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〘お題写真de神話〙 夢の跡

 
 
 
note神話部3周年企画参加作品です。
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今回の企画は2つのテーマからの選択制です。

A 写真で創作 / B 文言で創作

A 指定のお題写真から物語をイメージするか
B 指定の文言から物語をイメージするか

私はAの写真を選択し、妄想像しましたw
なお、お題の写真は最後に貼付しております。


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『夢の跡』



上にある天は名づけられておらず
下にある地にもまた名がなかった時のこと

はじめにアプスーがあり
すべてが生まれ出た
混沌を表すティアマトもまた
すべてを生み出す母であった

水はたがいに混ざり合っており
野は形がなく
湿った場所も見られなかった

神々の中で
生まれているものは誰もいなかった

──『エヌマ・エリシュ』冒頭部 

 

 
 廃墟と化した巨大な半円状の舞台スケーナ。背面を守っていたはずの壁面は、半分以上見る影もなく崩れている。

 その壁面の瓦礫に降り立ち、女は視線を彼方に飛ばした。

 視線の先には深い森に覆われた小高い丘があった。いただきからは名残りとおぼしき崩れた塔の一部が見えている。

「……ここもすたれてしまったか……」

 呟いた直後、女は背後に気配を感じた。

「お久しゅうございます」

 ゆっくりと振り返った先に、いつの間にか男がひざまずいていた。彫りが深く、立ち居振る舞いにも付け入る隙はない。

「そなたか……息災であったか?」
「お陰様にて……」
「そうか」

 短い挨拶を交わし、女が視線を彼方に戻すと、立ち上がった男も同じ方向を見据えた。

「前回、拝謁したのは幾度か前の冬の祭典の折でしたか……あの時はまだ神殿エサギラも健在で、聖塔ジグラートでご覧戴いたのでしたな」
「ああ、確かにあれは冬の頃だった。そなたたちは数百年ごと、夏の競技、冬の技芸で集うのだったな」

 各地で祀られている神々は、400年に一度、宇宙この世を創りし存在への畏敬の念を示すと共に、自らが集う場としての祭祀を行なっていた。400年に一度と言うのは夏から夏、冬から冬の間隔であり、夏の競技会から200年後に冬の技芸会、その200年後に夏の競技会と言うサイクルになっている。

「珍しく貴女様がお出ましくださったあの折のことは、何千年経とうと我らにとって忘れ得ぬひと時でございました。まして、舞と詠唱を賜ったのは後にも先にもあの時一度限りでございます故……」

 男は噛み締めるように語った。
 人にとっては果てしなくとも、人ならぬ身にとってはひと時に過ぎない歳月。それでも、焼き付けられた思い出のたったひとコマが、終生忘れ得ぬものになることもあるのだった。

「私も憶えている。あの時、そなたと素戔嗚スサノオが即興で行なった演武……いや、演舞と言った方が良いか……ともかく、あれは見事だった。この私が触発されてしまったほどにな」
「ありがたきお言葉にございます」
迦陵頻伽カラヴィンカの詠唱も素晴らしかったな」
「何の。トートのがくも巧みでございましたぞ。あやつは何をしても並外れてこなしまする」
「それに合わせたセトの舞もな」

 しばしの思い出の共有。数百年、数千年ぶりの再会と言う舞台が、出来得るなら向き合いたくなかったたぐいの話題から二柱ふたりを遠ざけているようでもあった。

 だが、所詮はそれも一時いっときしのぎに過ぎない。

「それはそうと、此度こたび何故なにゆえこの地に?」

 やがて否応なしにその時は訪れた。ひとしきり語った後、言葉が途切れた一瞬の間が、その後の話の流れを本筋へと導いたのだった。

「私が常にこの惑星ほし何処いずこかを巡っていることを忘れたか」
「忘れてはおりませぬ。ただ、今はこの地を訪れる時ではないのではありませぬか?」

 女の視線は刹那、彼方の塔──その名残り──に向けられた。少なくとも男にはそう見えた。

「たまたまだ」

 短い返答に何かを感じた男は、息を整え、居住まいを正す。

ベールよ……」

 そして、思い至ったように呼びかけた。低い声音に含まれた複雑な思いを感じ取り、女はわずかの間を置いて唇を開いた。

「……それは人がそなたに敬意を表す時の呼び方であろう」
「我らにとっては貴女様こそがベール……人の身にとってはあまりに高みに御座おわす存在であるが故、おそれ多くも我らが代わりとして呼ばれているだけにございます」

