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『ナイトミュージアム』の銅像撤去のこと

ニューヨーク自然史博物館の前にあった、セオドア・ルーズベルトの銅像が、1月19日、撤去されたというニュースをみた。

NPR記事より



『ナイトミュージアム』でロビン・ウイリアムズが演じてた、軍服で馬にのってでてくるあの元気なおっさんの銅像だ(あの人は展示室内の蝋人形という設定だったかと思うけど、同じ人)。

5年ほど前、友人のマダムMとふたりで最初にニューヨーク見物に行ったとき、わたしはメトロポリタン美術館をもう一日かけてみたかったので、自然史博物館に行く時間はなくなってしまい、閉館時間に博物館の前の階段でマダムと待ち合わせをしたのだった。

夏の夕方で、博物館の前の階段にのんびり座ってくつろいでいる人がたくさんいた。

その博物館前に堂々とそびえ立っていた、このウマに乗った大統領の像をみて、「うううーん、こ、これは…」と思ったのをよく覚えている。

ウマに乗ったセオドア(「ティディ」)・ルーズベルト大統領は、両脇にネイティブアメリカンと黒人の男性を一人ずつ従え、その構図が、<下男をひき連れて偉大なことをしに行くオレ>という気分に満ちてて、白人のオレが主役でヒーロー、さあついてこい、という、まったくためらいのないストーリー展開が、ちょっとはためにも恥ずかしく感じられたからだった。

ちょ、いま21世紀なんだけど、いいのか、これ、このままで? 
と、素朴に思った。

当然ながらそう感じる人はたくさんいて、数年来議論のまとになっていて、最近のBLM以降の流れが追い風となって、撤去にいたった。

この銅像は、今後ノースダコタ州に建設されるルーズベルト記念図書館内に、ネイティブ・アメリカンや黒人の歴史とあわせて展示される予定だそうだ。

ルーズベルトが大統領だったのは20世紀はじめ(1901年〜1909年)で、世の価値観はまだ19世紀そのもの。世界を理解し支配するのはヨーロッパ系白人の帝国であり、ごく少ない例外を除きその能力を天から与えられているのは白人男性のみ、という前提を、アメリカでもヨーロッパでもほとんどの人が常識だと考えていた時代だったわけで、このウマに乗ったティディさんの銅像は、まさにその思想のエッセンスを無意識に表現している。いってみれば、あけっぴろげな厨二病の象徴のようなもの。

それから世界は不幸な戦争や紛争をいくつも経験し、社会をゆるがせる議論を何千何百と経験し、法律や常識がすこしずつすこしずつ変わってきて、国として、社会全体としての、世界観もすこしずつ更新されてきた。

自分中心の世界観でほかのひとたちの権利を臆面なく踏みにじってきた過去を黒歴史認定し、認識が間違っていましたと認めることも、そのたいせつな一部だった。

ナイーブな考えかたかもしれないけれど、人類は20世紀に悲劇をたくさん経験して、すこしずつ経験値があがったのだと思いたい。

当然ながら、文化と歴史を否定するキャンセルカルチャーだといって、銅像撤去を批判するひとたちもたくさんいる。だがちょっと待て。

黒歴史にしっかり目をむけることは、ちゃんとした大人になるためのステップじゃなかったか。

「恥や怒りはもう手放して、間違いはスッキリみとめよう。思いやりと想像力をもって未来を築いていく態度にこそ、誇りをもとうじゃないか」

ロビン・ウイリアムズ演じる『ナイトミュージアム』のテディさんだったら、きっと笑ってそう言ってくれると思うんだ。


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