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『本屋の未来を語らない』でのトークライブを記事にしました。

12月1日に下北沢にあるBookshop Travellerで『本屋の未来を語らない』という、一体全体どんなイベントなのかよくわからないイベントが開催されました。
ポスターデザインは大鐘ハル(HRQ RECORDS)さんです。

あえて説明するなら、2人の変わった本屋さんが主催する『Book & Art』なイベントです。『本屋の未来を語らない』をテーマにしたオープニングトーク、アーティストによるパフォーマンス、アート展示で構成されました。

こうしたよくわからないイベントに集まるのは、同じように“よくわからなさ”を持った人たちだというのは自然の摂理。例に漏れずこのイベントも“素敵なよくわからなさ”で満ちた、とても魅力的なイベントとなりました。

さて、ここで私はオープニングトークを担当しまして、『本屋の未来を語らない』をテーマに一体全体何を話せばいいんだろう…とウンウン考えながら準備したところ、予想以上に『いい内容だったよ』とお褒めの言葉をいただきました。

特に一緒にオープニングトークをしたBookshop Travellerの和氣さんからは、『スライド型の落語みたいだった。』と言っていただき、有頂天のままに、せっかくだから記事にしようと思いたったわけです。

あっと、一応断っておくと、ゆるいアートイベントのオープニングなので、基本的にはエンターテイメントとして、ビール片手に楽しめるのが目的の内容です。
細かいロジックとかそういうのは期待しないでね。笑

それでは、トークで15分ほどの内容です。
しばしお付き合いください。

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みなさん、本日はイベントにお越しいただきありがとうございます。
オープニングトークをします木村悠貴と申します。

さて、一体全体お前は誰だということで、『本』を切り口に自己紹介をしていきたいと思います。
本屋の未来については今日は語りませんが、少なくとも本屋について何かを語る資格があるのかは、はっきりさせておいた方がいいでしょう。


わかりやすいところで言うと、昨年の12月、ちょうど1年くらい前に本を出版しました。深層視考という本です。『思考の論理展開を可視化する』をコンセプトにした発想フレームワークです。ビジュアルシンキングとマインドマップとフローチャートを融合させたような内容なので、もしご興味あれば。


これが有り難いことにご好評をいただきまして、このような結果をいただきました。なのでまずは『著者』として、本や本屋について何かを語ることはできそうです。


12月に自分の本を出版したあと、今度は出版プロデューサーとして2・4・5月に3冊の本を出版しました。なのでこの時期は6ヶ月ほどの間に自著を含めて4冊の出版に関わっています。


この4冊の出版に関わったあと、今日の主催者の1人である大野くんと『AI時代の出版ゼミ』という、KDP・PODを活用した出版ゼミを開催しました。6月から出張編を含めて6回ほど開催して、早い人が年内に出版まで届きそうな雰囲気です。

なので『著者』に加えて『出版プロデューサー』としても、本や本屋について語ることができそうです。


しかし今日のイベントのタイトルはご存知の通り、『本屋の未来を 語 ら な い』です。

一体全体、何について話せばいいのやら、、、
ということで、真面目な私と一緒に『そもそも未来って語れるの?』についてまず考えることにしましょう。


その中でもまずは、未来は論理的に語れるかに挑戦したいと思います。
そこで調べていたときに出会ったのがこの電卓カオスという動画です。

これは一定の規則に沿って並ぶ数字において、『ある数字がわかれば、その次の数字がわかる』という数式を電卓で解いていきます。なので例えば『今年のある項目に関する数字がわかれば、来年のその数字がわかる。来年の数字がわかれば、再来年の数字がわかる。さらに・・・』というものです。
(詳しくは『世界が滅んでも生き残るため、京大生よ変人たれ。酒井教授が語る、カオスに立ち向かうための「京大の役割」』をどうぞ。わかりやすく、そしてとても面白いです。)

さて、この動画を見てチンプンカンプンでも全然大丈夫です。
これからわかることはズバリ、

未来は論理的に語れないことが、論理的にわかった!

ということだけ押さえておいてください。
これを言うためだけに先ほどの動画を紹介しました。笑


さて、論理的に語れないなら、今度は曖昧に語ってみましょう。


私は大学で講師をすることもあるんですが、これはそのときに必ず紹介するダイアグラムです。(今回は内容説明を省略😉)

縦軸が文章化の可不可、横軸が数値化の可不可です。
でもこれ、文章化可能の定義も曖昧だし、数値化可能の定義だって厳密じゃないです。

でも、言いたいことはわかるし、内容にもそれなりに納得感がある。
ということで…

『曖昧さを伴った構造』を捉えることができれば、未来について語ることができそうだということです。
(完璧な論理性を利用しようとすると、少しのノイズが積み重なって大きく狂った計算結果になってしまう。しかし最初から曖昧さを内包しておけば、ノイズはその曖昧さに溶けて、結果的に全体を把握することができるってことです。)


さて、本屋の未来について考えるために、まずは本が過去から未来に向けてどのように変化しているのか考えます。
さっきのように、曖昧さを持ちながら、なおかつ構造的に整理してみます。

しかし、『未来』について語ってしまうと今日のテーマに反してしまうので、右端にはバッテンを描いておきます。でも『過去から現在まで』を構造化するなら、これはオーケーですよね。

ということで、起きた変化を3つ挙げてみました。
1つ目は一部の人のたしなみとして読まれる要素が大きかったものが、最近は具体的な『これを知りたい』『こういう問題を解決したい』という要求を叶えるものに変化しました。

2つ目は紙の本から電子書籍へ

3つ目は一部の人のものから、身近なものへ。今やワンクリックで本が買えるし、データさえ作れれば誰でも出版できる時代です。

さて、この構造をよく見てみると、これって『本』以外にも当てはまる気がしませんか?


