どうしても描きたいものを描く「きみがため」
タタっと目の前に飛び込んできてくれた女の子のスカートにも、降り注ぐ薄桃色の花びらにも、学校からの書類の多さにも、全部に鱗粉のように春がくっついています。
皆さんお変わりないですか。
私は今、だいぶ緊張しています。
だって今日は一年4ヶ月ぶりの単行本発売日。
しかも2冊。
編集さんたちみんなの努力もこれまでの4倍くらい感じて、だからもう今椅子に座ってるのに顎に力が入ってるのがわかります。
世界に出てこの本で戦うのだという気持ち。ファイティングポーズを取らない代わりに頭蓋骨にそのパワーは来てます。
歯を食いしばらないように上下の歯を二ミリ開けるのですが、そうするためにまた力が入って、顎全体がとても疲れています。これがプレッシャーとか重圧とかと言われるものか・・・・とキーボードを打ちながら思います。
緊張が脳や心臓や指先に出る時もあるのですが、架空のバッターボックスに一人で立つ時には顎が一番戦っているのだと初めて知りました。
でもですよ。そんな殺気はいらないわけです。握った手に力が入れば入るほど、何もつかめなくなるのを知っています。
大きく息を吸うときは、顎はゆるむし肺は膨らんで目線が上がります。
呼吸をしながら、どんなふうな気持ちで物語を編み始めたかを考えます。
ちょうど取材していただいた FRaUさんの記事が!!
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
カバーイラスト作成の写真を撮っていたんですが、相変わらず写真が下手でたまりません。世の中にはメイキングの記録が上手い人がたくさんいるのに、いまだにどんな道具があればいいのかわからず、スマホの影が映っちゃう。(勉強しなきゃ)
そもそも今回のテーマの歌として掲げた「きみがため」は二首ある札です。
なので、表紙はいつも誰かと誰かのペアにしよう、と決めました。
第1巻では、凛月と凛風の長良兄妹です。
元気がよく、仲が良く、でもそれだけではない兄と妹を描きたいな。
単行本がどれほど続くかわかりませんが、一巻のテイストがその後のデザインも決めるものになるので、とても重要です。
(でもちはやふるの一巻の時は何も考えてなかった・・)
構図は動きのある感じに。たくさんラフを描いて決めました。
クリスタで描いたラフをプリントアウトして、いつも使っているアルシュ紙の中くらいのサイズ(A3くらい)にトレースして描いて行きます。
線で各部分と、色で各部分があるので、線入れすぎなように気をつけてます。
写真を撮り忘れましたが、下塗りはホルベイン透明水彩のシェルピンクとジョーンブリアンを混ぜたものを体全体に塗っています。私は絵を描き始めてず〜〜〜いぶん経ってから「下塗りが何より大事なんだね!?」と気がついた遅い学びの漫画家です。アナログで描くみんな、下塗り大事だよ!
書き込んでいきます。ビビットな黄色はコピックで。相変わらずメイキング撮るより絵を描きたい魂が邪魔をして、写真を撮るのが下手です。手の影が写ってます。
色塗りでもう一つ大事なのが、いつも言っていますがグレーの使い方。細かいグレーもたくさん入れました。
髪の毛も紫をひそませつつ描き込みます。伝わらないと思いますが、線画の上を色鉛筆でフワッとさせてます。柔らかい輪郭にしたいなあと思って。
ホワイトを入れます。ホワイト入れる時が一番好き。でもミスするといちばん痛いので緊張です。
添える花も描きました。今回は胡蝶蘭のミディサイズ。
うちのスキャナーが、取り込んでも4Mくらいで荒くしかスキャンできないので、編集さんにお願いして印刷所さんに高精細でスキャンしてもらいました(100Mくらいある)。そしてその原画と蘭のイラストをクリスタ上でレイアウトしていきます。
ここでも試行錯誤。花をどう置くか?置いた花に影をつけたり、修正したいところに手を入れたり。アナログとデジタルのいいとこ取りをしていきます。
髪の毛に特殊な艶を出せるのもデジタルのおかげ。キラキラになりました。ここまで作って、あとはデザイナーさんにお渡しです。
表紙のデザイン、背景の色の決定、タイトルのデザイン、帯のデザインや文言の決定、カバー裏はどうするのか、背表紙はどうするのか、そういう無数の細かい決定をたくさん重ねて、一冊になった単行本。手元に来ると感無量です。また会えたね。
「また、かるたしよっさ」
そう言いながらページをめくってもらえたら嬉しいです。
どうか多くの人の手に届きますように。
めちゃめちゃ緊張しつつ送り出す一冊ですが、私自身は今新しい瑞沢高校かるた部のみんなを描くのが楽しくてたまりません。
続編のプレッシャーは脇において、かるた部のみんなをいきいきと描いて行きたいです。
あなたといっしょに、同じ空気の中にいられることを願っています。
有料部分ではイラストメイキングの動画を貼っています。よかったら参加してやってくださいね。noteの収益もすべて競技かるた支援振興に使われます。
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末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
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