「アステリズムに花束を」感想

アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)

先日「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」にやられまくったので、同作の短編版が収録されている百合SFアンソロジー「アステリズムに花束を」を速攻で買ってきました。
前回の記事で言及した通り私はSF超初心者で、参加されている作家様は全員はじめまして状態です。作家ごとのテイストの違いを楽しみつつ、どの作品もすいすいと読み進めることができました。「SF」という響きから私はどうしても「難解さ」を連想してしまうのですが、短編集という性質上でもありましょう、どちらかというと「センス・オブ・ワンダー」の側面が強く出ていたように思います。
読み終わるのに少し時間がかかったのは、一話ごとに余韻に浸る時間を取ったからに他ならず、私のようなSF初心者のイントロダクションとしても優れた一冊でした。何より圧倒的に粒ぞろいで、私と同じ立場の読者からだけではなく、収録作品の作者のファンやSFファンの方々からも高い評価を受けているように散見されます。
私自身SFというジャンルにも興味が湧いて、今後の読書体験の幅を広めてくれるような素敵な作品ばかりでした。せっかくなので、全話感想を書いてみました。ネタバレがところどころ入っているので、本書読了された方推奨の内容になってます。


「キミノスケープ」宮澤伊織
初っ端から二人称が来ると思っていなかったのでびっくりしつつ。SFアンソロジーの導入として上手いなあ、と思いました。二人称はよくゲームのチュートリアルなんかにも使用されており、読者を作中の世界へより引き込んでいく効果がある(と、個人的には思っている)。作中の「あなた」は読者ではなく本作の主人公の少女だけれども、読者を百合SFの世界観へ巧みに誘導する言葉でもあるのかなと。「あなた」の行動や所作を丁寧に綴る文体も相まって、読者としての私がこのアンソロジーそのものへぐんと引き込まれるような印象を受けました。
相手不在の百合というのも、百合という単語が孕む関係性の広さを示しているようで良かった。ひょっとしたら「誰か」は存在していなくて、主人公は自分の影を追っかけているということだってあるかもしれないけれど、それでもこの感情は確かにここにあるんです。

「四十九日恋文」森田季節
はいこれ、百合厨が、好きなやつ。49日の間だけ死者とメールを交わすことが出来る、打てる文字数は最初が49文字、あとは1日1文字ずつ減っていく……という設定はたぶん百合でなくとも泣かせるものがあるし、アプローチを変えてホラーに持ち込むことも出来ると思うんですけど、この作品が女同士の恋人を描いてることが私は本当に嬉しくてしょうがないです。序盤の短歌のやりとりでもガツンとやられました。「侘び寂び」が大好きな百合厨なので……。
きっとお互い伝えたいことは無尽蔵にあって、でもすべてを伝えることなんて出来やしないからあえて文字数にはこだわらないし、後半においては更にどんどん削ぎ落としていくわけですが、痛いくらいの切なさでちょっと泣いてしまった。主人公視点なので栞の心情というのはありありと語られるわけではないけれど、「絵梨のが綺麗」が2回出てきたのが超良くて、良かった……(語彙……)。

「ピロウトーク」今井哲也
漫画! そうきたか! めっちゃアンソロジーっぽくて最高! ってガッツポーズしてしまった、普段二次創作界隈に居る人間なので……。そしてこの流れ絶対に全員膝枕を予想してただろうにそうなるの!? っていう驚きが良かったです。「満たされた相手の最期の表情が本当に綺麗だった(だから自分の欠落も完全に埋まってしまった)」もひ、独りよがり百合や~! と最高の気分になってしまいました。オチのコマも超良かったです、業~カルマ~ですよこれは。

「幽世知能」草野原々
巻末のTCR(ツインスター・サイクロン・ランナウェイ)が力こそパワー! なのは言うまでもないんですけど、この作品も同じくらいの”強さ”と”圧“がありました……。鬼気迫るアキナの描写はぶっちゃけすげえ怖かったですけど、主人公に向ける強い感情、これこそ百合の醍醐味……。ラストの展開や大枠の理論は理解できたんですが、幽世知能の仕組みの説明辺りからかなり自分の脳で消化出来てない感があり、何度か読み返したり図に起こしたりしたいところです。

「彼岸花」伴名練
冒頭に吉屋信子の引用が来てる時点で最高の予感がしてたんですけど、文章のあまりの上手さに卒倒しそうになりました。百合厨ではあるもののエス作品が流行った世代から少し外れている自分にとって新鮮だけど懐かしい耽美な雰囲気で一気に読んでしまった。全体的に白黒映画を観ている感覚なんですけど、深い赤色だけ彩色されていてそれが後半に行くにつれてどんどん鮮やかに面積を増していくみたいな……。最後の展開そのものはエスの王道ですが、尋常じゃないこだわりで構築された世界観に「代血(ターミナルブラッド)」「嗜血機関(ヘマトフィリア・エンジン)」みたいな「んっ?」となる単語を自然と入れてくるのも上手い。同作者の「なめらかな世界と、その敵」は絶対読もうと思いました。

