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Yuzuko Cover版「ヴィラン」解説してみた(4800文字)

マクド大好き・まくどなぽて子こと、ゆずこです。
今週うたった「ヴィラン」についてのボーカル&ミックスの解説をしてみます。

リンクとか

本家 https://www.nicovideo.jp/watch/sm36332327
歌詞のみ  https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/40740.html
ゆずこ版 https://youtu.be/vMU38moWyQg

1番: 歌詞前

右にノイジーな何か(よくわかんないです)がありますね。

1番その1

きっと手を繋ぐだけでゾッとされる
馬鹿げた競争(ラットレース)一抜けたら通報される
突然変異(ミュータント)じゃない ただの僕さ
XとかYとか

XとかYとかの話がありますが、すなおに左にXの要素を、右にYの要素をあてることにしました。左側から聞こえる音は自分の理想的なありようを、右側から聞こえる音は自分がミュータントであると思っている、社会がそう思っているという疎ましい自分です。

ひとは自分に関係しないことについては否定しません。「わたしは腕四本ではないです」「五次元人ではないです」という否定はしたことがないです。関係ない要素については思慮する必要がないし、否定しなくてもいいわけです。

その点、主人公は自分のミュータント性について少なからず関心があって、そのうえで否定しています。社会が要請する自分と、自分が望む自分についての壁を感じているだろうなと。

壁を感じている雰囲気を、なるべくv flowerさんに近い声で表現してみました(右20%ぐらいから出ているぎざぎざしたボーカル)。

「XとかYとか」の「とか」だけウィスパーにしました。主人公が言いたいのはXの部分ではなく、とりもなおさずYであることについての話であろうと。

1番その2

べき論者様は善悪多頭飼い
僕が君を"侵害"するって言いふらしてる

ゆずこボーカル史上、いちばんサチってます。声がビリビリしてます。秘めたる思いが漏れ出ているかんじというか。それを表すと社会で生きていけないので漏れ出る程度にするんでしょうが。

Oh...
Mr.Crazy Villain Villain
夜行性の花弁
違う服着て君の前では男子のフリする
拝啓 Dr.Duran Duran
迎えにきて下さい
顔も知らない誰かにとって僕はもうヴィラン

太字のところ、もうひとつサウンドがでてきています。オク下でディストーションかかっていて、何を言っているかわからないけれど、暗くてモヤモヤして悪夢の切れ端みたいなボーカルです。

左サイドからでている、ゆずこデフォルトのクリーンなボーカルと合わさると、日常に潜む絶望感がでてくるのじゃないかなと思いました。ゆずこはいつも三度五度なんかで重ねていくタイプなんですが、たぶん、この曲はそうではなく、同じ自分の二面性をプッシュしていったほうが主題に沿うのではないかなと思ったのです。なので右からオク下で出すというのはかなり最初から決めていました。

たまに三度でハモっているのは趣味です。本題とは関係ないです。

1番おわり

蛇蝎(だかつ)ライフ
挙句の糜爛(びらん)

Aメロで巻き舌が一回でてきたぐらいにとどめておきました。声は終始クリーンです。ひとは、冷静さを保てるときには保てるという状況を、まず前提として出しておきたかったやつです。

「挙げ句の〜」のところトレモロしてるんですが、これは揺れ動く日常感みたいなやつです。ビブラートのような瞬発的な心の揺さぶりではなく、平素に潜む慢性的な揺れ動きがあろうかなと。

2番その1

逸脱の性(さが)をまたひた隠す 
雄蕊(おしべ)と雄蕊じゃ立ち行かないの?
ねぇ知ってんのか乱歩という作家のことを Import you
造花も果ては実を結ぶ

冒頭からリズム感よくなっているので、歯切れよく、アタック感強くうたいました。お散歩するとき、このリズムでトントン歩くと気持ち良いです。

「乱歩という(乱歩という)」「Import you (Import you)」のところ、v flowerさん版とは違うニュアンス。2番冒頭から少し小気味好いサウンドになっているので、少しだけ自分のことはおいておいて、ちょっとナレーションに入っている雰囲気なのかなと思いました。1番が主観視点であれば、2番冒頭は客観視点です。急に乱歩の引用をし始めるのも、いったんカメラを主観から客観に切り替えたのかなと。

