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第6話 記録と記憶。それは、過去が礎となり人となりを築く。

この回のあらすじ…

 部活を頼まれることの多いタカシ。その部活のスローガンに記憶より記録というものがあった。そこで悩んでしまうタカシ。記録も重要だけど、記憶にも残ってほしいと思うタカシ。そんな微妙なせめぎ合いをしているようです。

 マスターの指摘から、八方美人っぷりを治そうと努力をしていたものの、なかなか都合のいいメンバーとしか、見てくれていない様子に悩んでいた。いっそのこと、このまま都合のいいメンバーとして…と考えてもいたものの、どこかひとつの部活に腰を据えてとの考えもあったため、悶々と悩んでしまっていた。
「タカシくんはどうも、八方美人気質がどうしてもイメージとして残っちゃっているんだろうね。」
「本当ですよ~。俺は、どこかひとつの部活に…って思ってるんですけど…。なかなかそうもいかなくて……」
「なるほどねぇ……」
「この前なんて、完全に欠員要員でしたから…はぁ……」
「あらら。」
 数日前のマスターとの会話で、八方美人を脱しようといろいろと挑戦しているタカシ。自分からも、この部活だけに…と言ったりみてはいたものの、離れてしまったりと、いろいろ考えさせられる場面が続いていた。
「もう、どうしたら…いいんだよぉ…」
「タカシくんも、試練のようだね。きっと乗り越えられるよ。」
「そうだと…いいんですが……」
 頭を抱えながら悩むさまは、心の成長と周囲の変化という目まぐるしい荒波にあらがっているのを物語っていた。

「記憶より記録。この言葉を聞いたことがあるかね? タカシくん…」
「あっ。それ、部室に飾ってありましたよ。そのスローガン。」
「だね、運動部の場合は、このスローガンを掲げている部活は多いだろうからね。主に‘記録を残す’部活はね。」
「そう、ですよね。俺の場合は、記録も大事だけど、記憶も覚えてほしくて…」
「ふふっ。そうかもしれないね。」
 部活の内容によって、記憶に残る活躍よりも、記録に残る活躍を求められることも多くある。まして、タカシくんはそのどちらでもそれなりに活躍できるため、より厄介な現象に陥ってしまっていた。
「タカシくんは、基本的になんでもできちゃう、万能選手なんだよ。教えられれば、すっとできてしまうし体の使い方もうまい。」
「そんなぁ~」
 思わずタカシは謙遜してしまうも、マスターは話を続ける。
「どちらかに偏っている場合なら、引っ張りだこにはならなかったろうけど、万能選手だからね。引く手あまたなのさ。」
「つまり…できすぎちゃうと…」
 万能という言葉に、思わずにやっとしてしまうタカシ。この万能という言葉は非常に便利ではあるものの、万能ほど孤独になってしまいかねない可能性をはらんでいる。
「ふふふっ。そんな顔になる気持ちも、よくわかるよ。タカシくん。」
「ええっ? だめなんですか?」
「万能と言えば聞こえはいいが、その実。そこまで万能でもないんだよ。結構、苦労もするし。」
「そうなんですよね…」
 タカシは悩みながら答えを出していく。それを見守るべく、マスターはあえて答えを紡がない。

「タカシくんがこれから経験することは、きっとタカシくんの礎になって、新たな価値観おも生んでいくことになるのさ。」
「それが、タカシくんのひととなりを作り、人格を作っていくことになるものなのさ。」
 大学生のタカシは、今こうしてマスターのカフェでバイトをしながらも、大学に通い社会人としても活動している。
 そのため、ある意味で言えば、大学生と社会人を同時に経験しているようなものである。
「人となりを語る上で、過去は外せない。何しろ、その人を作ってる構成要素のひとつだからね。」
「確かに、そうかもしれませんね。」
「学生の時の経験が後から生きて来て、自分を進む方向を指し締めてくれたりもするからね。苦労は買ってでも、というように…」
「うぐっ。で、ですね…まして、何でもかんでも受けたのは、俺だから…」
「そうだね。」
 自業自得と言えばそれまでだったものの、この経験がタカシの糧になって新たな性格や人格の礎になることを祈っていたマスターだった。

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