資料#1 年金制度
年金制度の成立に関する背景
国民年金法(昭和三十四年法律第百四十一号)が設定された昭和34年ごろは、日本の人口が著しい増加を始め、1980年代のバブル期に至るまで日本経済が著しく成長した時代の初期といえる。
なお以下、年金保険料は保険料という。
国のメリットは以下が考えられる。
税金とは区別した保険料という形で徴収できる
高齢を理由に離職した国民を保険料で扶助できる
税収で直接高齢な国民を扶助しなくて済む
高齢者よりも生産年齢人口が著しく多いと徴収した保険料が余る
国民のメリットは以下が考えられる。
保険料を納めることで高齢期は年金給付で生活することを期待できる
納めた保険料以上の月額給付を期待できる
根拠法
・日本国憲法第二十五条第二項
国は、すべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
※なお同条第一項は有名で、すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。である。
・国民年金法 昭和三十四年法律第百四十一号
保険料額の推移
・昭和36年4月~昭和41年12月 100円(35歳未満)150円
・昭和45年7月~ 450円
・昭和50年1月~ 1,100円
・昭和60年4月~省略 6,740円
・平成5年4月~省略 11,100円
・令和5年4月~12か月 16,520円
年金給付額
令和5年4月分からの年金額については次のとおりである。
・国民年金 老齢基礎年金(満額月額)66,250円
・厚生年金 224,482円
(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な月額)
人口の推移
総人口は急激な減少トレンド
図1より日本の総人口は2004年12月、12,784万人をピークに急激な減少傾向であることが一目でわかる。
高齢人口の一方的な増加トレンド
図2より、高齢人口は2020年から比較的増加から維持傾向にあるが、生産年齢人口が急激な減少傾向にあるため、その比率は目下急激に上昇中である。
政府推計では、2030年の高齢化率は実に31.8%となっている。
高齢者単独世帯の増加
高齢者単独世帯、2030年には約4割へ
高齢者単独世帯の増加は、限界集落の増加や消滅集落の増加に伴う地方自治体単独でのインフラ維持が非常に困難になっているという問題も孕んでいる。
インフラは、電気、水道、ガスなどのほか、道路整備、民間輸送網、食糧や生活必需品を販売する店舗にまで及ぶ。
先祖代々受け継ぐ土地で数世帯が住んでいる集落の場合、例えば災害によって橋が崩落したなどした場合、言い方は悪いが、たった数世帯のために何億円もかけて橋を復旧するのかなどの問題もある。
また、近年の気候変動による影響は大きく、災害がより甚大化してきている傾向にある中、今後被災する可能性が高い場所に住み続ける世帯を、そのままにしておいていいのかなどの問題もある。
つまり、現状での高齢者の一方的な増加は、単に給付額の増加だけではなく、将来の都市計画に関わる費用の増加にまで及ぶ。
日本の財政状況
令和5年3月29日に公開された、令和3年度の国の財務書類は次の通りである。
資料を発表のまま考えると、国の負債は約1,541兆円にまでのぼり、資産との差額は約572兆円で債務超過状態となっている。
計算書を見ると、社会保障給付費が約54兆円におよび、地方の財源である地方交付税交付金等の約3倍にまで膨れ上がろうとしている。
前述した増加の一途をたどる給付金の給付総額と、短期中期的な都市計画に関する費用も考えると、現状のまま運営できるのか疑義が生じる。
消えた年金問題
平成19年に、持ち主不明の年金記録、約5,095万件の存在が明らかになり、大きな社会問題となった。
この問題により社会保険庁は2009年に廃止、現在の日本年金機構となり、現在もねんきん特別便やねんきん定期便などを郵送することにより、持ち主不明の年金記録との突合を行っている。
グリーンピア問題
公的年金流用問題として明らかになり、国民の厳しい批判にさらされた。
年金福祉還元事業の一環として進められ、グリーンピアという保養施設が全国各地に建設された。