2番その2

ってんじゃねーよ 多の性
愛(かな)しい哀しい話をしよっか ゼラチン質の
?」

「ぶってる」に軽い巻き舌をいれました。ぶるってるのは、本当にぶるっているのは自分かもしれません。威勢よく言ったところで、社会は巨大です。

「多の」に軽くケロりをいれて、多種多様な感じを出そうとしてみました。違和感を得ればありがたいです。多種多様って、考えうる外を含めて多種多様なんですよね。

「愛(かな)しい哀しい話をしよっか ゼラチン質の」はサチ度強く、耳に残るように、心に食い込むように。その後、「?」につながり、一歩ひいて場面転換です。この後のサビで重苦しいスネアがあるんですが、そことの対比で、似たようなサウンドのボーカルにしました。

2番その3

Mr.Crazy Villain Villain
可能性に幸あれ
僕のハート1LDK 嫉妬くらいはさせてよ

1番サビもそうなんですが、サビにはリバーブ強い圧力強いスネアがあります。そこの邪魔をしないように、世界観を濁らせないように、サビボーカルはできるだけクリーンにしたい願望があります。オク下の濁った声はださず、単純な三度だけであっさりとまとめました。「嫉妬くらいはさせてよ」がパワーワードだったので、ここだけユニゾンいれてます。

Hi there モットーYOLO
微熱愛でいいのに
誰も知らない 知られたくない皮膚の

サビ、ほぼすべてがクリーンで、体裁よく、ボーカル然としており、外聞を気にした装いですが、最後の最後ぐらい本音にまみれてもよいのかなと思いました。v flowerさん版では「ひっふの、しった〜↑」みたいにかなり軽快に歌っているので、ならば、最悪に息苦しいシーンにしてもよいのかなと思ったのです。

ここで初めてエッヂのある声を出しました。

間奏

オリジナル版はほんとうに間奏だけです。

二日前の記事に書いたんですが「幻聴」と「嗚咽」っていうパートをいれました。

主人公は体裁を保って生きてきたはずです。そしてこれからもそうするはずです。「手を握ったらゾっとされる」は裏返せば「手を握ることはできない」です。「違う服着て」いることは「外から見れば本質に気づけない」ことでもあります。内面は激しく糜爛しているにもかかわらず、外面は極めてクリーンでふつうなんです。

そういう人の心理面はどうなのか。いつも正常でいられるとは思えない。自分が社会のヴィランであると確信してしまったとき、何気ないふつうの言葉が何度も残響を伴ってこころで渦巻くんじゃないでしょうか。そうして日々ただれていく心と、正しき人たちと生活することと、糜爛したウチガワを守りながら「ただの僕」をやっていくこと。

そのあたりを左右で振り分けました。こちらも左はサイドX、右はサイドYです。今回のミックスでの通しのテーマです。

ラスサビ

素晴らしき悪党共に捧げる唄
骨まで演じ切ってやれ悪辣に
残酷な町ほど綺麗な虹が立つ 
猥雑(わいざつ)広告に踊るポップ体の

太字のところ、20人以上のボーカルにして社会感を出してみました。ここで解釈がわかれちゃって申し訳ないんですが……

素晴らしき悪党が自分ではないシナリオ

ヴィランは自分であるはずですが、急に「悪党共」という表現が出現します。きっと「善悪多頭飼い」で「多種多様の性」を認められない、いわゆるふつうの社会の人たちのことを指してると思うんです。そういう解釈の場合、「素晴らしき」ってつけてるのは完全に皮肉ですよね。

