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「人の話をよく聞く」私がここ数年で得た1番大きな衝撃と学びについて

年末から年明けにかけて快晴が続く東京でした。親戚がたくさん集まり、賑やかで楽しいけれどヘトヘトなお正月。そこを乗り越えようとする私をお天気が応援してくれてるようだ・・・と勝手なことを思いながら、1月4日には仕事始め。

そう、1月4日は松屋銀座のちはやふる展にて3年9か月ぶりのサイン会が行われる日でした。

家族の誰もそんなことは知らず、知っていても関心がなく、私一人が「サイン会までに痩せたかったけど無理だった・・・」と落ち込む鏡の前。
マスクをしてのサイン会。握手もできないということで、私が頑張れるところはアイメイクくらいなものですが、いつもよりは丁寧に・・・と鏡の前に立ちました。

二つの目がこちらを見ています。

「いつもぼんやりしている」と言われるちょっとタレ気味の目です。

でも私はこれから150名のサイン会当選者の皆さんに会うのです。

こんな時に思い出すのは、いつもあの先生です。
私がここ数年で得た1番大きな衝撃と学びは、あの先生の目に宿っていました。

「人の話を心底だいじなものとして受け取る。深く深く聞く」

その姿勢が伝わってくる目をしていたのは、坂本眞一先生でした。

初めてお会いした時のことを、私はとてもよく覚えています。私が坂本先生の漫画が大好きなことを知った共通の友人がいて、ちょっとした会で引き合わせてくださったことがありました。

坂本先生の漫画を読んだ方ならわかると思うんですが、事前のイメージはまさに「孤高の人」。どれほどストイックな漫画家ライフを送っても、坂本先生には届かない・・・と早めに荷物をまとめて旅に出たくなるくらい、同じ漫画家の地平にはいられないと感じるくらい、すごい先生です。

なのでめちゃくちゃに緊張して、どんなふうな先生なのだろうかとハラハラドキドキして、きっと英国王室の王笏のダイヤモンドのように1人で輝いているのが似合うクールな先生なのだ・・・と思って震えていたのです。

そしたら・・・・
そしたらですよ・・・・
とてもおしゃれで優しい声の、柔らかな物腰の先生が隣に座ってくださってですよ・・・・

わたしは

わたしはほんとうに、

重度に緊張して何を話してるのかわからない私の言葉を、

本当にこれ以上ないくらいしっかりと

「聞こう」

としている目を、初めて見ました。

初めて見るくらい、深く、「あなたの話を聞いている。受け取っている」と伝わる聞き方を、坂本先生はしてくださっていて、

ああ、人の話を聞く、というのはこういうことなのか・・・と

雷に打たれたように感じたのです。


家にいる時、家族が話しかけた時、いつも何か家事をしながらとか、テレビを見ながらとかで、相手の顔も見ないまま「はいはい、わかったよー」と返事をしている自分が、ものすごく「聞けてない」のだと痛感しました。

だから何度も「ねえねえ聞いて」と繰り返されるのです。伝わった実感のないやりとりのなんと寂しいことか。

家族とのやりとりなんて、一期一会の会話と同じにできないのは重々わかるのですが、余裕のある時は体を相手の真正面に向けて、しっかり目を見て、目の奥から「聞いているよ」と伝わるくらいにちゃんと聴こう、と思うようになりました。

でも、「もうこの人と話をすることは2度とないかもしれない」、そのくらいの切実な気持ちがないと、坂本先生と同じ目はできない・・・・とも思うのです。

アイメイクをしながら思いました。

私は今日は、なんとか坂本先生のように深い目をできるように、誠心誠意向い合うんだ。

150名のお一人お一人と話をする時間は約90秒と決められていました。

その90秒を大事に、もう2度と会えないかもしれないファンの皆さんの言葉を、来てくれた愛情を、その姿を、しっかり受け止めるんだ。

言い方は変なのですが、坂本先生から感じた目の力というのは、「目で相手を食べようとしている」ような、「抱きしめようとしている」ような、体というか、心に触れようとしている深さなのです。

それくらいの熱意を私もこのサイン会に持って行くんだ、とそう思って始まった1日でした。

150名、たくさんの方が来てくださって、もう本当に書ききれないくらいの個性豊かな出会いがありました。
ちはやふるからかるたを始めてくださったお子さん&親御さん、ちはやふるから漫画を描き始めてくださったお嬢さん、イラストを描き始めてくれた女性、ちはやふるから日本文学を専攻しようと思ってくださった学生さん、・・・20年以上応援してくれている方の、ほろほろに崩れ落ちそうな思いの丈・・・・。それがどれだけありがたいか、私はよくわかっていて、私も目の裏の方からほろほろと崩れそうでした。

握手もできないアクリル衝立越しのサイン会でしたが、こんなに愛情をもらっていいのか・・・というくらいの6時間。

そしてハッとしたのです。

私が憧れた坂本眞一先生の深い目。

その深い目を、ここに来てくださった読者さんみなさんがしていたこと。

「この機会はもうない」という気持ちで、たくさんの思い出とたくさんの言葉を持ってきて、でも伝えきれなくて、目の前の私のことを深く深く見つめてくれたあの目は、私が憧れてたまらない、空間を飛び越えて伝わる愛情だったのだと。


「人の話をよく聞く」

こんな普通のことがこんなに難しい。

でもそれができる人になりたい。

もらったものを返したい。

ずっと憧れているこの目標を、今年も私のテーマとして掲げたいと思います。「ちゃんと聞こう」とするスイッチがいつでも入れられる、睡眠と栄養がよく取れる一年でありますように。

今年もよろしくお願いします。

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