『本』を試しに、『デザイン』に置き換えてみましょう………
なんだか普通に成立しそうです。

ということで、いったんここまでを整理しましょう。

本の未来を語ることは、今日のテーマ的にできない。
しかし先ほど『本の過去から現在』までと『デザインの過去から現在』までは、ほぼ同じ構造であることがわかりました。
そして、デザインの未来を語ることは問題なし。本屋の未来とは関係ないので。

そして、過去から現在の構造が似ているなら、未来もきっと似ているはず。
そして本の未来がわかれば、それを扱う本屋の未来も自ずとわかる!

つまり

デザインの未来を考えれば、本屋の未来を直接語ることなく、本屋の未来を語ることができる!

当初難題と思われたテーマですが、この構造を使えばなんとか期待に応えられそうです。
ということで、ここからはしばしデザインの話へ移ります。


2016年ごろから日本でも盛んに聞くようになったデザイン界の新コンセプトに『スペキュラティブデザイン(speculative design) 』があります。

直訳すると『思索的デザイン』と呼ばれます。
(12/1〜12/9まで新国立美術館で『もしかする未来』という展示もやっているので、興味がある人はぜひ。)

これは Royal College of Art (通称RCA)という、イギリスの国立美術大学のアンソニー・ダン教授が提唱したコンセプトです。
(ちなみにRCAは修士号(M.A., M.Phil.)と博士号(Ph.D.)を授与する美術系大学院大学としては世界で唯一の学校。QS世界大学ランキングは2015年に初めてアート・デザイン分野の格付けを行い、そこでRCAは世界1位に選ばれました。)

従来のデザインとの違いを3つ並べてみましたが、ひとまず雰囲気はわかっていただけたでしょうか。
「まあ、なんとなく。」くらいだと思うので、具体例を見てみましょう。

今回は3つ例を紹介します。
左から1つ目は『Food printing』という作品。
ここ数年、完全栄養食なんかも発売されていますが、つまりは『人間が必要な栄養』がわかっているということ。

そうであるならば、好きな味・色・形・食感・量で、自分の理想の食事を3Dプリンティングで作れる未来ってありえるんじゃないの?でもこれって、本当に私たちが目指す理想の食事・・・?
と、食事に関する問題提起をしているのがこの作品。


真ん中にあるのが『チンボーグ』というスプツニ子!さんの作品。
スプツニ子!さんは元MITメディアラボの助教で、今は東京大学生産技術研究所特任准教授です。先ほどのRCAの卒業生でもあります。(ちなみに先ほどの『もしかする未来』には彼女の最新作もあります。)

チンボーグのチンはそのまま男性のアレです。
近年LGBTsへの理解も広がってきましたが、ジェンダー理解についてテクノロジーを使ってもっとフィジカルにできないか、というのがこの作品。
今回は女性×男性性を紹介しましたがこの逆、『生理マシーン』という男性×女性性の作品もあります。


最後が『Ghost in the Cell』という福原志保さんの作品。
ヴォーカロイド『初音ミク』のDNAと、そのDNAとIPS細胞を使った細胞を作ったのがこちら。金沢の21世紀美術館で展示されてました。
下の動画は実際に作られた細胞の鼓動の様子です。

XRやアンドロイド技術などで、生命とデジタルの境界線についての議論はよくされますが、基本的なベクトルは『生命→デジタル』の方向。これを『デジタル→生命』の方向へひっくり返した作品だと私は理解しています。


さて、スペキュラティブデザイン がどんなものかイメージできたでしょうか。
これらをまとめるとこういうことだと思います。

スペキュラティブデザインとは『ある人物が提起した議題について、多くの人物で議論を行う』ためのもの。

でも、ここが本当にデザインの未来なの?

もっと本当は、誰かに議題を提起されるまでもなく、『一人ひとりが考えるべき問いを持っていて、そしてその問いへの答えも自分で見つける』ことの方が重要なんじゃないの?と私は思うわけです。

これをZenical Designと名付けました。
この『自ら問いと出会い、その答えへも自力で到達する』という姿勢は、禅の基本姿勢だからです。

さて、先ほどの図にZenical Designを加えるとこうなります。

ちなみに公の場でこの概念を紹介したのはこの日が初めて。
会場にも簡単な企画書と現在開発途中のプロトタイプを展示させてもらいました。
(そして役得を活かしてちゃっかり自分の展示の宣伝をするという。)

Zenical Designの詳細はまた後日noteに書きます。

さて、そろそろまとめに入っていきます。
思い出して欲しいのは、先ほどのダイアグラムのこの部分。

『Design』未来の主要価値になるであろう『Culture』と『Art』です。

『表現手法』としてのDesignと、Culture としての『禅』を昇華して作られたのが、Designの未来であるZenical Designです。

そして先ほどのこの図を思い出してください。

この図は『本』と『デザイン』は置き換え可能だ、という内容でした。


そこで『Culture』と『Art』と、『Design』と『本』をそれぞれ入れ替えます。

そして本の中に含まれる『本屋』と、Artの中に含まれる『Artist』の要素を、先ほどのZenical Designのように昇華させると・・・?


まさに今日のイベントそのもの!

このイベントはパフォーマンスあり、展示あり、本の販売ありの、『本屋さん』が企画する、『Artist』のためのイベントですよね。

つまり

語るまでもなく、このイベントこそが本屋の未来である!!


ということで。
後半の、いや本番の、アーティストの方々へとバトンタッチしたいと思います。

ありがとうございました🙏

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