「月と怪物」南木義隆
一時期話題になっていたソ連百合ってこの作品のことだったのね!? この作品がpixiv百合小説コンテストに投稿されたらそりゃあ話題になるよな……としみじみ。それはともかくとして、伍長の初登場シーンで「あっセーラヤこの女とくっついてくれ~」と思ったので私の百合厨としての嗅覚もまだ捨てたもんじゃないですね。
私は村上春樹を愛読してるんですが、「海辺のカフカ」には「生霊というものは相手への憎しみなどネガティブな感情によって現れた存在として書かれることが多く、反対に相手を恋しく想う気持ちで生霊となるパターンはあまり見られない。雨月物語の『菊花の契り』は義兄弟の契りを交わした相手との約束を守るために魂だけになって駆けつける武士の話だが、その為に彼は自ら腹を裂いて死ななければならなかった(要約)」という話が出てきまして、これは結構私の創作観に大きな影響を与えているところがあります。セーラヤもセーラヤとしての魂を、伍長は自分の命そのものを失くすことで彼女たちはようやく邂逅を果たしたんですよね。幸せになれたはずのソフィーアも最後にはあっけなく死んでしまって残された物はなにも無いんですが、セーラヤと伍長が最後に一瞬の光を掴めたこと、ソフィーアがその事実を知られたことは、私にとって紛れもないハッピーエンドでした。

「海の双翼」櫻木みわ/麦原遼
合作ということで、交代する視点ごとに分けている感じなんでしょうか。葵視点の章では「あなた」が「あなた」なのに「硲」は「硲」なのがつらい。言語によって世界が規定・分断されている……という点は納得しながら読んだのですが、理解し切れなかった点もかなりあります。一見、葵→海、硲→葵なんですけど、硲が海に向ける強い感情も良かった。葵を取られたことだけじゃなく、海との共鳴を期待して裏切られた硲の心境のくだりがぐっときました。

「色のない緑」陸秋槎 稲村文吾・訳
「自分の人生はまるで”Colorless green ideas sleep furiously.”のように無意味だ」とこぼすジュディの人生には意味があるんだと証明する為にモニカは論文を書き、「ブラックボックス」によってそれが否定されてしまったことから、自分にとって何よりも美しい思い出の象徴であるSYNE溶液を飲み干した……と解釈したんですが、この作品ももう少し読み返して理解を深めたい。結果的に作中の”Colorless green ideas sleep furiously.”には「色の抜けたSYNEにモニカの強い感情が永遠に眠る」という意味が付与されたとも思うんですが、ここはもっと上手い表現を見つけたいところです……語彙力が足りない……。
全体に漂う雰囲気や文体もかなり好みでした。技術の発達が進むと色々なことがどんどんブラックボックス化していく、という警鐘はすんなり自分の中に落ちました。作者の方は中国出身ということで日本と比べ、よりその観点からの危機感が発達しているのかもしれません。

「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」小川一水
はいきた! 短編版もめちゃめちゃ良かった!! 語ります!!! テラが長編版よりもだいぶ余裕があって攻めしぐさが多く、ダイオードは角が取れていてちょろい上に完全に同性愛者!! 最高!!!!
全体のあらすじは長編版と変わらないんですが、短編ということで最大瞬間風速が大変強かったです。ダイオードは露骨にテラぞっこんだし、最後のダイオードの「そういう、ことですけど、本当にいいですか」は身体も含めてテラのすべてがほしいという意味に他ならないし、それに対してテラが「この子はきっとよくないと言われたことがある、ならば自分は何度でも『いいですよ』と言わなければ」と考えるくだり、尊すぎて頭がどうにかなるかと思いました。そしてバレバレの本音を引き出そうとあれこれ手を尽くすテラ百戦錬磨じゃん……女相手の才能がありすぎるのでは……。
私は先に長編に触れたので世界観については把握をした上で読んだのですが、多分こちらが初読でもすごいパワーで”圧倒的理解”出来ていたような気がします。わけのわからない設定と単語てんこ盛りのはずなのにグングン引き込まれる感じ、そして惑星のようなでっかい感情と人間味のある会話でぶん殴ってくる、すごい……本当にすごい……。
あとは長編版の方では改変しているあれこれにいちいち心をときめかせてました。こちらではダイオードがお酒飲んでたり、ドラマを引き合いに出したり、後追い自殺について言及したり。テラも長編版よりかなり強かで、口論シーンも最初の敬語が結構抜けてたり。文章量がダンチなんで長編版の方はよりキャラクターの解像度が上がっているのですが、短編版はあっちの二人との細かな違いを感じてニヤニヤしちゃいます。(自分の頭の中での)パラレルワールドを考えるのが大好きな百合厨なので。長編版の二人はどこかの氏族に拾ってもらって帰るまでにまたひと悶着ありそうな感じですけど、短編版の二人はわりあいあっさり帰れて家でその日のうちに致してそうじゃないですか? 安易に身体の関係を持たせようとする悪い癖が出てすみません。
何より百合SFアンソロジーの最後がこの作品だということ、そしてラストを締める一文が最高すぎます。一話目が「キミノスケープ」だったのもそうなんですが、作品の順序の組み立てって本っ当に重要だ……と強く思いました。TCRが最後の一作だったのは百合、SFというふたつのジャンルにおける、どこまでも行けるんだという未知の希望、強い光みたいなものの象徴であり黙示です。最後の一文まで読んだ後に、巻頭の溝口力丸氏によるまえがきが、よりくっきりとした実感を持つような感覚でした。

おわりに
最初にも述べましたが、SF初心者の百合厨にとって大変に興味深く、SFというジャンルへの興味を非常にそそられたアンソロジーでありました。今度「日本SFの臨界点」も絶対買ってみようと思います。それぞれの作者の作品にも触れてみたいところです。
そして百合の無限の可能性よ。今はまだ人間の脳内で眠っている、これから形にされるであろう数え切れないくらいの素敵な百合について考えるとワクワクしちゃいますね。

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