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第25話 出会いとそれぞれの思い-回顧録-

『あさひに出会ったとき……私は……』
 風紀委員として、活動するあやの。一般の生徒からも慕われ、いずみねぇと共に、生徒のかがみのような存在だった。
 日々、生徒たちの服装をチェックしたり、先生への報告と自分の身の回りは二の次だった。
 というのも、いずみねぇは公私ともに立派に両立していたこともあり、私も周囲から比べられていた……
 そのため、自分も姉のように立派な役員にと気を張っていた。
「あやのさん。今日も綺麗ね……」
「そうよ、生徒会長のいずみさんの右腕みたいなものだからね」
 学園では、そのようなうわさが広まっていた。生徒会長の右腕で、懐刀などともたはやされていた。
 その一方で、私生活ではその反動からか、一気に気が緩んでしまった。そんな時に出会ったのが、あさひちゃんだった。
 それまで、学園と姉妹の事にしか興味を示さなかったあやのにとって、一転のオアシスだった。
 当然、好意を寄せるのも当たり前のことだった……

 最初は、添い寝から……。次第に気持ちが抑えられなくなったあたしは、いずみねぇをけしかけて好きと思わせるように仕向けた……
『……私って、悪い女よね……』
 そんな思いは、私にもあった。そう仕向けたのも、私の思いを告げるのが怖かったから……
 学園で気を張っていたこともあり、買い物などで外での体裁を気にしたわたしは、風紀委員の象徴として勤め上げた……
 その反動として、ファッションには全く興味がなくなった。それに比例するかのように、あさひとは違うオアシスを見つける……
『こんなコミックもあるんだ……』
 それは、みやびが書いていた百合コミックだった……
 女の子同士の恋愛もののコミックは、今の自分にピッタリだった。ただ、想いを寄せているのは『異性』だったけど……
 あさひは性別こそ男の子だったが、見た目は間違いなく女の子だった。ちょうど読んでいた作品の相手にあさひを重ねて読んでいた……
「あさひちゃんが、いずみねぇを好きになってくれたら……」
 そんな、儚い想いを描いていたわたし。あたしを見てほしいと思ったこともあったが、そこには風紀委員という重りが足かせになっていた。
『風紀委員の私が、恋愛なんて……』
 そう思って、自分からはちょっかいを出す事しかできなかった。でも、想いだけが募っていき、抑えきれなくなってしまった……
『……いずみねぇ。ごめん。あたし、あさひちゃんの事……』
 異性に対して初めて芽生えた、今までに味わったことのない胸が張り裂けそうな思いに、みやびも巻き込んでデートすることで決着をつけるしかなかった。
 そして、今は……
 唯一、色違いではあるもののおそろいのヘアピンをいじりながら、この思いを綴っている……
「……いずみねぇ。ちゃんと、告白できるかなぁ~……」
 そう私は思えるようになった……

 あさひとの出会いは、白百合荘だった。
『なにあの子……』
 私が思ったのは、ボーイッシュな格好をした『女の子』だと思った。
 実際、私と同じくらいの身長しかなく、線も細かったから……
『女の子……よね?』
 でも、あさひは自分の事を男の子と言い張っていた。
 本人がそういうのなら、そうだと思った。でも、私は『女の子』として接してしまっていた。

 いずみねぇやあやねぇみたいに、表立って役員をするわけではない私は、文芸部で百合コミックを書いていた。
「先輩……。これ書くんですか?」
「そうよ。おねがい、みやびちゃん」
 最初こそ、言われたから書いていただけだったが、あさひが来たことで全てが変わった。
 異性なのに、同性に見えるあさひの存在。あさひを見ると、書いているコミックの主人公のような背徳的な気分になる……
 その気持ちは、純粋な興味から始まった。男なのに男らしくないあさひ、時々見せる男らしい一面に、私はくぎ付けになる。
『恋って、普通に男の子を好きになるんじゃないの? まぁ。あさひも男だけど……』
 自分から進んで行動することのない私は、男でありながら女の子として行動し、違和感なく過ごせているあさひを気になった。
 自然と目で追いかけるようになった私は、あさひがほかの子と一緒にいると、妙にモヤモヤする感情が湧いてくるのに気が付いた……
 その思いが決定的になったのが、白百合島でのことだった。

 海水浴場の後、ふたりっきりになる事のできた私は、どうにかして距離を縮めようとした。だけど、結果的には、かえって遠くなってしまう結果になった……
『あれは、事故だったんだけどなぁ~』
 あさひの上に倒れこんでしまった私は、思わず、鼻をクンクンさせてしまっていた。
『この匂い……男の子……』
 鼻をくすぐる匂いは、確かに男の子っぽい汗の匂いがしていた。でも、このことで、私の思いが一歩進んでしまった……
 学園に帰郷してからは、学園の仕事を手伝ってくれたり、自分よりも率先してくれることに男らしさを感じていた私。
『えっ!あやねぇ。あたしも?』
 あやねぇに巻き込まれる形で、私もあさひとデートすることになった。
 精一杯、カップルとはどんなものかを、調べたりした。けど、実際には全く役に立たなかった……

『ついてる……』
 まさか、あんな大胆なことをするとは思ってもいなかった。ものすごく恥ずかしい思いをしたけど、顔をくしゃくしゃにして笑うあさひの顔に、こっちまであたたかな気持ちになった。
『……あぁ。やっぱり。私……』
 この時、私はあさひが好きなんだと気が付いた……
 でも、あさひはいずみねぇと一緒になってもらうんだ。そう思った……
『あんないずみねぇの顔、初めて見た……』
 私にとって、いずみねぇは理想の女性像そのもので、凛とした姿にあこがれを抱いていた。
 でも、あさひと知り合ったいずみねぇは、本当に表情がコロコロ変わった。
 それまで、大家として、生徒会長として凛とした姿しか見なかった私は、いずみねぇの変化に戸惑いつつもこう思った……
『恋って、こんなに人を変えるんだ……』
 そして、いずみねぇのこの表情は、私も好きになった。だから……
「あさひはいずみねぇと一緒に……」
 あさひと私は、親友でいい……。そう思えるようになった……

 そうして、いよいよ。いずみとあさひの見合いが始まる……

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