記憶の錯覚

ふとした瞬間に、例えば電車を降りて改札に向かうときに、「あれ、Aさん?」って知人を想起する時がある。

そして、95パーセント人違いだと瞬時にわかる。

これを仮に「記憶の錯覚」と名付けよう。
記憶の錯覚には大きく3つのパターンがある。

1.想起した人物に対してプラスの感情を持っている場合
2.想起した人物に対してマイナスの感情を持っている場合
3.想起した人物に対して何の感情も抱いていない場合

1の場合、「あー、しばらく会ってないな、今度ひと段落したら飲みにさそってみようかな」などと思う。が、次の瞬間いやな予感も横切る。もしかして、何かの予兆なのではないか。彼(彼女)に何かあったのではないか、とか。LINEでもしてみようか、と思うのだが、さすがに大げさかなと思って何もしない。

2の場合、「いや、あいつがここにいるはずない」とまず真っ先に否定する。奴の特徴を再確認し、対象と照らし合わせる。「奴はこんなに身長高くない」「似てるのは髪の生え際だけだ」「きっと正面を見たら全く別人だ」などと考えて否定する。そして、ここまで(しばらく会っていない)奴の特徴を今だに列挙できる自分に対して、激しい嫌悪感を抱くのである。
「記憶の錯覚」の大概がこの2のパターンで、だいたい元恋人であったり、フラれた人だったりである。

3の場合、はほぼない。記憶にあんまり残ってないから、ふとしたきっかけで想起することなどないのであろう。そして、1より2のほうがなんか多いな、という感覚的統計論によれば、嫌いな人のほうが記憶に残りやすいということでもあるのであろう。

「記憶の錯覚」において、錯覚していることは何か。すれ違った人の服、髪型、匂い、バック、足音、歩き方などの知覚情報を、頭の中にある知人の近く情報の記憶と照らし合わせて、「あれ?」って思う。そして、ごちゃ混ぜになって勘違いしたことに気づく。この時、知覚情報のいちいち細かいことは気にしない。なんとなくの総合体として、その人らしさを感じている。

抽象化されたその人らしさは、時に他人と重なる。まったく違う人物にも関わらず。それだけ、普段大雑把に他人を見ているということである。


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