数々のスキャンダル
他にも社会保険庁が廃止されるまで、汚職や、国民年金不正免除問題など数多くのスキャンダルが存在する。
また、事務費用の無駄遣いも様々、明らかになった。
職員宿舎の整備費用
社会保険庁長官の交際費
社会保険庁の公用車購入費
社会保険庁職員の福利厚生にかかる費用(社会保険大学校のゴルフ道具、社会保険事務所のマッサージ機器、職員のミュージカル鑑賞やプロ野球観戦の福利厚生経費など)
社会保険事務局の家賃
年金福祉施設等の運営費
日本年金機構の職員は公務員ではない
日本年金機構の職員は社会保険庁時代は公務員であったものの、現在は特殊法人という組織であるため、民間企業の会社員と同じである。
例えば、採用選考は公務員試験という形ではなく、民間企業と同様に書類審査および適性検査と面接で行われている。
日本年金機構の財務諸表
これは令和4年度の機構運営に関する財務諸表である。
年間に約2,724億の運営交付金が主な収入源で、334億円程度の剰余金が出ている。
これは国庫納付金としてのちに処理され、結果として本機構の運営には約2,400億円程度が使われていることがわかる。
通常は千円などで単位が扱われるが、年金機構となった経緯が経緯なので、1円単位で資料を作成することでクリーンさをアピールしているのだろう。
ただ、交付金が主な収入源の運営費であることを考えると、保険料として納付されたものとは別と考えるのが通常なので、なにかズレている気がしなくもないが、主旨とズレるので今回は深くは触れない。
年金給付状況
図6によると、厚生年金および国民年金の給付は令和5年10月支払い合計額がほぼ8兆円ちょうどであることがわかる。
年金給付状況 (162) 2024/02/18追記
前回値より若干給付が増えている。
保険料納付状況
国民年金
各月納付率が図8からわかるが、納付月の翌月末を超えて納付されるものがそれぞれ2割は納付されていないことがわかる。
つまり、本来納められるはずの総額よりもざっと見て2割は少ない状態が続いていることにはなる。
見る限りは、おおむね2割の2割の2割が結果として未納状態として残るものと考えられる。
厚生年金
厚生年金は給料から天引きが行われ、勤務先が納付するものなので95%と比較的収納率が高い。
それでも5%が納付されていない。
課税対象になる年金
遺族年金や障害年金は課税対象にはならないが、そのほかの年金は雑所得として課税対象になる。
収入が年金だけであれば、年間給付額によって非課税となる。
・65歳未満 108万円以下
・65歳以上 158万円以下
課税対象になるのであれば、次年度に住民税が課税されることになるので、実際の手取りはもっと少なくなるだろう。
賦課方式
年金は自分の老後の積み立てで支払うものというイメージがあるが、実際はそうではなく、現役世代が納付した保険料から給付するという賦課方式を採用している。
これは、物価が上がると給付額も上げないとならなくなるという問題から、給付額も引き上げると同時に納付額も引き上げることで、積み立ての場合に生じる過去の貨幣価値からの差を他の手段で埋める事態になることを避ける必要があるという考え方からである。(マクロ経済スライド)
現役世代が価値を納付し、その価値を直接給付するわけだから差が生じないという訳だ。
一見して一片の隙も無いように思えるが、表面だけ見ればそうである。
図10でもあったが、国の制度だから国が存続する限り破綻することはないというキメ台詞がすばらしい。
ならばそうかと多くの人はそこで思考停止せざるを得なくなるからだ。
年金保険料を納めたら必ずもらえるのか
いずれの年金も、長生きしない限りもらえるわけではない。
年金をもらえるようになるまでに、不幸にもこの世を去ることになってしまった場合、当然ながらもらうことはできないわけだ。
だからといって、現制度が続く限りは納付しない方がいいと言いたいわけではないので注意していただきたい。
GPIF
年金積立金管理運用独立行政法人という。
GPIFは、厚生労働大臣から寄託された年金積立金の管理・運用を行い、その収益を国庫に納付することにより、年金の財政安定に貢献する組織とある。
