見出し画像

ホームドクターとの話

本日もなかなかの停滞気味。毎年、年明け1月はヨーイドン!といいスタートを切れているんだけれど、今年はどうやら少し勝手が違うらしい。娘にも「ママが1月に予定があんまりないって珍しいな」と言っていたくらい。なんなら暇そうに見えているのかもしれない。

それはさておき、2日前に血液検査の結果を聞きに近所の家庭医に行った。ここにはずいぶんと長くお世話になってはいるが、ドクターがなぜか入れ替わる頻度がとても高いのだ。昨年からまた違う先生が来るようになった。

予約時間より15分ほど経った時点で名前を呼ばれる。いつもとは診察室が違うので少し落ち着かない。すぐに戻ります、と先生が席を外している間、部屋の中をキョロキョロと見回してしまった。

先生が戻ってきたので血液検査の結果についての報告を聞く。「どこにも気になる点はありません。いい結果です。」と、先生の一言。今日は3分も掛からなかったな、と思ったが、そこからなぜだか話が長くなった。帯状疱疹のワクチン接種の話を振ってみたところ、保険適用の薬の処方箋の話になった。

「10錠で13ユーロ、20錠で14ユーロ、50錠で15ユーロとかなんですよ、薬の値段って。おかしいでしょ。それなのに我々は患者さんに10錠の処方箋しか出すことができないんです。これはあくまでも例えですが。」

ドイツの医療システムについては外科医の先生も頭を抱えていたんだよなぁ。その先生は患者のために善かれと、マニュエルセラピーなどの処方箋を出していたら、保険会社から注意勧告のようなものが入り、大量の書類の提出を求められて大変なことになっていたのだ。

「ほんとは今回も処方箋出してあげたいんだけど、始末書のようなものを書かされているところでね…来年の2月くらいにまた来てください。」

外科医の先生はため息をつきながらそんなことを言ってくれた。

「結局、どこも利益優先なんですよ」

と家庭医の先生。その後も、AfD「ドイツの選択肢」がなぜ得票率を上げているのか、という話になる。

「結局、政治が市民の不満を汲み取ってきていないツケが来ているんだと思いますよ。ベルリンも10年前くらいから、一般市民が普通に暮らせなくなってきているので。古くからの住民がベルリン郊外に押し出され、ミッテやプランツラウアーベルク地区はバブルが起こっている。反極右デモだって『AfDはクソだ。我々が正義だ』みたいなことになっているし。デモ自体は支持しますが、なぜAfDのような政党が得票率を伸ばしたのか、その原因について議論して解決しないと意味がないと思うんだけど」

どうやらこの先生、診療所を訪れる患者からあらゆる悩みやら苦情を聞かされているらしい。

「診療所に来る人って大概、よく話したがるものなんですよ。ただ、ここのところネガティブな話ばかりで疲れちゃいますけどね」

それはこの先生だからではないかな。短時間話した印象だけでも、オープンで人に興味を持っているタイプである。診察に来て、検査結果に問題がないのに、そこから政治の話にまで展開したことはさすがにない。3分以内で終わる診察が、結局話し込んで10分くらいにはなっていたように思う。多分、こちらから意図的に話を切らなかったらもっと話し込んでしまったかもしれない。

「先生、(興味深い話を)どうもありがとうございました!」

と言うと、先生はちょっと困ったように笑って「私は何もしてませんよ」と返してくれた。こんなにいい先生にはなかなか会えないが、よくよく話を聞いてみると、先生もドイツ人ではなく移民背景を持っていることが判明した。

「いろんな職業の方とこうして現状について意見を交わせるのはとても興味深いので。本当にありがとうございました」

とまるでインタビューの後に言うお礼のような挨拶をして診療所を後にした。

「さっき言ってたみたいに、本当にもうベルリンには住みたくないんですか?」

と最後に先生に聞かれたんだけど、JAIN(どちらでもない)というのが正直なところ。本帰国まではまだ具体的に考えていないけれど、一度くらいは日本にまとまった期間滞在してみたい。ベルリンも変わったように、私自身も変わったのだろう。



サポートは今後の取材費や本の制作費などに当てさせて頂きたいと思います。よろしくお願いします!