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「松寿千年翠」が示してくれたのは、地道な努力の後押しでした

九月は無常にもカレンダー通りにやってくるのに、なかなか秋がやってこない。そんな2023年ですが、みなさんいかがお過ごしですか。

いつか行きたい日本の有名観光地を二つ挙げろと言われたら、おそらく富士山と出雲と答える私。この秋初めて出雲を訪れる機会をいただきました。

サイン会です。
島根県出雲市で開催していただいている「ちはやふる展」が9月10日までなのですが、それに際してサイン会をさせていただくことになりました。

去年の北九州でのサイン会以来の飛行機!

久しぶりの羽田空港は保安検査場のルールが変わっていたり、チェックインのやり方が変わっていたりで右往左往。まだ変わるのか!こんなに変わるのか!また新しい機械が入ってる!と度肝を抜かれるたびに、もうほぼ変わることのない「傘」の完成度の高さを思います。
傘、すごいな。空港、まだまだ頑張れ。

空だーー飛行機だーー
うみほたるだーーーーー
諏訪湖だーーーー
若狭湾だーーーー
宍道湖だーーーーーーーーー

晴れ渡る空。つまりは視界を遮る雲がない中のフライト。
地図帳やGoogleマップでしかいつもは見ることのできない日本列島のアウトラインが眼下に広がることが嬉しくて、本居宣長が今飛行機に乗ってんのかなというくらいず〜〜〜っと窓からの景色を見てしまいます。はしゃぎすぎ。これまで何だかんだ100回くらいは飛行機に乗っているのに。

しかしここは初めて訪れる特別な場所。出雲縁結び空港です。

IZUMO!
IZUMO!

空港からもうビシバシ感じる出雲のテーマ「縁結び」。
縁に導かれてここに来ていること。
地下の水道管のように潜んでいる「縁」というインフラを、地上にモリモリと呼び起こす地。それが出雲です。


お昼にいただいた出雲大社前の出雲そばの人気店「砂屋」さんのメニューも、「1800円」なんて無粋な表記は致しません。「1800縁」です。
やばい。
高いものを、縁のボリューム多めのものを頼んでしまう・・・っ。

1950縁!!


普通だったら彩三色割子蕎麦なんだろう・・けれど・・・「縁」と言われたら積み上げるしかありません。彩五食割子蕎麦いろどりごしょくわりこそばです。宍道湖のシジミのお味噌汁もつけたよ!ものすごく美味しかった〜〜〜。
量は多かったですが一片の後悔もありません。具が載っているのが好きなタイプの蕎麦好きならば、この食べ方はベストなのではないでしょうか。一皿食べ終わるごとに、残った具やつゆをそのまま次のお皿に移して食べ続けるスタイル。とろろそばとか月見うどんとかの出汁や卵が残っちゃうのが切なかったの!これなら一滴残らず食べ切れます。

そして、やっときたよ!出雲大社〜〜〜〜〜〜!
赤とんぼさえも飛んでない、まだ夏の空気の境内。美しく剪定された木々と芝生。立派な黒松の多さに目がいきます。

神社の良さはいろいろありますが、まず第一に巨木が多く残っているところ。

大きく育つ杉や檜、黒松を眺めながら一歩一歩進むたびに思います。
「もしも木に生まれ変わるなら、神社で育ちたい。」
こんなに四方八方に伸びる百日紅見たことがない。見惚れてしまうほど自由な百日紅の枝。悠々とピンクの花を咲かせています。

運転手さんに口を酸っぱくして言われたのが「まず祓社はらえのやしろにお参りすること。そして出雲大社の本殿は右回りで参ること」。

そのタクシーの運転手さんの言葉がなければうっかり通り過ぎてしまうほど密やかに、参道の右手にありました。祓社!
あぶないあぶない。講談社の編集さんたちとヒヤヒヤしつつもホッとして参拝します。なにせこの祓社は単に参拝するためにちょっと身を清めるというレベルをこえて、根本的に(?)汚れを祓ってくれるお社なのです。

https://izumo-enmusubi.com/entry/harae-yashiro/

つまり、罪・穢れとは水に流れて、最後は黄泉の国まで飛んでいくのですね。それを神様がバトンリレーで運んでくれていると。ここで拝むとあなたに取りついている穢れが全て取り払われて、いったんクリアな状態になります。つまりもうお祓いを受けたのと同じですね!

