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こじらせ男子目線

月は変わったけれど、梅雨らしい天気はまだ続いていて。
待ち合わせ時間の10分前には、君は傘をさしてそこに立っていた。

(相変わらず律儀だな)

傘の隙間からチラチラ見える君の斜め後ろからの顔が、少し不安そうで。
ごめん、そういう表情も好きなんだ。

「葉山さん、お待たせ」

他人行儀に声をかけると、君はハッとしてふり返った。

「よし君。よかった元気そうだね」
「? 元気だよ? 具合悪いなんて言ったっけ?」
「言ってないけど、最近バイト中元気ないし。SNSでも調子悪そうな呟きあったから」
「そうだっけ? 意識してなかった」

うそ。
君がかまってくれると思って、ちょっと事実より大袈裟にインスタ発信してた。
不安がらせるつもりはないんだけど、君が俺を心配してくれると思うとちょっと嬉しくて。

案の定、普段はLINEなんかしてこないのに、君は突然心配のメッセージをくれた。
意地の張り合いは俺の勝ち。
勝ち負けなんてないっていうかもだけど、連絡が来た時は正直“勝った“って思ったよ。
ごめん。

「俺の心配してくれたの」
「……元気ならいいよ」
「うん」

もっとたくさん話したい。
もっと君が笑顔になるような話題をふって、楽しいって言ってもらいたい。
なのに俺は、君に俺が好きだってバレるのがどうしても嫌だ。

理由はわからない。
とにかく君を惹きつけておいて、ずっと焦らしておいて、少しだけ本音を見せて。
そうやってずっと君の思考を俺だけでいっぱいにしておきたいんだ。

「よしくん、傘持ってこなかったの?」
「小雨だし。……すぐに帰ると思って」

こう言えば君が傷つくってわかってるのに言っちゃう。

「そっか……」
(ほら、傷ついた)

傷つくくらい俺と一緒にいたいんだよね。
君は俺に夢中なんだよね。

(もっと一緒にいたいって言えば?)

そう思っていたら、君が遠慮がちに俺を見上げた。

「……雨、少し強くなってきたから。当たらない場所に移動しない?」
「いいけど」
「あ、迷惑なら……」
「いや。少しだけなら時間取れる。10分くらい?」
「10……そっか。なら、あのビルの下で少しだけ雨宿りするくらいかな?」
「いいよ」

10分がリミットなのは、それ以上君の隣にいたら触れてしまうから。
きっと抱きしめて、キスして、それ以上も求めてしまうから。

そうしたって君は嫌がらないのかもしれないけど。
でも、万が一手を振り払われたりしたら、俺は多分立ち直れない。

君からの拒絶がこの世で一番怖いんだ。
こんな本心 見せるわけにいかないだろ。

「……」
「……」

10分、特に会話もなく立ち尽くした。
君はすごく困った感じで俺を時々チラチラと見る。
その瞳があっという間に心を奪っていくから、俺は言葉が出なくなる。

「……ごめん、ね」
「何が?」
「呼び出したりして。迷惑だったでしょ」
「まあ、ね。ていうか、俺は別に元気だし、何かあったらそう言うよ」
「う、うん。わかった」

俺を引き止めておくのが悪いと思ったのか、君は傘を開いて道路にでる。
そして振り返って最高の笑みを浮かべた。

「明日、シフト一緒だったよね」
「あーそうだっけ? 確認してない」
「一緒だったはずだよ。また、明日ね」
「うん」
「何かあったらまた、LINEしちゃうかも」
「うん」

何もなくても、毎日LINEしろよ。

俺がめんどくさそうでも、未読スルーでも、しつこいくらいラインしろよ。
そういう君の必死さに俺は安心するんだ。

ああ、意識してもらってるんだな。
俺は君の思考を支配してるんだなって。

病んでる……そうかもしれない。
でも、この状態が俺は嫌いじゃない。
だからしばらくは君の心を惹きつけることに一生懸命になるだろう。

それが嫌なら 全部 俺のものになってよ。

彼氏なんか。

捨てちゃって。

END


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