そういう光の面しかもたない、ヴィランを正しさで押しつぶす存在は、巨大で大勢いて個が見えない存在であろうなと。圧倒的に幸福な感じを出せたらいいなと思いました。

素晴らしき悪党が自分とその他のヴィランであるシナリオ

自分=ヴィランは孤独に闘ってきたはずです。これからも孤独に闘っていくかもしれません。でも、「素晴らしき悪党共」はかくじつに存在し、葛藤し、生活し、光も闇も飲み込んで、爛れた内面とともに息をしているはずです。

間奏で、社会の声が頭で反芻し、心で嗚咽する自分がいました。それを受け止めてくれる何か、応援してくれる何かがあるとしたら、個の声ではない、集った声としての点ではなく面による支えなのではないかなと思いました。

ポップ体の愛

ひとは失敗をします。挑戦をして失敗をします。成功もします。ほとんどが失敗だと思います。挫折もします。失敗して挫折したりもします。

猥雑な広告で踊っていた「ポップ体の」はそういった失敗とか成功とか挫折とかをあざ笑うものですよね。そもそも愛の俎上に乗っていないわけなので、トライすることも叶わないし、試行できない以上、絵空事なわけです。きっと「ポップ体の」を見たときに、主人公は「挫折や失敗を超えた絶望感」を感じたんだと思います。

結びのパートその1

Oh Mr.Crazy Villain Villain
夜行性の花弁
違う服着て君の前では男子のフリを!
拝啓 Dr.Duran Duran
ここだよ
顔も知らない誰かにとって僕はもうヴィラン

ここからは常に真ん中から声がでます。Xパート、Yパートは終わりです。現実の自分をはなれて、精神の世界を描いているのだろうなと思いました。むしろそう描きたいなと思いました。

1番で現実に苦悩した自分を描きました。2番で社会との軋轢を描きました。もう現実は十分です。最後ぐらい伸びやかに晴れやかに、自分の葛藤はいったん忘れて、澄んだ心で終わってもいいと思いませんか。アニメだとカメラが回ったり空を飛んだりするシーンだと思います。

ここだよ」では狂気で顔が歪んだアップになりそう。狂っている人ほど「自分は正常だ」って主張するタイプの静かな狂気に支配されていると思います。なにせ「君の前では男子のフリを」すると決意してしまったので。自分の正常性(ヴィラン性)を押し殺して、社会に巻き込まれていくことを決意した人間が狂わずにいられるわけがないと思います。

結びのパートその2

蛇蝎ライフ
挙句の果ての糜爛

この歌詞の前にあるパート、オリジナルとはちょっと違っています。いくつかある「ヴィラン〜」を違うサウンドにすることで、カメラを違う角度、ことなった画角にするようにしてみました。

低音は近くにおいてよく聞こえるもの。ローカットした「ヴィラン〜」がうっすら聞こえていることで、遠くを映しているように聞こえたらよいなと。その後、別角度でもう1カットあります。

そして主観視点のクリーンなボーカルが入り、もう過剰なサチュレーションもなく、ディストーションもなく、冷静に現在を受け止め、「蛇蝎ライフ」を続けることによって、「糜爛」していく自分を遠景で映して終わりです。ここだけリバーブが長く強く、オリジナル版よりも尾を引く画になっています。

おわりに

なんとなく「ヴィランっていい雰囲気の曲だし、悪党っぽい歌なのかな」って思ってた自分にこのテキストを見せてやりたいなと思いました。人が悩める範囲を超えた葛藤が3分20秒に入っていたら、そんなものを人が真剣に受け止めたら、きっと心がちぎれてしまいます。世の中にはヴィランもいるし、圧倒的多数のべき論者様もいますが、そこをすべて受け入れて内面に封じて好きな人と手を繋がないことを選んだ主人公にかける言葉は思いつかないです。

もしよければ、ゆずこ版ヴィラン、聴いてください。もっとよければ何度も聴いてください。

今日はそんなとこです。ゆずこでした。

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