前身は、年金福祉事業団である。
その中でこんな記述がある。
基礎年金の半分は国庫負担
実際の年金制度の運用は中身がどうなっているのかわかりにくいと感じる。しかし、GPIFに記載があった。
・保険料は上限が固定されていること(永遠ではない)
・基礎年金の半分は国庫負担
・年金積立金の活用(今後100年間と超長期的に)
・給付水準を自動的に調整
基礎年金とは、ざっくりと国民年金は基礎年金そのまま。厚生年金の場合は基礎年金に加算して厚生年金部分が給付される。
つまり、基礎年金は国民年金と厚生年金の基礎の部分にあたる。
その基礎年金は、すでに税金で基礎年金の半分が補填されている。
この事実は、GPIFの資産を取り崩すよりも税金で年金給付を補填することが優先されていることを意味する。
このことで、年金給付を含む社会保障費用負担の税負担を理由に増税が必要だといつでも政府が国民に訴えることが可能な状態にあるということだ。
以下、GPIFの財務諸表を引用しておく。
(参考)GPIFの貸借対照表
(参考)GPIFのキャッシュフロー
令和4年度においてGPIFの国庫納付
200兆円もの資産をもつGPIFは、株や債券などに投資を行っている。年金制度の維持に役立つように運用することが目的だ。
財務諸表を見る限り、令和4年度は国民年金の国庫納付金として、380億円が納付されているだけで、総資産の200分の1にも満たない。
税金で基礎年金給付額の半分が負担されている割には、GPIFの年金給付に関する拠出額はずいぶんと控えめな額である。
年金制度は善意で作られたものなのか
さて、ここまで様々な資料を基に年金制度について述べてきたが、最大の疑問が残る。
昭和34年に国民年金法として設定された年金制度だが、これから現役世代の人口の増加が大いに期待できる状況下、果たしてこの年金制度は本当に善意で創設されたものだろうかという点である。
数々のスキャンダルも偶発的なものだったのか。
不正流用は長い歴史の中、証拠が残っていて隠せなかったものが出てきただけで、本当はもっとひどかったのではないかと誤解をされても仕方がない。
「知っておきたい年金のはなし」という日本年金機構が発行する冊子があるが、かつての年金問題を払拭すべく必死な気持ちが伝わってくる。
いかに自分たちが必要な存在か訴える必要があるからだ。
経団連も社会保険料負担が上がるくらいなら、消費税を上げてくれた方がまだマシだと動くくらいには、狂っている気がする。
ただでさえ、内需に頼るしかない日本経済の消費税を上げると、余計に不景気になることは目に見えている。
本当は誰のための制度なのか。
有権者が思考停止的に過去の選挙を消費してきたという責任があるだけに、政府だけの責任とは言わないが、年金制度設定当時とは全く環境が変わってしまった現代社会において、現年金制度は役目を終えたのかもしれない。
ただ、突然制度だけ終了しますでは反感を買うだろう。
せめて、各々が納付した保険料だけでも返してあげれば済む。
すでに年金生活をしていても、職人であれば、例えば宮崎駿氏のように何度も現役復帰することも絶対に不可能ではないはずだ。
シリーズ前回でも述べたように、定年だからと一斉に無職にする合理的な理由もわからない。
本当に持続的な社会を望むのであれば、一部の権力ある人間たちの利益のために制度を創設したり存続させることを直ちに辞め、ただでさえ現役世代の負担は増えることは確実視される中、将来を担う子供も育てなければならない。
政府はその現実から目をそらすべきではないだろう。
参考・出典
国民年金法 - e-Gov法令
国民年金保険料の変遷 - 日本年金機構
令和5年4月分からの年金額等について - 日本年金機構
国の財務書類 - 財務省
年金記録問題 - 日本年金機構
消えた年金に関する質問主意書 - 衆議院
「消された年金」に関する質問主意書 - 衆議院
令和4年度財務諸表 - 日本年金機構
主要統計 - 日本年金機構
主要統計(162) - 日本年金機構
知っておきたい年金のはなし - 日本年金機構
GPIF
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