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第24話 興味と葛藤Ⅱ

 よほど気に入ったのか、みやびは猫耳カチューシャをつけたままあさひと行動していた。
「それ、気に入った?」
「うん。かわいいから……」
 保護団体のイベントで子猫に触れあったあさひとみやびは、その子猫に引っかかれるも、その傷は猫のヒゲのような傷になった。そこまで深い傷ではなかったこともあり、薬を付ければすぐに治りそうな傷だったが、その様子があまりにもかわいかったこともあり、あさひは猫耳をみやびにプレゼントしていた。
 プレゼントされた猫耳を気に入ったみやびは、頬に薬を塗った後もその猫耳をつけたままあさひと行動を共にしていた。そして、心なしか、あさひとみやびの心の距離が縮んだようだった。
「これから、どうする?」
「ちょっと、休憩したい……」
 普段から口数は少ないみやびだったが、今日はいつにもましてぼそぼそと話すようになっていた。
『……どうしよう、顔がにやけちゃう……』
 あさひと笑いあったことで、それまでになかった感情がみやびの中に生まれていた。ほんのりと暖かく、心地よいその感覚は、彼氏彼女のワクワクドキドキといった感覚ではなく、ずっと一緒にいたいという大人の恋に近い感情だった。
 その感情をどう言葉に表していいのかわからず、戸惑っていたみやびはいつにもましてぼそぼそと話すようになってしまっていた。
『落ち着いて、いつものように接すればいいの……』
「はい。お待たせ」
 イートインスペースから、アイスクリームを買ってきたあさひは、片方をみやびに渡す。並んで座った2人は、休日ということもあり、人でにぎわっているモールの人の流れを眺めていた……
「こんな感じのデートでよかったの?」
「ん?デート?」
「いや、デートするって……」
「あぁ、確かにデートかもね。こうして2人で並んで座ってるなんて、なかなかないから……」
「相変わらず、みやびはみやびだよなぁ……」
「ん?どういうこと?」
「何というか、ブレないというか……、自分があるというか……」
「そう?ふつうだと思うけど……」
 それまでのみやびとは、明らかに異なっていた。
 隣り合わせで座るあさひとみやびは、明らかに普段よりは距離が近かった。肩が触れるほどに近い距離は、明らかに『ふつう』とは異なっていた……
 そして、何気ない会話をしていると、みやびはあさひの頬にあるものが付いてることに気が付く……
『……どうする?あれ。カップルなら、どう取ってあげるのが正解?』
 あさひの頬には、しっかりとソフトクリームが付いていて、あさひも気が付いていない様子だった。
 みやびにとっては、ここまでカップルらしいことを1つもしていないことには気が付いてた。しかし、何をしていいのかわからないのもあった。
 しかし、これほど、わかりやすいカップルイベントもない。さすがのみやびでもこれには気が付いた。
『……』
 みやびの頭の中では、色々な方法が浮かんでは消えていった……例えば……

『ほら、付いてる……』
と言って、ハンカチを出す方法。そのほかにも、
『あさひ。アイス……』
と言って、指で取る方法。といくつかの方法は頭に浮かんだが、みやびは思い切った行動をとることにする。

『よし!』
 心の中で気合を入れたみやびは、横に座るあさひの方に顔を向けると……
「ん~~」
ぺろっ。
 それは普段のみやびなら、絶対に選ばない選択肢だった。
 頬に感じた生暖かい感触に、あさひはびっくりしてみやびの方を向く。そこには、舌にアイスの付いたみやびが、ぺろっとしていた。
「え、えっ?」
 突然の出来事に、思考回路が停止するあさひ。それは、みやびも同じだった……
『こ、これからどうすれば……』
 デートを意識したみやびだったが、浮足立っていたこともあり、後のことを全く考えていなかった……。
 そして、絞り出したのが……
「に、にゃぁ~~」
 みやびの頭の中では、それが精いっぱいだった。猫耳もつけているし、舐めても不自然じゃないと考えたみやびは、猫マネという答えに行き着いた。
「ふ、はっ。ははははは」
「…………」
 精一杯考えたみやびの行動は、見事にあさひを笑わす結果を導いていた。
 完全に慣れないことをしたみやびは、我に返ってより恥ずかしくなる……
『何てことをしたの、私は……』
 よくよく考えたみやびは、ぺろっとするより指で取ってあげたほうが、よりカップルらしかった事に後から気が付く。
『なんで、舐めるほうを選んだんだろう……』
『他にも、方法があったのに……』
 考えれば考えるほどに、より恥ずかしい行為をしてい事に気が付き、考えれば考えるほど『恥ずかしい』の一点だった。

 それから、定番のデートスポットでもある見晴らしのいい展望台へと向かい、あさひとみやびは微妙な距離のまま歩いていた。
 みやびは、自分が思い切った行動をしてしまっていたことが、いまだに頭から離れなかった。それは、あさひの後ろをついていくうつむき加減のみやびの脳内を支配していた。
『あぁ。あの瞬間に帰って、あの時の私を止めたい……』
 文系の部活で、作家としても活動しているみやびにとって、数分前の自分の行動は頭の中を駆け巡っていた。あさひの頬を舐めた時の舌の感触、顔を近づけたときのあさひの匂い。そして、あさひの驚いた表情と思春期のみやびの頭の中はいっぱいだった。
 それは、自然と態度にも出て、恥ずかしさのあまりにうつむいて歩いてついて行っていた。
 展望台に着く頃には日が傾き始めていたが、見晴らしのよさに歩みを止めたあさひ。当然、うつむいて歩いていたみやびは立ち止まったあさひの背中に顔を押し付ける形になってしまう。
ぽふっ。
「あっ。」
「おっと。大丈夫?」
「えっ、う、うん。」
「どうしたの?さっきから……」
「いや、別に……」
 いまだに、自分からしたことを気にしているとは、さすがに言えなかったみやび。そんなみやびの様子を見たあさひは、少しだけ、大胆な行動に出る。
ぷにっ。
「ふえっ?」
 それは、みやびの柔らかなほっぺを両手で包み、ぷにぷにすることだった。
 あさひの突然の行動に、状況が理解できずにいた。
『えっ! どういうこと? どういう状況!?』
 両手で包みこんだあさひは、みやびのほっぺをぷにぷにしながら、のぞき込んでひとこと言った。
「みやびは、笑顔のほうがかわいいのに……。うつむいてるともったいないよ……」
「えっ。そ、そう?」
「そう。みやびはわかってないだろうけど、実はかわいいからね。みやびは」
 それまで、モヤモヤと考え込んでいたみやびだったが、あさひはいつものように変わりなく自分に接してくれていた。
 そのことが、みやびにとって一番うれしかった。それは、恋人として特別視されるより、当たり前で普通に話せる親友という形だった。
 それは、みやびにとって、特別視されるよりもより重要なことだった。
 高台に到着した二人は、眺めのいい景色を見ながらお互いを確認し合った。
「あさひ。私。あなたの事。好きだった」
「だった?」
「そう、『だった』よ」
「そうかぁ」
「でもね……」
「でも?」
「あなたと出会って、変わることができた。だから……」
 風景を見ているあさひの頬へと顔を寄せるみやび。そして……
ちゅっ。
「えっ…」
「今は、これが精いっぱいかな。これからも、よろしくね。あさひ」
「う、うん。」
 それから、白百合荘へと帰る道中。キスの事についてみやびに確認しようとしたあさひだったが、速足で帰宅してしまった。

 そして、2人の思いを知ったあさひは、ついにいずみとのお見合いが始まる。

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