ちょっと孤独になりにいく

女一人旅なんて昔はどの宿も断られたのよ。自殺だなんだって言われて泊まるとこもなかったんだから。今はいい時代になったわよね。


母にこんなような事をよく言われる。


私の感覚ではあり得ないが、母の時代は確かに女一人で旅するなんてそりゃあ曰く付きで、不吉で、どことなく薄暗い雰囲気の溢れるじめっとした旅行だったんだろう。


今は旅館だって女性専用フロアを銘打ってアメニティ充実のスペシャルルームがあったり、深夜バスにも女性専用を謳うものもある。某旅行会社だって女性一人旅専用プランなんてのがある。


この30年で何がそんなに変わったんだろう。女性の社会進出、公共交通機関の発展により旅行がより身近になった。そんなところだろうか。


私が初めて一人で旅をしたのは広島だった。きっかけは多分大したものじゃなかったけど。一泊2日。観光できる時間は限られている。牡蠣を食べてお好み焼きを食べて原爆ドームに行って…。ガイドブック片手に色々とプランを練った。


広島に行くことは初めてではなかったけれど、一人で飛行機に乗って一人でホテルに泊まるなんてことは初めてだった。正直結構びびっていた。


東京で一人でランチするのは全然平気なのに、広島で一人でご飯を食べるのは何か怖かった。あの人友達もいないから一人で旅行してるのかな…広島の人の言いもしない囁きが聞こえるようで怖かった。


広島空港に降りて最初に向かったのは宮島だった。船に揺られて10分くらい。船で近づくと想像してたよりも宮島は大きかった。宮島について、とりあえず厳島神社に向かってみる。定番スポットだ。ここで写真を撮って、島内をちょっと回って帰ろう。


そう思っていたが、思ってた鳥居と実際に見えた鳥居は全然違った。


厳島神社は海に浮いてる鳥居が見れるもんだと思ってたけど…海っていうか…泥?浜辺?


そう、引き潮で鳥居は根本まで完全にむき出しになっており全然海に浮いてなかったのだ。


とりあえずスマホで写真は撮ってはみたけれどなんだか味気ないし、思ってたのと違う。どうしたもんか、つまらない、帰ろうか。


正直落胆した私はぼーっと鳥居の根本で泥だらけではしゃぐ外国人の親子を見ていた。


あの人たち楽しそうだなぁ。全然写真と違うのに。海に浮いてないのに。

私は腰を下ろして外国人の親子をぼんやり眺めていた。そうしたらなにかふいに、潮が満ちるまで待ってみようかな。そんな気になった。


調べてみるとある程度潮が満ちるまであと3時間近くはかかるらしい。多分恋人や友人と来ていたら、貴重な観光の時間。ここで潮が満ちるのを待つなんて事はしなかったかもしれない。

でも今日は一人だ。孤独だけど自由なんだなぁ。


そう思った時、なんとなくここに来て良かったなと思った。私、旅をしてるのかも。


それからは揚紅葉を食べてみたり本を読んだり鹿と遊んでみたり、とにかく好きに過ごした。贅沢に時間をつかってるなぁと思った。


待ちに待った満潮、厳島神社の鳥居がそれはそれは美しかったのを覚えている。他にやりたかった事、見たかったスポットはいっぱいあったけど、ここに来て良かったなぁ。


そのあと一人でホテル近くの居酒屋で牡蠣をめちゃくちゃ食べ、セブンでスイーツを買ってホテルに戻った。セブンのスイーツなんて東京でも食べられるけど、無性に食べたかったから今買って今食べた。だって私は自由だもん。旅してるんだから。


インスタとかツイッターを見てもいくらでも一人旅をしてる人はいるし、今はもう珍しい事ではないんだろうと思う。


でもこの広島旅行をとおして、私は一人旅っていいなぁと改めて思った。孤独で周りも知らない人、知らない場所でどうしたって自分と向き合わざるを得ない。


行きでは全く気にならなかったけど、帰りの羽田空港ではスーツケース片手に一人で歩く女のコがたくさんいて、なぜか目で追ってしまう。


あの人はどんな気持ちを胸に旅をして、何を思って帰ってくるんだろうなぁ。


とても尊い経験をした。あんな贅沢に時間を使ったのは初めてだったかもしれないな、一生の財産だと本当に思っている。


今は女性でも気軽に旅ができる。いい時代だと私も思う。もちろん女性だけとはいわず、

ちょっと孤独になりに一人旅。いいもんですよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?