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白亜の断崖・セブンシスターズ

イギリスは日本と同じく島国であり、その海岸線には数多くの名所を有する。
今回はその中でも、その鮮やかな白さが印象的な断崖、セブンシスターズを取り上げたい。

セブンシスターズ(Seven Sisters)とは、ロンドンから電車で1時間強、イングランド南部のイースト・サセックス州の海岸に位置する崖である。その崖は白亜系チョークとも呼ばれる石灰岩で構成されており、海岸線に切り立った白い姿を見せている。

セブンシスターズ観光のスタート地点となりうるのは2箇所ある。
1つは東側バーリンギャップから、そしてもう1つは西側のエキシートにあるビジターセンターからスタートするパターンだ。

西側ルートを攻めることにした私と友人は、ビジターセンターに車を停めた。ビジターセンターは海から遠く、この時点ではまだその姿を眼中に収める事はできない。

羊が草を喰む、川沿いの穏やかな道を30分ほど歩いただろうか。
ようやく川は海へと流れ着く。
そして左を見やれば、お待ちかねの白亜の壁がそそり立っている。

この白い崖の正体は、かつてこの海に生息していた小さな生物たちの残骸が堆積したものであると言われる。
まだ恐竜たちが地上を闊歩していた頃から、じわじわと堆積され続けた石灰岩はイングランド南部からフランス北部に至るまで広大な地層となり、それが隆起と波の力による侵食も相まって現在のような姿になっているそうだ。

なお、その脆い特性から、今でも年に数十センチ程度づつ侵食が続いているらしい。

さて、ここから観光を続けるルートとしては2通りある。
1つはこの崖を上り、上からの景色を楽しむ方法である。

登ってずっと歩けば、東部の拠点バーリンギャップへとたどり着く。

もしくは少し離れて遠景を楽しむ事もできる。
我々はそちらをチョイスすることにして、崖に背を向け西へと向かう。

だが、ここで1つ問題がある。

西側へ向かうためには先程までの道を沿うように流れていたカックミア川を超える必要がある。
しかし河口付近に橋はなく、再び来た道を駐車場まで戻らなければならないのである。つまるところ大変面倒なのだ。

我々は立ち止まり、河口近くを見やる。
それなりの幅ではあるが、さほどの水深ではない。
デニムを捲り上げる。
川を歩いて渡る決断をした。

川の深さはせいぜい2-30cmといったところで、渡るにさしたる問題はなさそうだった。
靴を脱ぎ、水面に足を滑らせる。
しかしここで新たな問題に直面する。

あたりは海に面した浜ではあるものの、そこは砂浜ではなく、欧州の海岸にありがちな砂利一面の浜である。
刺々しい石たちが私の足裏の柔肌を襲う。
健康ランドの足つぼ床など可愛く思える終わらない激痛である。
進むも地獄、戻るも地獄。
苦痛に顔を歪め、ほうぼうの体で向こう岸へたどり着く。

共に渡った友人は事もなげであった。
「もっと身体を労ろう。」そう誓った瞬間だった。
それから6年、喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉の意味を噛み締めながらキーボードを叩く自分がいる。

さて、そんな試練を乗り越えてたどり着いた対岸を離れ、高台へと向かう。

改めて振り返って、白亜の断崖を見やる。

そもそもなぜこの断崖がセブンシスターズと呼ばれるかといえば、起伏のある大小の崖の姿が年の違う7人の姉妹に見えたから、と言われている。

その崖にはそれぞれ名前が付けられ、

  • Haven Brow

  • Short Brow

  • Rough Brow

  • Brass Point

  • Flagstaff Point

  • Flat Hill

  • Baily’s Hill

  • Went Hill Brow

となっている。
察しのいい方は気づいたかもしれないが、セブンシスターズと言いながらも実は8つの丘が存在する。

これは、その脆い材質ゆえ年月をかけて徐々に形を変えたことによるものらしく、いつしか8人目のメンバーを迎えたようである。
将来的にさらなるメンバーの加入や卒業も視野に入れているのかもしれない。

海岸リゾートの街・ブライトン

せっかく海沿いまで来たのであれば、海辺の街の観光も楽しみたい。ブライトンの近くには、イーストボーンやシーフォードといった街も存在するが、そこからもう少し足を伸ばして訪れたいのがブライトンの街だ。

