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[Review]The Orielles "Tableau"

"Tableau"とは持ち運び可能な絵画を意味する美術用語らしい。

印象的なカラフルさがあったこれまでのジャケットとは異なり、モノクロームの顔写真。太陽の曲を書いていたアーティストが光から遠ざかった暗黒めいたアルバムを急にリリースしたら誰しもが不安になるが、気付けば大のお気に入りアルバムとして、もっと言えば私的2022年のベストアルバムになっていたんだから不思議なものだ。

The Orielles "Tableau" <Heavenly Recordings>

夏の夜。海に溶けていく太陽と遠ざかる喧騒。静かに瓶ビイルを飲み干し、微睡みながら繋がっていく世界では、こんな音楽が流れているかもしれない。そんな感想がふと思い付く。ひっそりと静かで、遠くから波の音が聴こえてくる。幽かな光が見える。ビーチを通過して届く穏やかな風はどこか身体を浄化していく心地良さがある。暗闇に溶け込むように少しずつ魂が自由な境地へと解放されていくように。

"Opening that third box, you could fall into a world
One that shouldn't even belong to, but it does, because he owns it"

"3つ目の箱を開けば、ある世界に入り込んでしまうだろう
自分には無かった世界が、自分のものとなる。彼が持っていたから"

Stones

アルバムのクロージングを飾る『Stone』でのポエトリーリーディングは今作の世界観を示唆しているが、2nd Album『Disco Volador』で長けていたスペーシーなサウンドを引き継ぎつつ、フリージャズのような不定形な即興演奏をふんだんに取り入れた音鳴りは未知の世界への接続を容易にさせる没入感がある。

"It's the last journey we'll takе / I hope you'll find me there"
”それが私たちの最後の旅。私を見つけてくれることを願っている”

”The Room”

その新しい世界でこれが最後の旅であると自覚している。作品での登場人物は「私」と「彼」の二人のみ。「私」を見つけてくれと願う一方で、「彼」はここにはもういない。約8分に及ぶ大作の『Beam/s』では"Tell 'em you're not(いないと言ってくれ)"と怨念を繰り返すが、作品全体を浮遊する寂寥感はリリックを読むことで更に実感できる。この旅が終われば、「私」は終わる。自分が今も選んでいるこの場所での自由さとそこで生き抜く孤独さはセットであるが、「私」は旅を続ける意思を表示している。この感覚は、真剣にクリエイティブなもの(それ以外もだと思うけど)に取り組んだことがある人には、理解できる感覚なような気もする。

作品制作の話を調べると、彼らが従来と異なる方法で取り組んでいるのが分かる。Heavenly RecordingsのHPやA Quietus誌でのインタビューを読むと、制作スタジオとなったマンチェスターより南東のGoyt MillのスタジオにちなみGoyt Methodと呼ぶ彼らの手法が生まれた。それは、スタジオにある全ての機材やシステム、プラグへのアクセスとランダム化した組み合わせを作る手法により、全く異なるサウンドの可能性に何百万通りでもアクセスできるということへの気付きだ。そうした偶然性も"Tableau"のサウンドの中心となっていく。

Goyt Methodに加え、バンドは3つの運用を設け、新しいサウンドへの実験と挑戦が進んでいく。それは、①Goyt Methodを遵守し可能な限りレコーディングを行う ②デモ音源を作らない ③友人のJoel Anthony Patchett(過去2作ではエンジニアを担当)と共同で作品をプロデュースする(専門のプロデューサーは起用しない)。

上記の手法がどういった効果をもたらしたのか、音楽の制作経験が皆無な私には正直あまり分からないところだが、こんな面白いエピソードも発見した。それは、滞在型のスタジオを選択することで、一緒に料理をするというアイディアだ。「一緒に料理をすれば、壁をなくすことができるんです」「朝ごはんを作ってあげたり、お茶を入れたりすれば、音楽的な新しいアイデアももっと見せやすくできる。同じ釜の飯で、結果はもっとシンクロしていく」とVo/BaのEsméは話している。

ガレージロックとサイケロックとディスコとファンクがミックスされ絶妙な陽気さを備えたバンドの印象から、Warpaintや『The King Of Limbs』以降のRadioheadをも想起させる成熟さと洗練さを身に付けて内省的でダウナーな新境地を切り開いたThe Oriellesの最新作"Tableau"。これまでの自分たちに安住せず、クリエイティブな情熱を一層に燃やすThe Oriellesの旅はこれからも続く。来日公演の実現は熱烈に期待している。


[Artist Infomation]
The Oriellesはウェスト・ヨークシャーのハリファクスを出身とし、現在はマンチェスターを拠点に活動する3人組。2018年にはテクノやハウスをフィールドに活躍する韓国のPeggy Gouの代表曲である『It Makes You Forget (Itgehane)』をカバーしたことも話題になった。

https://www.youtube.com/watch?v=Mcc158scJ1Q


■Member
Esmé Dee Hand-Halford - Lead Vocals, Bass
Henry Carlyle Wade - Guitar, Vocals
Sidonie B Hand-Halford - Drums

ex. Member
Alex Stephens - Keyboard

■Discography
Silver Dollar Moment (Heavenly Recordings, 2018)
Disco Volador (Heavenly Recordings, 2020)
La Vita Olistica (Heavenly Recordings, 2021)
Tableau (Heavenly Recordings, 2022)




村田タケル

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