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ニーチェとフリーレン「高貴な魂、新しい貴族」

フリーレンはゼーリエに、「望む魔法を言うがいい、ひとつだけ授けてやる」と言われましたが、「いらない。魔法は探し求めている時が一番楽しいんだよ」と答えました。ニーチェ的に言えば、フリーレンは高貴な魂の持ち主であると言えます。

高貴な種類の魂たちは、このように欲する。つまり、彼らはタダでは何物も手に入れようとしない。一番そうしたがらないのは、人生という持ち物だ。賤民の素性の者は、タダで人生を生きようとする。
森一郎訳『ツァラトゥストラはこう言った』「新旧の石板」

高貴な魂のありかたはこうである。高貴な魂はどんなものをも無償で得ようとは思わない、ことに生を無償で得ようとは思わない。賤民に属する者は、無償で生きようとする。
手塚富雄訳『ツァラトゥストラ』「新旧の表5」

彼らが──ただでパンを得ることになれば、わざわいなるかな。そのとき彼らは何を求めて叫ぶことか。日々の生計を立てること──それが彼らの娯楽なのだ。だから彼らは生計に苦労すべきである。
「新旧の表22」

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日本の漫画では、主人公の血統が強調されることがよくあります。物語の後半で、主人公の親が実は偉大な人物であることが明らかにされることがよくあります。しかし、ニーチェは出自ではなく、意志と未来に焦点を当てます。出自に関わらず、誰もが貴族や超人になれるというのが彼の考えです。

それゆえに、おお、わたしの兄弟たちよ、一つの新しい貴族が必要なのだ。全賤民と全暴力的支配者の敵対者であり、新しい表に新たに「高貴」ということばを書きつける新しい貴族が。
「新旧の表11」

──まことに、この貴族の身分は、小商人がするように、金で買えるものであってはならない。価格のあるものは、すべて価値の乏しいものである。これからは、君たちに名誉をあたえるものは、君たちがどこから来たかということではなくて、君たちがどこへ行くか、ということでなければならぬ。君たち自身を超えてかなたを目ざす君たちの意志と足とが──君たちの新しい名誉であれ!
「新旧の表12」

おお、わたしの兄弟たちよ、わたしは君たちを選んで、新しい貴族であれと命令する。君たちは未来を生む者、未来を導き育てる者、未来の種をまく者にならねばならぬ。──
「新旧の表12」

おお、わたしの兄弟たちよ。貴族である君たちは、うしろをふりかえってはならぬ、前方を見るべきである。君たちは祖の国、曾祖父の国と名づけることのできるいっさいのものから追放されていなければならぬ。君たちは君たちの子どもの国を愛さなければならぬ。この愛が君たちの新しい貴族気質であるように!
「新旧の表12」

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「いっさいの事物の上には、偶然という空、無垢という空、気まぐれという空、放恣という空がかかっている」「気まぐれ」──これは貴族の特性として世界最古のものである。これをわたしはあらゆる事物に取りもどしてやった。わたしはあらゆる事物を目的への隷属から救い出した。
手塚富雄訳「日の出前」

「万物の上に懸かるのは、偶然という名の天空、無邪気という名の天空、出鱈目という名の天空、有頂天という名の天空だ」と。「出鱈目に」──これこそが、世界で最も古い貴族の位である。その位を私は万物に取り戻してやった。私は万物を、目的に縛られた奴隷状態から救ってやった。  
森一郎訳「日の出前」

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力強い魂には、高貴な身体がふさわしい。美しい、意気揚々として、人の目をもよろこばす身体、そのまわりの一切のものが、それを映す鏡に化するような身体、しなやかな、ひとに有無をいわさぬ身体、みごとな舞踏者の身体。自己自身に快楽をおぼえる魂とは、この身体、この舞踏者の象徴であり、精髄にほかならない。こうした身体と魂との自己快楽が、みずからを「徳」と呼ぶのである。
氷上英廣訳『ツァラトゥストラはこう言った』「三つの悪」

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