋭い打球
岡田走り抜け 風よりも速く
ラララ… 熱くハートを燃やせ
鋭く振り抜け 守備も魅せてくれ
さあ走り出せ岡田

「記録よりも記憶に残る選手」なんて表現じゃ軽いくらい、自分の記憶に彼のプレーは深く刻まれている。10年間お疲れさまでした。ありがとう。

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