 女は溜め息をつくも、その口元には緩やかな気配が漂っていた。男は彼方に視線を飛ばしたままの横顔を見、やや睫毛を伏せることで待ちの姿勢と敬意を示す。

 少しの間の後、ようやく女の唇は動いた。

「──久方ぶりに“はじまりの地原点”をおとのうたのでな」
「左様でございましたか。他の地域の様子は如何にございます。皆、息災でおりまするか」

 男の目が横顔を凝視すると、それを応えるように女の睫毛が翳る。

「皆、変わりなく迎えてくれた。が、状況は何処いずこも似たり寄ったりと言って良い」
「……ここだけが例外ではない、と言うことなのですな」

 男の声は息を飲み込んでから発せられた。

「……恐らくは、これから訪ねる先もそれほど変わることはあるまい。人の世は日々変化してゆく……もはや、それを留めることは出来ぬだろう」

 女の声は淡々としてはいたが、落胆とも怒りともつかぬ含みが混じっていた。

「我らの始まりも、ずいぶんと昔のことになり申したな……」
「そうだな。あの頃は既に遠くなった。我が真祖おやたる方々が宇宙を創り出した頃も、私がこの惑星ほしそのものとして在った頃も、ただの黒い塊でしかなかったこの球体ほしを、我らが集い、憩う場にせよとめいを賜ったあの頃も……」
「そして、我らは人の世の“神”として、貴女様により存在を許されました。この惑星ほしガーデンとすべくそれぞれ別の地に赴くこととなり、この地には我が祖である淡水の神アプスー原初の海の女神ティアマトが……」

 それは、人であれば生い立ちとも言うべき惑星ほしの事始め──。

「マルドゥークよ……」

 “マルドゥーク”と呼ばれた男の目が見開かれた。大いなる力を持つ存在もの同士が気軽に名を口にすることの危険性を熟知していたせいもあるが、あまりに久しぶりに呼ばれたことへの驚きもあった。

「……はい……ベールよ……」

 それ故、己が“あるじ”と定めた相手に再会した実感がようやく湧いたとも言えた。

「そなたたちは祖であるティアマトとたもとを分かち、激しい戦いの末、この国の天地を創ってくれた。正確には、そなたたちとあらそいたくなかったティアマトが自らの身を差し出したようなもの……いしずえとなるために、ではあったが……」

 マルドゥークは目をつむった。
 かつて、人であれば祖母とも言うべきティアマトの身体を『天地創造』の材料とすべく解体した時を思い起こすように。

 二つに引き裂かれた身体はそれぞれ天と地に、乳房は山に、傍には泉が作られ、眼からはチグリス川とユーフラテス川の二大河川を生じさせ、母なる神ティアマトは文字通り世界のいしずえとなった。
 その地を治めるため、神々の労働を肩代わりさせる名目で、ティアマトの子の一柱ひとりで夫の一柱ひとりでもあるキングーの血を『人の創造』に当てたりもした。

「皆がそうまでして創造し、治めてくれていた世であったが……」
「ティアマトだけではありませぬ。多かれ少なかれ他の地の神々も同じように……なれど、先ほど貴女様が仰っていたように人は変わりまする。どれほど深い信仰を得ていたとしても、やがては我らを必要とする心は弱まり、さすれば、その“心”が形作っていたものは朽ちてゆくのみ……変わらずに在るのは、今や“はじまりの地原点”だけになったのやも知れませぬ」