ブライトン(Brighton)はイースト・サセックス州にある、人口約30万人のイギリス屈指の海浜リゾート地である。
観光都市として多くの施設がある他、現在では三笘薫が所属する英プレミアリーグ、ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFCの本拠地としても知られる。

海岸線まで足を運べば、サラサラとは言わないまでも先程とは明らかに質の異なる砂浜が広がり、ハイシーズンには多くの人で賑わうだろうことは想像に難くない。

そして、英国の海岸にはおなじみの存在であるピア(桟橋)ももちろん存在する。

このパレス・ピアは全長537mにわたる巨大な桟橋で、ゲームセンターや遊園地を含むアミューズメントエリアとなっている。

なんとなくわくわくさせてくれる入り口を抜けて中へ。入場料は無料だ。
日本では極めて珍しい海上遊園地なわけだが、以前紹介したスランディドゥノなどでも見かけたように、英国の海岸にはつきものの施設となっている。

もとはただ船が接岸し、人々がその上を歩けるだけだった桟橋であるが、イングランド北西部の街ブラックプールにパビリオンを備えた大規模桟橋が建設されると、各地でこぞってレジャー施設を兼ね備えた桟橋が建設されていったそうだ。(以下サイトより参考)

たかが海上と侮るなかれ。ジェットコースターなども兼ね備えたなかなか本格的な遊園地である。
また、桟橋の先から陸地を眺めるのも楽しい。

この桟橋の建設は1899年と古く、1世紀以上に渡ってブライトンを訪れる者たちを楽しませている。

一方で、より近年に完成したアトラクションとして、ブライトンの新たなランドマークとなっている施設もある。
勘のいい人は気づいているかもしれない。
街の写真に時折映り込んだ、謎の巨大な棒がそれである。

近づいてみよう。

天高くそびえるその棒は高さ162mに及ぶ。
その正体は、移動式展望台だ。

展望部が上下可動式になっており、乗り込めばそのまま空中散歩へと連れて行ってくれるのだ。
2016年に完成したこの展望塔をデザインしたのは、ロンドン・テムズ川沿いの巨大観覧車ロンドン・アイをデザインしたのと同じマークス・バーフィールド社である。
そう言われると確かにロンドン・アイみを感じるフォルムかもしれない。

早速乗り込んでみる。

ゆっくりと高度を高めていく円盤は162mの高さまで我々を連れて行ってくれ、遠く西まで続く海岸を一望できる。

反対には、先程の桟橋と、遠くにセブンシスターズを望む。

また、海へと目をやれば骨組みだけとなった桟橋の姿が残る。

もともとブライトンには、先程のパレスピアの他にウエスト・ピアという桟橋が別に存在していた。
20世紀序盤には年間200万人もの人が訪れる屈指の観光スポットとなっていたが、1975年に一般開放を終了。その後イギリスの第一級文化財として保存されいたものの、暴風雨および2度の火災で構造の大半が破壊されてしまったため、修復は断念され、現在はわずかに骨組みだけがその姿を今に伝えている。

このウエストピアの陸側の跡地に作られたのが、この展望塔i360というわけだ。

前世紀に栄華を誇った夢の跡地を、現代のテクノロジーで作られた新施設から見やるのも、海岸リゾートとしてのブライトンが過ごしてきた幾年の日々を感じられて良い時間と言えるだろう。


本日のマグネット

本日のマグネットがこちら。

ブライトンの海岸と、きらびやかなパレス・ピアが描かれた、いかにも英国の海岸リゾートらしい逸品だ。

セブンシスターズのマグネットは保有していない。
ブライトンの土産店やセブンシスターズのビジターセンターでは残念ながらこの手のタイプのマグネットが販売されていなかったのである。

普通に写真がプリントされたマグネットはあったと記憶しているが、当時排他的3Dマグネット原理主義者であった私は、それを買うことを良しとしなかった。

今思えば惜しいことをした。あるいは東側のビジターセンターやイーストボーンの街には私の所望するマグネットが存在するかもしれない。
だとすれば、再訪の際に再度チャレンジを仕掛けるという楽しみもありそうだ。



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