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2024年3月下旬

 教室棟の踊り場で演劇学科がハムレットを演っていた。女が水に浮かんでいたから、たぶんハムレットだったんだろう。

昔書いた短い小説の一節で、気に入って時々思い出す。気に入っているからといって良い文章とは限らない。

修理に出していたブーツが戻ってきた。ソールの交換に伴いウェルトが一回り小さくなった靴からはほのかに蜜蝋の香りがする。
ニューヨークへ履いていき、好きな人に会いに行った時も、尊敬するミュージシャンのアジアツアーに同行した際も、大事なときにはいつも履いていた靴なので、少し値が張ったが修理して良かったと思う。

ルイがミャンマーに撮影に行ってしまったので、オフィスをほぼ独占している。冬の間は地獄のような寒さに辟易したが、春のバルコニーに椅子を出して読書をしてみたらそんなに悪くない場所に思えた。

音楽家の友人が、秩父に物凄い御利益の神社があるから行きたいと言うので、どんな御利益なのか聞くと、願ったことが秒で叶うのだという。
何を願いたいのか彼に聞くと、彼はなにもと答え、神様に俺がここにいることだけ伝えに行きたいと続けた。
人様の信心をとやかく言うつもりはないが、ちょっと独自のスタイルが過ぎるのではとわたしは思った。

トークのつまらなくなったアーティストの知人は、制作で自分を追い込むあまりビスの恐怖症になったらしい。この世界には実にさまざまな恐怖症が存在する。
かつて恋人だった女性と一緒に住んでいた頃、彼女が作業場から持ち帰ったネジを部屋の至る所に落としておくので、わたしは半ば真剣に彼女はロボットなんじゃないかと疑ったことがある。いまではそれがネジとは呼ばれずビスと呼ばれることをわたしは知っているし、ロボットの部品としては木工用のビスでは役不足だろうし、もちろん彼女だってもういない。

いつかややこしいタイプの認証を要求するログインの際の「わたしはロボットではありません」のチェックボックスにチェックを入れるときとかにだけ、彼女を思い出すようになるのだろうか。

4月は楽しみな予定がいくつかある。幸運といってもいいと思う。

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