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世界14カ国で読まれ、全米で100万部売れた文章術の古典の「急所」を紹介する。

ナタリー・ゴールドバーグという人物をご存知だろうか。
「20世紀で最も人気のあるライティングマニュアル」と称される、Writing Down the Bones: Freeing the Writer Within(邦訳:魂の文章術) を著した人物だ。

この本は全米で100万部以上を売上げ、世界14カ国で販売されるほどの人気を誇る。日本でも改訂を繰り返し、初版は1986年に発売されたが、その内容については今なお色褪せない、「文章術の古典」として知られる名著だ。

実際、私の書く記事もこの本の影響を強く受けており、「書けないとき」にとりあえずこの本を開く、という運用をしている。
というのも、「とにかく書かせる」ことについて、この本より優れた本はないからだ。

例えば、書き出しだけでも15のアイデアを提供してくれる。以下に一部を紹介すると、

1.窓から差し込む光についてなにか書こう。すぐ机に向かって書きはじめること。いまは夜でカーテンが閉まっているとか、自分は北極のオーロラについて書きたいなどと文句を言わず、とにかく書く。十分、十五分、三十分と書きつづけよう。  

2.「こんなことを覚えている」という書き出しで書いてみよう。たくさんのたわいない思い出を綴ろう。たいせつな思い出に行きあたったら、それについて書くのもいい。どんどん書きつづけること。五秒前のことでも、五年前の出来事でもかまわない。いま起こっていないことはすべて過去の記憶であり、それらは書くことでよみがえってくるからだ。手がとまってしまったら、なにか思いつくまで「こんなことを覚えている」と繰り返し書こう。

3.否定的であれ肯定的であれ、感情を強く動かされることがあったら、それが好きだという前提で書いてみよう。好きだという立場で、書けるだけ書こう。次に紙を裏返しにして、嫌いという立場から書いてみよう。それもすんだら、同じことについて完全に中立な立場で書いてみよう。

4.テーマ・カラーを選んで──たとえばピンク──十五分間散歩しよう。ピンク色のものに注意しながら歩くこと。家に戻ったら、自分の見たものについて十五分間書こう。 

5.書く場所を変えてみよう。たとえばコインランドリーで洗濯機のリズムに合わせて書いてみる。バス停や喫茶店でもいい。そのとき自分のまわりで起こっていることを書き表そう。

6.自分がどんな朝を過ごすかを読み手に教えるのはどうだろう。目覚めから、朝食、通勤……。できるだけ具体的に書くこと。ゆっくり時間をとって、朝の出来事の細部を見なおしてみよう。 

………

だが、そうしたメンタルな部分に踏み込むことが多いため、「魂の文章術」の中身を文章術というより「自己啓発」と感じる方のほうが多いだろう。

実際、Amazonのレビューには
「技法的な解説は皆無」
「禅問答的な、なにか深いことを言っているようで大したことを言っていない」
といった辛辣なコメントが付いている。

例えば、内容の一部を紹介すると、「第一のルール」として、次の項目が紹介されている。

1.手を動かしつづける(手をとめて書いた文章を読み返さないこと。時間の無駄だし、なによりもそれは書く行為をコントロールすることになるからだ)。  

2.書いたものを消さない(それでは書きながら編集していることになる。たとえ自分の文章が不本意なものでも、そのままにしておく)。  

3.綴りや、句読点、文法などを気にしない(文章のレイアウトも気にする必要はない)。

4.コントロールをゆるめる。

5.考えない。論理的にならない。 

6.急所を攻める(書いている最中に、むき出しのなにかこわいものが心に浮かんできたら、まっすぐそれに飛びつくこと。そこにはきっとエネルギーがたくさん潜んでいる)。

他にも
・とにかく練習する
・何かについて書けるようになるまでは時間がかかる
・最初の5年間はガラクタを書く覚悟をする

など、「文章術」というよりもどちらかというと「心構え」や「動機づけ」などの項目が多い。したがって「インスタントに役立つ」ような技術を求めている人にとっては、多少物足りないと感じることも多いだろう。

実際、文章を書く行為は、技術的な要因で挫折するよりも「書き続けることで上達する」というあまりにも遅々としたプロセスに耐えきれなくなって、やめてしまう人が多い。

だから、ナタリー・ゴールドバーグが「とにかく書け」と励まし続けるような文章になるのも、当然だと言える。

文章術の古典たる所以とは

だが、この本が古典として読みつがれる理由は、もちろんそれだけではない。
というか、体系的に書かれているわけではないので気づきにくいが、この本はかなり多数のHow-toにあふれている。

私も読みはじめて1/3くらいまでは「退屈な本だな」と思っていたが、それを過ぎると、俄然面白くなってくる。具体的な話が増えるからだ。

特に「どう書くべきか」よりも「何を書くべきか」をここまで具体的に教えてくれる本は他にあまりない。

この切り口は、多の文章術系の本では、「前提」として、あまり詳しく触れられることがない。
が、それであるがゆえに「他の文章術の本ではあまり教えてくれない真理」に気づくことができる。

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