「……すべては、夢の、跡……か……」

 崩れた半円形の舞台スケーナをぐるりと見渡し、女が顔を上げた。

「……あれは……あの時、私を招いてくれた聖塔ジグラートの名残りだな」

 最初に目に入った小高い丘、そのいただきを見やり、女が訊ねた。

「はい。天と地の基礎となる建物エ・テメン・アン・キの名残りにございます。土台はそれこそ我が祖ティアマトの血肉……神殿エサギラ中心の地下深くには、ティアマトの心の臓を納めて祀っておりますれば、あのように木々に覆い尽くされ、あまつさえ荒れ果てさせてしまったこと、無念にございまする」

 自責の念を顕にするマルドゥークに、女は思いの外、穏やかな目を向けた。

「致し方あるまい。そなたの天と地の基礎となる建物エ・テメン・アン・キを模してまで天上に近づこうとし、怒りに触れたことさえあった人だが、それすらもいつの間にか忘却の彼方……それが『人』と言う生き物なのだ」
「……バベルの塔、ですな。確かに、もはや我らは人の世に於いて置き去りにされつつある存在でございます……」

 いつか自分たちと言う存在は、完全に人の中から消え去るかも知れないと、いつの頃からかマルドゥークは漠然と予感していた。

「……消えることはない。伝えられてゆく記憶の層とはそれほど容易いものではないのだから。どれほどに薄れようとも……そなたらの存在もな」

 女のその言い方に、マルドゥークは不思議な含みを感じた。

「……ベールよ……はじまりの地原点に行かれたと仰っておりましたが、の者にはお逢いになられましたのか……?」

 躊躇いがちな問いかけに女の動きが止まった。そして、返事までには少しのじかんを要した。

「……いや……彼と私の再会の“時”は、いまだ訪れていないようだ」

 静かな声だった。だが、直後に女の口から発せられた言葉は、マルドゥークを始めとする他の神々にとって、彼女が畏怖するに足る存在もの──まさしく『ベール』であることを刻みつけた。

「……であれば、この惑星ほし運命さだめに今しばらくの猶予を与えるしかあるまい」

 マルドゥークが息を飲んだ瞬間、女の姿は微かな笑みを置き土産に掻き消えた。


お題写真


 
 
 

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マルドゥークと言うのは古代メソポタミア神話、特にバビロニア神話を主として登場する神様です。
最初はそれほどでもなかったのが、バビロニアの創世神話で名高い『エヌマ・エリシュ』で一躍有名英雄神に躍り出たとか出ないとかw
この神話も他地域の神話と同じく例外なく(笑)、何か色んな枝分かれや説がある感じですが、これも例外なく私は自分の食べたい部位だけ取って来て食べたいようにアレンジして食べてますwww🤣なので『信じちゃアカンやつ』ですw

ところで、『エヌマ・エリシュ』とは神話の冒頭の言葉で、『そのとき上に』と言う意味なのだとか。
その中に於いて真水を司るアプスーと塩水を司るティアマトは原初の神であり、マルドゥークは彼らの子どもの子ども、つまり人間的には孫にあたるんですかね?w
ちなみに、『ベール』と言うのはアッカド語で『主人』を意味しているそうで、『エヌマ・エリシュ』では世界と人間の創造主でもあると語られているようです。

どの神話にも大抵『天地創造』した神様がいることになるワケですが、地球はひとつしかないワケですので、地域ごとに分担制で創造した結果、多種多様で地域性に富んだ神話が各地で生まれた、ってことに私のNOミソ脳味噌の中はなってますw

昨年の夏の企画、冬の企画(2周年企画)などと何となく仄かにリンクする世界観設定にしているワケなんですが……もう今回ホントにギリッギリまでグダグダ書いてて書き過ぎて最終的に自分でも何書いてんだかわかんなくなる始末ですみませんゴメンなさいwww😂(息継ぎスーハー)

補足が長い!w
でも明日は大トリ!
我らが矢口れんと神話部部長です!
明後日は企画のまとめのアンソロジーで締めとなりますので、ぜひ最後までお楽しみ戴けたらと思います!

とにもかくにも

note神話部3周年
おめでとう!
 
 
 
 
 

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