太っ腹ーーー!

いつもは意識しないけれど、ここで「太っ腹ー」と思ってしまう私に穢れがないわけがない。いつもより念入りにお参りします。そう、出雲では二礼四拍手一礼。


出雲大社の本殿では「右回り、右回り・・・」と唱えながらいったのに、その思いが強すぎて右側に歩いていってしまって「いや、これは結局左回りなのでは?」と編集さんに突っ込まれたのは半分歩いてきてしまってから。

ポンコツーーーーー

ポンコツの痛みを噛み締めて、本殿でありったけの小銭をお賽銭箱に入れて、お参りする心の中。
いつも手を合わせる瞬間に一番自分が混乱していることに気が付きます。
願い事も心構えも事前に整えていないと出てこない。

お賽銭を入れたらお願い事をする前にすべきことが3つあります。
1.自分がどこから来た何者なのかを名のる
2.日頃の感謝をお伝えする
3.決意を伝える
4.決意に対するご加護をお願いする

お参りをする時に大事なのは「加護をお願いする」ということ。自分自身の望みと、そこまでのルートの具体的な細分化。それができているのか?と問われる時間でした。四拍手はなんだか楽しいお祭りが始まったような賑やかさ。不思議と明るい気持ちで心を整えることができました。
二拍分考える余裕が増えたから?


ちはやふる原画展会場!
久しぶりに会う原画ーーー!元気にしてたかい?
静かな空間でのお抹茶セット超おいしい

原画展を開催してくださっている出雲文化伝承館の茶室松籟亭では来てくださったお客様が和菓子とお抹茶のセットも楽しめるようになっており、私もいただきました。
水引と山茶花さざんか。さらっと舌の上でとけてゆく甘みとお抹茶の柔らかな苦味がポンコツの胃にも染み込みます。

ふと茶室の床間を見ると、どこかで見た文字の並び・・・

ちはやふる原画展の第二会場である平田本陣記念館のサイン会会場の床間にも、同様の掛け軸が飾ってありました。

「松寿千年翠」しょうじゅせんねんのみどり

これだーーーーーー

「松樹千年翠」は禅林句集に「松樹千年翠 不入時人意」と出てきます。「不入時人意」は、「時の人の意に入らず」と読みます。「松樹千年翠 不入時人意」の意味は、「松は四季を問わず、また時を経ても変わらず緑をたたえている。しかし、人が気にすることはほとんどない」です。

「日本実践禅のブログ」より

浦安の間を描き続ける間に、何度書いたかわからない掛け軸です。
ちはやふるという作品に携わってくださったご縁で、原画展開催中は出雲文化伝承館も、平田本陣記念館も、どちらも同様の掛け軸を掲げてくださっているということでした。

「出雲のお庭は松が主役なんですよ。メインになる松を中心に、枯山水の回遊式庭園を作っています。北西に出雲地方独特の築地松を廻らせ、巨大な飛び石や短冊石が、この床間の前に座る人から一番美しく見えるように配置されています」

床間の前に座らせてもらってから、そこがどれほど特別な席なのかを教えていただいて、ぐっとお腹に力が入りました。

こんなにポンコツなのに・・・
一番良い席に通された・・・・
私のための掛け軸のかかる床間・・・
それが二つも・・・

サイン会では朝10時から3部制で150名の方が来てくださいました。
島根の出雲市、その中でも電車やバスがなかなかない場所です。どの人にも「何時間くらいかかりましたか?」と尋ねて、その数字の大きさに「ひっ」となり、乗り越えてきてくれた想いの強さに胸が熱くなりました。

だって青春18きっぷで13時間とか!
1日で行けるかと思ったら行けなくて、途中京都で一泊を余儀なくされたとか!
10時間日本海側の下道をドライブしてきたとか!

