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ニーチェ「勇気と臆病」

森の聖者は獣に逆戻りしていますが、ツァラトゥストラは人間を乗り越えようとしています。ツァラトゥストラ(ニーチェ)は退化を最も劣悪なこととしています。倦み疲れた老いた心を嫌います。ニーチェが信じる神は白い髭の生えた老人の神ではなく、軽やかに踊る若々しい神です。ニーチェは、「人間とは乗り超えられるべきものである」と述べ、「あなたがたは、人間を乗り超えるために、何をしたか」と問いかけてきます。そして、人間を乗り超えるためには「勇気」が必要だとニーチェは言います。彼は、勇敢な者を愛し、臆病な者を嫌います。

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森の聖者
人間たちのところへ行くな。森にとどまるがいい。行くならば、いっそ野獣のところへ行け。なぜ君はわたしのようになろうとしないのか──熊たちのなかの一匹の熊、鳥たちのなかの一羽の鳥に?

ツァラトゥストラ
およそ生あるものはこれまで、おのれを乗り超えて、より高い何ものかを創ってきた。ところがあなたがたは、この大きい潮の引き潮になろうとするのか。人間を乗り超えるより、むしろ獣類に帰ろうとするのか。
手塚富雄訳「ツァラトゥストラの序説」

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わたしはあなたがたに超人を教える。人間とは乗り超えられるべきあるものである。あなたがたは、人間を乗り超えるために、何をしたか。
手塚富雄訳「ツァラトゥストラの序説」

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言うがよい、わたしの兄弟たちよ。われらから見て、劣悪なこと、最も劣悪なこととは何か。それは退化ではないか。
手塚富雄訳「贈り与える徳」

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あの若い心の所有者たちは、もうみな老いてしまったのだ──いや、老いたのではない。ただ倦み疲れ、卑俗に、安易になったのだ。それをかれらは、「われわれはふたたび敬虔になった」と言っている。
手塚富雄訳「離反者」

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或る者は心が最初に老いる。また或る者は知力が最初に老いる。一方、幾人かは青春のうちに年老いている。
小山修一訳「自由なる死」

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ついさきほどまでは、わたしはかれらが早朝、勇敢な足取りで走り出てゆくのを見た。しかしかれらの認識の足取りは倦み疲れた。そしていまかれらはかれらの早朝の勇敢さをさえ、そしるのだ。
手塚富雄訳「離反者」

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ああ、かれらのうち長期にわたる勇気と昂然たる意気をもつ者は、つねに少ない。少数の者は、変わることなく忍耐づよい精神をもっている。しかしその他は、みな臆病者だ。  
手塚富雄訳「離反者」

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残りはいつも、最大多数の人びとであり、月並みなもの、余計なもの、あまりにも多数の者たちであり──、どいつもこいつも臆病者だ。
森一郎訳「離反した者たち」

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また 一群の者が決して甘くならない。夏の間に既に腐る。彼らを自分の枝にしがみつかせているのは臆病だ。
多くの己を持て余す者が生き、彼らが余りにも長く自分の枝にぶら下がっている。この腐った物や虫食いの総てを、木から賑るい落とす嵐よ、来たれ!
小山修一訳「自由なる死」

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私が、「君たちの中にいるすべての臆病な悪魔どもに、わざわいあれ。やたらメソメソ泣き、両手を合わせて祈りたがる悪魔どもめ!」と叫ぶと、彼らはこう叫ぶ、「ツァラトゥストラは、神を失くした不敬の輩だ!」  
とりわけ、君たちに従順さを説く教師たちはそう叫ぶ──。まさしくそういう説教者の耳もとで私は叫んでやりたい、「その通り、この私こそツァラトゥストラ、神を失くした者にほかならない」と。
森一郎訳「卑小にする徳」

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わたしが神を信ずるなら、踊ることを知っている神だけを信ずるだろう。  
手塚富雄訳「読むことと書くこと」

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いまわたしは軽い。いまわたしは飛ぶ。いまわたしはわたし自身をわたしの下に見る。いまわたしを通じて一人の神が舞い踊っている。
手塚富雄訳「読むことと書くこと」

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勇気にみち、泰然としており、嘲笑的で、暴力的であれ──そう知恵はわれわれに要求する。知恵は一人の女性であって、つねに戦士だけを愛する。
手塚富雄訳「読むことと書くこと」

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「『よい』とは何か」と、君たちは問う。勇敢であることが、「よい」ことだ。
手塚富雄訳「戦争と戦士」

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しかし、おまえはいつもそうだった。どんな恐ろしいものにも、おまえはいつも、なれなれしく近づいていった。  
どんな怪物をも、おまえは撫でて可愛がろうとした。
森一郎訳「放浪者」

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ツァラトゥストラは、遠くに旅をし、危険を顧みずに生きるのが好きなすべての者たちの友であった。
君たちは、大胆不敵に探求する者、あえて試みる者だ。いつも巧みに帆を張って、恐るべき大海へと乗り出してゆく。── 
君たちは、謎に酔いしれる者、薄明かりを好む者だ。君たちの魂は、笛の音とともに、どんな幻惑の深淵にも誘われてゆく。
森一郎訳「幻影と謎」

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だが、私の中には何かがある。これを私は、勇気と呼ぶ。それがこれまで、私のどんな意気地なさをも打ち殺してくれた。
森一郎訳「幻影と謎」

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勇気は最も優れた殺し屋だ。攻めてかかる勇気は、死さえ打ち殺す。というのも、勇気はこう語るからだ。「これが生きるということだったのか。よし、ならばもう一度!」
森一郎訳「幻影と謎」

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