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久しぶりの対面授業

昨日、久しぶりの対面授業に行ってきた。市民大学(Volkshochschule)と呼ばれる成人教育を良心的な料金で提供している機関である。日本のカルチャースクールのようなものだろうか。

平日の夕飯時なので可能であれば前回のオンラインコースの続きを受講したかったのだが、定員割れでコースが成立せず、代価案として勧められたのが対面授業のロシア語会話コースだった。すでに2回授業が終わっていて、3回目の授業に途中参加という形になる。場所は往復1時間強くらい離れたギムナジウム。家のアパートの隣の学校でも夕方にVHSの授業が行われているが、こんなふうに夕方から夜にかけて学校の校舎で授業が行われている場合が多い。

B1の会話コース。受講者のレベルによって授業の難易度も変わるので興味津々だったが、案の定、とても流暢に話す英語圏のクラスメートがひとりいた。あとのドイツ人3人は私と同じくらいのレベルだろうか。前回もそうだったが、必ずひとりかふたりとても流暢な人がいるのが常だ。前回はポーランド人のドイツ語教師が抜群にうまかった。

毎回、「週末に何をしましたか?」という質問で授業が始まるらしい。週末って何してたっけ?土曜日も日曜日も友人とカフェで延々と話していたような。今のベルリンは衣食住の確保も割と大変なので、そういった住みにくさのようなテーマで話をした、と言ったら先生が「家も仕事も別に探さなくてもいいんですよ」とさらっと言ってのけたので、なんだかとてもロシアらしい返しだな、と妙に納得してしまった。こういったある意味ロシア的な言い回しが懐かしくなるタイプの先生らしい。

ただ、この先生、生徒の言ったなんてことはない日常会話をそれはもう丁寧に、その都度言い直してくれるので驚いてしまった。大抵の先生は通じればいい、という感じで多少間違っていてもそのまま聞き流すことが多いからだ。

フィルハーモニーの前で行けなくなったコンサートのチケットを売った、という人がいたので、「早く売れましたか?それとも長くかかりましたか?」と質問したときのことだ。ロシア語の動詞も割と曲者で不完了体と完了体の使い分けがとても難しい。

Я долго продавал билеты.(不完了体)
Es hat lange gedauert, bis ich Tickets verkaufen konnte. 
チケットを売るのに時間がかかった。

Я быстро продал билеты.(完了体)
Ich habe schnell Tickets verkauft.
チケットが早く売れた。

間違いだらけのロシア語の質問を訂正した上で、このように例を挙げて文法の説明までしてくれたのである。これだけでも非常に教え方が丁寧なのがわかる。生徒が何とか単語を繋げて話したロシア語を一旦、自然なロシア語で言い換えてくれるのも非常によかった。なんでもない日常会話だけで授業が成り立つのだから見事である。

日常会話でウォーミングアップしたあとは、ウクライナの聞いたこともないアーティスト、Ярослав Малыйの音楽とそのテキストの内容について話した。パッと読んでもわかるのは一部だけであったが、ロシアの侵攻を暗示させる内容のものだった。

Любви нашей открытая демонстрация
Наверняка изменит всё в мире к лучшему

Die offene Zurschaustellung unserer Liebe
Das macht den Unterschied aus.

私たちの愛をオープンにデモンストレーションすること
それがおそらく全てをより良くすることだろう

Мачете 2023 Медленный танец

リフレインは希望を持てる内容になっているが、爆弾、カオス、ぐちゃぐちゃの泥など暴力を示唆するテキスト。ただ、音楽は全く好きになれなかった、残念。

そしてなぜかЯрослав МалыйはTokioというグループのリーダーでもあるそうだ。

先生、もしかするとウクライナ出身なのかもしれないな。前回のオンライン授業の先生は間違いなくロシア出身だった。帰り道に英語が母語の女性と話しながら帰ってきたが、先生がなんと最初の授業の冒頭で「政治について話したい?」とクラスのみんなに尋ねたのだそうだ。

「そんなの一体なんて返事すればいいのか。先生の意図がよくわからなくて。でも、私の場合は自分が大事にしてきたロシア語を学びたいのであって、別に敢えて政治の話はする必要がないから」と彼女は言った。

この歌のテキストも暗喩が散りばめられていたし、先生は何度か「言葉というものは文字通り理解しなくてもいいんです。感じればいい(Воспринимать)。わかりますか?」としきりに言っていた。なかなか気の利いたことを言う先生だな、と感心しながら授業を聞いていた。そのうちお互いに少しは本音で話せるようになれればいいんだけど。




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