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【今でしょ!note#74】 「地域経済循環分析」から地域を学ぶ (3/3)

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

前々回から計3部作でお届けしている「地域経済循環分析」シリーズの最終回です。
この記事をはじめてご覧になる方は、ぜひ第一話からご覧になって、スキを押しておいてください!

第一回、第二回では、RESASが提供している地域経済循環分析を構成する「生産」「分配」「支出」が何ぞや?という話と、生み出したり、外から流入した所得がこれらの間をうまく循環している地域と、うまく循環していない地域のパターンについて整理しました。

最終回となる今回は、先日ご紹介した「観光」と「地域経済循環分析」を掛け算して、「観光による地域活性化」というテーマで深掘りしていきます。

このあたりも、環境省のレポートで興味深いデータがありましたので、これらからピックアップしてご紹介していきます。

https://www.env.go.jp/content/900495287.pdf

観光が地域経済発展に貢献しているか

近年、インバウンド需要は拡大を続け、2023年の訪日客の旅行消費額は、初の5兆円を超え、5兆2923億円でした。

2024年1月17日 日経新聞より引用

訪日客数は、コロナ前の8割程度まで回復し、2024年はさらに増える見込みとなっています。
初めて日本に来る訪日客は、東京や京都などのメジャーな観光場所に行く一方で、何度も日本にくる比較的近場の国の方たちは、日本独自の伝統文化や伝統料理に惹かれ、地方を選ぶ人も多いそうです。

地方の観光業にとっては、チャンスが大きい一方で、「地域経済循環分析」の視点で考えると、せっかく自分の地域に観光客が増えても、消費で落としてくれたお金が、そのまま域外に流出してしまうのは悲しいですね。

オーバーツーリズム、地方の供給制約問題もありますから、観光客数だけ増えて受け側のキャパシティがないのであれば、需要過多で十分な供給ができず、かえって観光客の満足度を下げてしまうことにも繋がります。
観光業で地域活性化を狙う地域にとっては、かなり真剣に向き合う問題です。

地域の観光政策の最終的な成果指標は、地域住民の所得向上です。
観光消費で稼いだ所得が、きちんと地域内で循環して、地域住民の所得向上につながっているかを把握できるのが、地域経済循環分析ですね。
観光消費は大きいものの、地域住民の所得向上につながっていないケースは「観光地の罠」と呼ばれています。

観光が地域住民所得向上に貢献している地域

次のスライドは、とても興味深いです。

環境省HP「地域を強く。地域経済の分析セミナー」P35より引用
http://chiikijunkan.env.go.jp/manabu/bunseki/

一般的に観光地と呼ばれている全国の19地域がピックアップされています。

これらの地域では、「民間消費流入率はプラス」「宿泊・飲食サービス業が得意な産業である」「宿泊・飲食サービス業が地域外から所得を獲得できている」という共通した特徴がありますが、「夜間人口(その地域の常住人口)1人あたり所得」が全国平均以上である地域は、「那須」「草津」「箱根」「山中湖」「軽井沢」「高山」「下呂」の7地域のみとなっています。

環境省HP「地域を強く。地域経済の分析セミナー」P31より引用http://chiikijunkan.env.go.jp/manabu/bunseki/

例えば軽井沢では、観光消費として176億円の消費が行われており、地域内の分配からの消費・投資である1,066億円と合算すると1,242億円の消費・投資が地域内でなされています。
消費対象の物・サービスの原材料などは、地域内から調達しているため、所得の地域外への流出は45億円程度にとどまり、地域内生産は1,242億円 − 45億円の1,197億円にのぼっています。

この生産活動で生み出した所得は、本社や通勤などにより域外に流出しにくい構造となっているため地域住民に分配される流れができており、1人あたり所得は年間561万円と全国平均418.1万円を上回っています。

「観光地の罠」にはまっている地域

一方で、ピックアップされた主要観光地19地域のうち、「民間消費流入率はプラス」「宿泊・飲食サービス業が得意な産業である」「宿泊・飲食サービス業が地域外から所得を獲得できている」という点は満たしているにも関わらず、「夜間人口(その地域の常住人口)1人あたり所得」が全国平均以下である地域の方が多いです。

同上

「函館」「釧路」「富良野」「笛吹」「甲州」「山ノ内」「熱海」「伊東」「伊豆」「萩」「佐世保」「別府」の12地域が該当しますが、外目には「なぜ山中湖はうまく循環できている地域で、伊豆は観光地の罠にはまっているのか」なんて分からないですよね。

このあたりが「地域経済循環分析」により、浮かび上がってくるのです。

環境省HP「地域を強く。地域経済の分析セミナー」P30より引用http://chiikijunkan.env.go.jp/manabu/bunseki/

熱海であれば、観光消費額は244億円と軽井沢よりも70億円近く大きな地域内消費が行われていますが、地域外から調達している原材料や土産品が多いため、観光消費額を上回る272億円の資金が地域外に流出しています。

その分、観光関連事業の収益が拡大しませんから、「生産」サイドの労働生産性を見ても、一人あたりが年間に生み出す価値の全国平均が901.8万円なのに対し、熱海では一人あたり656.5万円に留まっており、全国1,719市町村のうち、1,113位の労働生産性となっています。

労働生産性が低いため、当然地域住民への分配額も小さくなり、地域住民の一人当たり所得は371.6万円と全国市町村で1,404位となっています。

熱海といえば、観光客がたくさん集まる場所ですから、実は地域住民の所得が低いというのはビックリです。

地域内に循環するお金を落とす工夫が大切

観光業で地域住民の所得向上に貢献できるか否かは、いかに地域に来てもらって観光消費してもらうか、という視点だけではなく、いかに地域内に落としてもらったお金を地域内で循環できる仕掛けが作れているか、の視点がより重要です。

観光地として人を惹きつけるだけでなく、観光地で事業を営む地域企業の事業スキームが鍵になっています。

調達面では、自社グループで原料調達したり、自社発電などを手掛けて外からエネルギーを調達しなくてもいいようにする工夫があります。

自社グループだけで難しいことは、地域外他社や近隣地域から調達することで、近隣企業との取引を活性化させることでも所得流出をおさえることができます。

雇用面では、地域内から新規採用したり、自社の内製化部分の割合を上げることで、域内雇用を増やすことが挙げられます。

観光客が2,000人増えて観光消費が13億円増えた場合、観光地で販売する財・サービスをすべて域内調達できると29.3億円(226%)の経済効果が得られますが、域内調達が20%だと5.86億円(45%)程度になるそうです。

域内調達・域内雇用の重要性が分かる数字ですね。

それでは、今日もよい1日をお過ごしください。
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