歓声のない競技場に見えたスポーツマンシップ
タイトルでは見えたと書いてあるが無観客試合であったため聞いた話から僕が思ったことであることを先に注釈しておく。
先日、僕の所属するチームの何人かが今シーズン初めての大会に出場した。コロナ禍で例年より大幅に遅れたシーズンインである。僕は以前からこの大会に向けて準備をしていた同級生2人に注目していた。2人は僕とは違う短距離選手。一緒に練習することはほとんどない。そのうちの1人のAとは仲が良く、一緒に食事や遊びに行くほどだ。もう1人のBは寡黙でそこまで親しいわけではなかった。しかし、2人がコロナ禍でもハードなトレーニングを積んできたことを僕は知っていた。2人とも大っぴらにはしていないが僕はその練習風景を何度も見たり聞いたりしていたからだ。そんな2人の初戦は幸か不幸か100mで同じ組でのレースとなった。実力も同じくらいの2人の直接対決を前に僕は初めて「どちらにも勝ってほしい」という気持ちになった。今までもたくさんのレースを見てきたがここまでの気持ちに至ったことはなかった。
レースの結果は思わぬ形で知ることになった。いつもチームでは出場全選手の結果が出そろってからまとめてLINEに送られてくる。しかし今回は違った。
Bが〇〇秒〇〇で部内新記録!!
部員全員のグループに送信したのはAだった。Bの記録に僕はうれしかった。しかしそれよりもAが心配になった。練習から互角のBと同じレースを走って敗れ、一番悔しいのは絶対にAだ。僕が知る彼の性格上、表には出さないがかなり悔しがっているに違いなかった。
その日の夜、Aから電話がかかってきた。心配したが彼はスッキリした口調で「いや~出ると思ったよ!まあすぐ抜かしてやるよ。」と。ここからはAから聞いた話であるため、100%本当かはわからない。
あんなに寡黙なBがゴールしてタイマーを見た瞬間に叫んだのだという。そしてAに感謝の言葉を述べたというのだ。これは全く嫌味でもなんでもなかった。思えば2人はこのコロナ禍でも声を掛け合って練習してきた。お互いの記録は間違いなく1人では出せなかったものだろう。
ライバルをリスペクトしあう関係、まさにスポーツマンシップだなと思った。僕が会場に行っていたなら絶対に拍手を送っていただろう。
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