見出し画像

受話機

卒業制作があまりにも煮詰まった。
彼女にとにかく何も考えず好きなことをやれと言われ、半ば無理やり山梨へ一人ドライブに行った。
ニコニコレンタカーでスズキの白いアルトを借りた。
何も考えず、日がな一日ただドライブをした。

今そこにいる自分と、今そこにいない自分が混ざった。
帰ってきた自分は、どこにいる自分なのだろうか。ドライブに行ってから2日経つが、いまだによくわからない。

帰ってきてからは何かをとにかく進めようとするのをやめている。本当は意識も向けたくない。だから本を読んだり酒を飲んだりして誤魔化している。
だが、「やめて」はいないのだろう。保留にしている。かかってきた電話に「ちょっと待って」と言って保留のボタンを押す。そんな感じ。受話機はそこに放り出されたまま、俺はそれをできるだけ見ないように生活している。
とにかく前の制作に戻らないことを意識する。今ここにいないあの自分と一緒は嫌だ。
きっとあの自分にはここを見ることができない。
受話機はまだ保留のまま、放り出されている。俺はもう、その電話をほとんど切る気でいる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?