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加藤文元『物語 数学の歴史 正しさへの挑戦』[基礎教養部]

今月は数学史の本である。著者のことは前々から数学界隈でお見掛けしており、これまでの本より親近感がある。彼の著作であるIUTの本は実際僕は大学で物理学科に所属しているが、数学も学科の内容を越えた範囲で勉強しているので、数学徒としてこの本と対峙することになった。まああまり大したことは言えないが。

感想

良いと思った点は、まず数学史の始まりを数概念それ自体の誕生ではなく、割り算の誕生に置いている点である。勿論数自体の発見(発明?)も抽象化の第一歩としてそれはそれで重要であることは間違いないし、筆者もそう書いている。割り算を糸口に新しい数の概念を人類は獲得していったのは本を読んでもらえれば分かるが、明確にそうだと言える。著者は割り算を切り口に別の地域で各々の算法の発展を面白くそして分かりやすく読者に伝えてくれている。最近注目している数学者の先生が「すごいものに心底すごいと驚ける人が結局強い気がします」と仰っていたが、この本はすごいものがすごいとよく伝えてくれた気がする。分数の計算やらは小中学生でとうに通過して当たり前になっているはずなのだが、当時の数学徒たちが発見したことがいかに重要ですごいことかが分かるように解説されている。時間がなく読み込めなかったのでなぜそういう伝わり方をしてきたかは細かに書くことはできないが、ひとまず自分は読んでみた印象としては強くこのことが残っている。

また、数学史家ではなく数学者目線で書かれているので、数学のプロとして、それこそ"マクロな視点"を持った著者だからこそ書ける現代数学との関連が少しずつ書いてあるのが個人的には有難かった。数学書を読んでいてもそうだが、これはこうとも捉えられるよね、という多面的な見方や、これはここに繋がるという道標があると、数学を論理学として形式的に(ミクロに?)学ぶ以上の価値が見いだせるので嬉しいし、何より面白いと感じる。たびたび大学の授業に行ったりするなどして専門家と対面する意味について考えさせられるが、一つはこれがあるのではないかと思う。これももっとメタ的にみると形式的なものに過ぎないのかもしれないが(言葉の使い方がなっていないので上手く伝わらないかもしれない)。

数学と自分史

数学と自分との距離感は他人と比較しても独特ではないかと思うので、ここで一旦振り返っておく。

高校までは、数学に大して魅力を感じなかった。興味なくはなかったし、どちらかというと得意な方だったのかもしれないが、受験勉強を常に意識させられ続けていたので、問題を解くことがメインだった勉強は苦痛だった。単に趣味として問題を解くという経験もなくはないが、馬鹿だったので自分で解けたという経験が積み重ならず、ハマることはなかった。たまに問題を解くアイデアとして面白いと思えることはあったが、僕には思いつきそうもないもので、実際思いつかなかったしというので負のスパイラルに陥ってしまい、どんどん数学にはネガティブな印象が増していった。

大学に入ってから物理を勉強するサークルに入ったのが、僕と数学の距離感を変えるきっかけになった。そこで出会った先輩は、まさに僕がなんとなく目指していたような場の量子論や超弦理論(理論物理(特に素粒子物理)の一分野)を勉強している人だったので、色々助言をくださった。そのうちの一つとして、数学は学科の授業だけでは足りないので別で勉強しておいた方がいいということを聞いたので、今度は掛け持ちで数学のサークルに入ることになったのである。こうして数学科の人たちと交流が始まっていくのだが、1回生の間に色々と耳学問をしたりたくさんゼミをやっていくうちに数学も面白いと思えるようになった。数学の方のサークルで意気投合してゼミの面倒を色々みてくださった先輩が、話すのが上手かったのもあるかもしれない。正直、数学の議論の厳密性自体にはあまり惹かれる部分はなかった(ほとんどの場合しんどいけど重要なのは確か)が、数学はアイデアとして面白いものが多いなぁという印象である。そういう意味では高校の頃の数学への印象に変化はないのかもしれない。ただ意欲は倍増どころではないぐらい増加した。

数学と物理との関係が思った以上に深いというのが大学に入って分かってきた。僕は数学も物理も使う数理物理の方に進みたいと思って、今は勉強を頑張っている。基礎力のメンテナンスも大事だというのが受験でよくわかったのでそれらをやりつつ、先の方の勉強もどうしようもなく面白いので正課なんて置いてけぼりにしてどんどんやっていこうとしているのが現状である。

まとめ

中公新書は1ページの文字数が少ないのでどんどん読めるのが良いと思う。急いでいたのもあるが、結果的に4、5時間で300ページ読みきってしまった。何より分かりやすくて面白い本なので、物語として数学史の大体の流れを楽しむ分にはお勧めできると思う。


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