第3話 理想は高い方がいいけれど、高すぎも考え物

この回のあらすじ…

 この日。マスターの経営するカフェはお休み。しかし、店内では従業員のタカシが課題をこなしていた。というのも、単位がギリギリになってしまっていたタカシは、休日の店内を使い課題を消化していた。
 課題そのものは完成していたものの、クオリティーにこだわりすぎるあまりに、提出するのが遅れてしまっているようだった。そんなタカシにマスターがやんわりと語り始めます。

「のぉぉっ。課題が終わらねぇ~~」
 休日の店内を使い、タカシは課題に頭を悩ませていた。レポート用紙を眺めながら、あれやこれやと考えをめくらせながら、文字を消しては書き、消しては書きを繰り返していた。
 そこまでレポートの枚数はないものの、あれやこれやと頼まれごとをすることが多かったタカシは、提出するべき課題も次第に溜まってしまう。八方美人な性格が尾を引いた形になっていた。
「もう、提出してもいいんだけど…」
「なんか、気になるんだよなぁ~」
 あれやこれやと考えながらも、少しずつ着々と課題はこなせているものの、いちいち要領を得ず、先に進んでいる様子がない。そんなタカシの元へマスターがコーヒーを持ちながらやってくる。

「コーヒーでも飲みながらやったらどうだい?」
「あっ。マスター…ありがとうございます。」
「袋小路に入っているようだね。タカシくん」
「はい。どうしても、気になってしまって……」
「ふふっ。タカシくんらしい。」
「そうです…ね。」
 悩みこんだタカシのテーブルにあるレポート紙を眺めたマスターは、タカシが何に悩んでいるのかを察してしまう。
「私も、メニューを考えるときは悩むものだよ。」
「マスターもですか。」
「でも、私の悩むとタカシくんの悩むのは、どこか違うようだね。」
「ええっ。そうなんですか?」
 クスクスと笑いながらも、マスターはタカシを助言するように言葉を紡いでいく…

 タカシはクスクスと笑っているマスターにムッとしてしまう。
「ど、どうして笑っちゃうんですか…」
「いやっ、ごめんよ。あざ笑っているとかそういうことではないんだよ。」
「じゃ、じゃぁ。どうして……」
「それはね……」
 マスターは笑ってしまった理由を、順序だてて説明する。
「タカシくんは、こだわってしまうんだよね。私と同じで、私が豆にこだわるように、レポートの文字にまでこだわってしまう。」
「はい、そうなんですよ…気になってしまって…」
「その結果、先に進まなくなるんだろう?」
「はい! そうなんですよ!!」
 まるで、もう一人の自分を見るように、優し気な瞳をしながら、マスターは言葉を続ける。
「煮詰まってしまって、こってり濃厚なコーヒーができてしまうのさ。そして、どうしてできないんだろう。と悩んでしまう。」
「そうなんですよねぇ~」
 がっくりと肩を落とすタカシに、さらに言葉を続けるマスター…
「少しだけ肩を抜いてはどうだろう。タカシくん…」
「それで、クオリティーを落とすんですか?」
「いや。‘妥協’かな。この場合は…」
「妥協…ですか…」
「あぁ。手を抜くまでにはいかないほどの、些細な妥協は必要になってくるとは思うよ。特に、タカシくんのように煮詰まっている場合は…」
 少しだけの妥協と努力をすることで、マスターはいろいろと昇華させてきていた。そのことを、タカシへ向けて諭すように勧める。
「程よく妥協をして、肩の力を抜いて考えた方が、新たな刺激が入ってくる隙がなくなるからね。」
「新しい刺激…ですか…」
「そうさ。レポートに必要なものが、入ってくる隙もなくなってしまったりするもんさ。」
 凝り固まってしまう思考回路よりも、柔軟な思考回路のままで、新たな刺激と変化を求めていきたいと思っていたマスター…

「課題を提出しなければいけなくて、成績にかかわるものだから、こだわりたいのもわかるけれどもね。」
「程よく、いい意味で‘手を抜く’ことや‘妥協’も必要になってくるものだよ」
「そう…なんですね…」
 クスクスと笑いながらも、袋小路に入っていたころを懐かしむようにして、タカシに…としたのだった。
「まぁ。もう少しすれば、出来るのだろう?」
「あ、はい。実は…」
 そういうと、申し訳なさそうに、レポートの山を出して……
「これくらいあります…」
「お、おぅ。ほどほどにね…」
「は、はい。」
 レポートの山を見て驚いたマスターは、呆れて言葉も出なかったのだった。

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