連載が終わってもう一年経っているのに。
「やっとサイン会に当たったから、遠くても頑張ってきました」という方もいれば、「4回目です」とか「5回目です」という方も。
すでに4回サイン会に当たっていたら、島根は遠いしもういいかな・・・ってなるんじゃないですか。
5回目も遠い旅路を乗り越えてきてくれる方は、一体どんな思いを!?「また来ます」って、その強運と愛情はどこから来るのか!?

サイン会に当たらなくても、お手紙だけでも…と職員さんに渡してくださった方も。
ありがたい。
どうにかお会いしたかった。長くて強い愛情がちゃんと届いてると伝えたかった。

出雲で愛される黒松の木。「できるだけ立派な築地松(防風林としての松)のある家にお嫁に行くように」と言われるお国柄。
冬も枯れ落ちることのない常緑樹の松のみどりは、千年の翠。

人の成功に際して地道な継続を促す言葉として使ってよいかと思います。その場合、牡丹一日紅とセットで、牡丹一日紅を倒置されて、
牡丹一日紅 松柏千年青
として使った方が分かりやすいかと思います。試合に勝って称賛の最中にいる選手に、そうした喧噪をさておき、さあ今日も基礎練習から大切にやっていこうと声をかける言葉です。

「日本実践禅のブログ」より

地道な継続・・・・

連載をしていた頃は、毎回「漫画の書き方がわからない」と思いながらも、それでもやっぱり前号の自分からのバトンが回ってきているのを感じていたのです。ここまで走ってきているから、変わらず走れと。

でも連載が終わって、本当に止まってしまったのを感じていました。

どこからもバトンは回ってこなくて、一から新しい世界を組み立てないといけない。

望洋とした世界。

手にバトンがないことで、自由である身軽さともう一度走り出す足の重さを感じていました。

でも。
出雲文化伝承館と、平田本陣記念館で愛情いっぱい展示された原稿を見返していたら、これを作ってくださった朝日新聞のNさんと、展示に工夫を凝らしてくれた島根のみなさんの眼差しを見ていたら、そしてまた原画を見返していたら、
描いた時に本当にものすごく集中して懸命だった自分がそこにいて
変わらず大事に思ってくださるファンの方もいて。。

ああ、あるじゃんって。

バトン、ここにあるじゃんって。

私の手は空っぽじゃないじゃんって。


何度も何度も、会いたいと思って来てくれた皆さん、ありがとうございました。
島根会場には、島根でかるたを頑張っている若い人がたくさん来てくれて、お友達同士でサイン会に当たって嬉しそうに「サイン会の後練習に行きます!」と言ってくれました。
お嬢さんと一緒にかるたを始めました、というお母さんもお二人で来てくれたり、地元で始めて今大学でも続けてます!という方も。
本当にたくさん。
島根のかるたの未来も明るい!というのをひしひしと感じました。

東京・名古屋・大阪・北九州・神戸と大都市圏で原画展とサイン会を開催することが多かったけど、もっといろんな土地に行ってみたかった。
原画展を引っ提げてというのが難しいのもあるのですが、それだったらサイン会だけでも。

登山がひたすら苦手なので富士山登山はきっともっと背中を押されないとやらないと思うのですが、「いろんなところでサイン会」は夢として持っていてもいいのではないかと思えてきました。

もう4回も5回も会いにきてくれている方とはまた別に、1回もまだ会えていないたくさんの人にいつか会えるように、この秋からまた頑張ります。

ちはやふる原画展の会期は9月10日まで。
ラストの原画展です。本物の原画をお見せできる最後の機会に、どうぞ島根の出雲を訪れてみてくださいね。お待ちしています!

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