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240304 シルクスクリーン備忘録

人生初めてのシルクスクリーン。

せっかく芸大に来たのに他専攻の技法を一つも体験できていないと思って、卒業までの春休み、他分野の制作をしようと決心し、版画専攻4年生萱原くんに連絡。
そして今日、それが実現した。

忘れる前にひとまず作業工程をまとめる。
器具や材料などの名前はもう忘れているので丁寧に説明してくれたのにほんと申し訳ない。

まず初めに、おもむろに冷蔵庫から取り出された、ねっとりした液体を、網戸みたいなやつに何層か塗りつける。スクワットするイメージで。

長いパウンドケーキの型みたいなものに液を入れて、傾け、押し付けながら引き延ばす。

その液体が乾くまでの間に、モチーフの準備。
僕は「サモトラケのニケ」を選択。多分、一番好きな芸術作品。

フォトショップの知らない機能をたくさん知った瞬間。

ニケの作品をフォトショップで加工する。
「被写体を選択」で、ニケを切り抜いて背景を消去。AIってすごいと思った。
次に「イメージ」→「モード」→「モノクロ2階調」で、「種類」は「ハーフトーンスクリーン」を選択、つぎにその調整で、「線数」「角度」「網点形状」で好きな表現を選択。「線数」の数値が小さいと荒く、大きいと細かく、テクスチャ感が変化する。
これは建築パースとかの表現にも応用できると思ったので克明に記憶していた。

そして、加工した画像データをA3サイズで印刷。
ちょうどその頃に液体が固まっていたので次の作業へ。
印刷した紙の上に例の網戸(じゃない)をのせ、紫外線照射機に乗せ、紫外線照射。

ねっとりした液体は紫外線によって硬化して、網戸に固定される。

紙などの厚さに合わせて紫外線照射量を調整、数値を入力して蓋を閉めて、照射スタート。すごい電子レンジみたいな感覚。
「シルクスクリーンは待ち時間多いんやねー。」って会話をしていた。

2分ほど待って照射終了。
黒によって紫外線が通らなかった部分は網に固定されず、それ以外の紫外線が通過したところは液体が固まって固定される。
その網戸(じゃない)を持ち出して水洗い場へ。
水をかけるとニケが浮かび上がってきた!

紫外線で固定されなかった部分は水に溶けて流れる。

で、水を拭いて、これがまた乾くまで乾燥機へ。
待っている間に絵の具の調合。
視認性、色のイメージや温度感などを気にしながら混ぜる。
なんかずっと理科の実験してる感覚になる。

さまざまな絵の具からありがたくテイクフリーのものをいただく。

網戸(じゃない)も乾き、作業台にそれぞれ固定し、いよいよ準備完了!
まずは萱原くんのお手本を見せてもらう。

「ここで絵の具を馴染ませて〜、」って説明してくれてる。
持つ角度は45度で、スッと前に押し出すイメージ。
持ち手は45度のままグッと下に押し込んで、素早く自分の方へ引き戻す。
出来栄えを確認。「うおぉぉぉぉ!!」って声出た。

その後、3回刷る作業をさせてもらって、萱原くんの含め4枚が完成。
網戸(じゃない)が丈夫で、思ったより力が必要で、かなり制作工程が身体的で楽しかった。

右下が印刷したやつ。黄色が光沢紙で、青がカンバス生地。

初めの黄色いのは裏紙に刷っていたので、そぜぞれ重ならないようにカット。
これはこれで額装したら可愛くなりそう。
その後、満を持してカンバス生地に挑戦。萱原くんも褒めてくれる出来栄えになって嬉しかった。

その後は絵の具や、網戸(じゃない)などの掃除。
刷る瞬間が楽しくてすぐ終わる分、その前後の作業がすごく長く、手間に感じる。
しかし必要な作業。そのうえ、この工程がシルクスクリーンたらしめているようにさえ感じる。

準備も掃除もやってくれてほんとありがとうです。。。

準備にこんなに工程をかけて、時間をかけて、実際に刷る作業は一瞬。そのあとまた片付けもする。すごくこの過程が版画(シルクスクリーン)独特に感じた。
例えば油絵とか彫刻、漆とかもそうかもしれないけど、ほとんどが一つの作業の繰り返し、その集積によって完成に近づけていく。自分という存在が連続的に行う行為で、一直線上の継続された時間感覚だと解釈できた。
それに対して、シルクスクリーンはほどんどが自分の手の外で起こったことで、その工程もぶつ切り、最後の一瞬で自分の手によって完成に導く。そして最後にできたのは、一番初めにイメージしていた絵面。ぶつ切りにされた、断続的な時間感覚の円環のようなものを感じて、萱原くんの作品展インタビューや対談などを読んで、納得できた。

モチーフをニケにする前、萱原くんの卒業制作を見て、シルクスクリーンで滲みとかを出せるものだと思っていて、「影のスタディ」っていうタイトルで連作を刷ろうと構想していた。ランダム生成した形の影を出力して刷ろうと思っていた。
その時は影が滲むと面白いなーとかしか考えてなかったのだけれども、今日の作業を経て、紫外線を照射した際の影の部分が、絵の具の色として刷り出されるということに気づき、そもそもシルクスクリーンが影の表現であったのだとなんか納得してた。

自分の畑からシルクスクリーンを観察した時に、その手法が光に対する影、それをインクで取り出すような、虚の部分を実として取り出すような感覚にシンパシーを感じた。

また、建築的にも「北側斜線」とか「天空率」とか、影よりも光が重視されるような社会で、(「陰翳礼讃」とはまた別で)建築の落とす影から明るいイメージを抽出するにはどうしたらいいのかなぁとか考えたりもして、「影のスタディ」シリーズはいつかやってみたいと思う。

あとは木枠に貼り付けて完成。ありがとうございました。


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