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椿の庭

早起きして、夫と一緒に写真家の上田義彦さんの初映画監督作品「椿の庭」を見に行った。

上田義彦さんの眼と映像美と、富司純子さんの美しさを見る映画。30分で語れるストーリーを2時間かけて味わう感じ。リュック・ベッソン監督なら1分くらいで終わらせそう、と夫が言っていたのにも同意する。瞬きの間の永遠を捉えるのが、日本文化なのだ。

上田さんは富司さんでなければこの映画は成立しない、とオファーしたそうだが、確かに、金魚の映像に3分使うような時間感覚と富司さんの仕草が呼応している。
富司さんが正面を向いて座っている姿勢から、ふと首を傾けて窓の外を見つめる仕草があるとする。変化する首の角度が70度くらいだとすれば、5度単位で最大限美しく見える角度と表情を厳選してコマ撮りした後、3秒に収めました、という風に見える。長年日本舞踊をやって来た人特有の動きの質と意識の払い方だと思う。そしてあの、日本画に音を付けたような声。ほんの一瞬の淀みとゆらぎが、息を飲むような効果を生んでいた。この風景の中では、鈴木京香でさえ、オーラが直線的で強すぎ、違う現場から間違って入って来てしまったように見えた。

映像の世界で成功しているとは言え、還暦を過ぎて初映画というのは、上田さんにとっても大きな挑戦だろう。上田さんがこれを描きたい、という強い意志があり、独りよがりにならないために必要な分だけ他人の手が入っているというバランスが素晴らしいと思った。その分ストーリーを究極まで単純化し、セリフを削っているのも良かった。


この挑戦で、上田さんのアーティストとしての寿命が大きく伸びたのではないかと感じた。人生100年時代には、2回くらい専門を変えたり出し切ったりしてゼロリセットした方が本当の意味で長生きできるように思う。

映画館は空いていて密にならないし、公開時期も短そうなので、ご興味のある方はぜひ、お運びください。

(2021.5.26 FRI)