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あの春の日の煌めき

中学一年生の春、毎日見ている黒目川という浅い川の中で「人が死んでいる」という話で持ちきりになった。

ちなみに東京のあの目黒川とは別物。黒目川(くろめがわ)である。


八人の仲良しグループのなかの誰かが言い出して、わたしたちはその話題の虜となっていた。
第一発見者があまりに神妙な顔つきで話すので、そんなわけないと思いながら本当に人が死んでいるのではないかと怖くなり始めていた。


怖がるのはダサいと思って、精一杯強がっておちゃらけてみたりしていたような気がする。
一方で、そんな大ニュースを発見したらテレビに取材されて一躍人気者になってしまう、なんて不謹慎なことも考えていた。



帰り道にみんなで確かめに行こうという話になり、興奮を抑えながら陣形を組んで現場へと向かった。


黒目川に着いてすぐにそんな期待は打ち砕かれた。
「人が死んでいる」とされていたのはただのワイシャツだったのだ。どこからか飛んできた誰かのワイシャツが岩に引っかかって、角度によっては奇跡的に人のように見えたのだ。
そういえば前日は強風が吹いていたような気がする。



真剣に報告してきた友達や、それについて半日は盛り上がっていた自分たちがどうも可笑しくてみんなで笑い転げた。

それから仲良しだった八人グループはなんとなくバラバラに分かれたりして疎遠になってしまったが、
大笑いしたあの春の日のことをめちゃくちゃ覚えている。



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名作とされている「スタンド・バイ・ミー」の良さが一向にわからなかった。

ふと、あの春の日のことを考えていると、くだらないことが自分たちにとっては大事件で、狭い世界のなかで一喜一憂していた日々を思い出した。


スタンド・バイ・ミーを観たときには、そんな大切な思い出とつなぎ合わせる感性を持ち合わせていなかったけれど、
この作品が広く愛されているのはそういうところにあるのかもしれないと思った。



通学路から見える黒目川は浅くて底が石でゴロゴロしているので、水の流れに動きが出て日光に当たると煌々と輝く。

わたしの大切な青春の思い出のなかにはいつも、あの煌めく黒目川が存在している。



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