9話 ルルカールの本質

しかし、驚くことにルルカールの心はさして動かなかった。

事実ルルカールは幼なじみのデコを殺してしまった。

また事実、ルルカールは自分がどうして変わってしまったのか、どのような姿に変わってしまったのかを知らない。
そして自分の身にそのような不思議が起こったことに驚いているのも事実。

だけど、ルルカールは驚いていながら、心を乱さなかった。

「驚きっていうのは僕は感情に含まれないと思うんだ。」
「驚きっていうのは泣いたり笑ったり喜んだりするのとは別の動きであって、
例えば『忘れる』なんてことと似ていると思う。」
「忘れるってことは脳みそから何かしらの情報が抜けてしまうことを言うわけだけど、それは脳みその動きであってあくまで心の動きじゃないと思うんだ。」
「そんなふうに考えると驚くってことも、心というよりかは脳みその側な気がしてこない?」
「つまりこれは脳みそと心を二つに分けて捉えてる。脳みそがきっかけで、心はその結果。」
「で、ルルカールにおいてはいくらきっかけがあってもそれに対する結果が出てこないんだね笑」

なんて、チーズケーキを食べながらデコは言いそうだと、この期に及んでルルカールは妄想していた。

つまり、ルルカールの心は壊れていた。
普通はクマたちにも気持ちがあって、もちろん泣いたり笑ったりしている。
内部の込み上げるものを表出してそれを発散と呼ぶ。

人もクマも植物も皆それぞれ身体というテリトリーがあってそれを超えた身体の外(これはいわゆる体内と体外。自分と世界の考え方です。)に身体内のものを表出することが生体の仕組みの中に組み込まれている。

だけど、ルルカールの場合、情報を体外に表出しない。

それはある種生体としての仕組みから逸脱していた。

だからこそ、結論で言えば、ルルカールは生物としての欠陥だった。

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