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20051101 白旗の少女

 石垣沖縄旅行$${^{*1}}$$の際、玉泉洞$${^{*2}}$$という鍾乳洞に行った。ここの食堂の入り口にブロンズ像$${^{*3}}$$があった。解説に「白旗の少女$${^{*4}}$$」とある。

 投降を決心して白旗を掲げて洞窟から出てきた時、アメリカ軍の写真班に「スピ・グラ」と呼ばれる大型カメラを向けられて咄嗟に手をかざした瞬間を捉えた写真$${^{*5}}$$を元にして作った像である。当時、米軍は女を殺さないという噂が沖縄本島南部に広く流れており、少女を先頭に降伏する例が相当あったらしい、と解説してあった。「スピ・グラ」とは「スピード・グラフィック$${^{*6}}$$Speed Graphic$${^{*7}}$$」の略でアメリカのGraflex$${^{*8}}$$が製造していた。

 この像と解説とを見た時、戦争の悲惨さが瞬時に伝わってきた。子供が白旗をかざして投降する異常な状態。当時の子供が白旗を振ることの意味を知っているはずがない。後ろには大人や兵士が一緒にいたのである。子供を先頭にさせて敵に向かわせる感覚。全てが狂っていたのである。

 この記事を書くに当たって少し調べた。この白旗を掲げて投降する少女$${^{*5}}$$の別の写真$${^{*9}}$$があった。旗の柄を右手で持って左手を顔の前にかざしている。格好は最初の写真とほぼ同じだ。おそらくほぼ同時に撮影されたのだろう。少女の後ろには日本兵らしき人物が二人写っている。

 そうなるとブロンズ像の解説が少しおかしくなってくる。カメラを向けられて咄嗟に手をかざした理由は、自分に銃口を向けられたと勘違いしたため、と言わんばかりだ。はっきりとそうだとは書いてない。しかし読めばそうとしか読めない。そしてそのような状況になるのは洞窟から恐る恐る出てきてアメリカ兵と面と向かった時だ。目の前にいるアメリカ兵が見たこともない装置を自分の方に向けていることに気付けば、撃たれると思い咄嗟に顔をおおうだろう。ところが二枚目の写真にも辺りに洞窟が写っていない。投降した日本兵らしき人物たちと一緒に逃げも隠れもせず歩いてきているのである。こんな状態でアメリカ兵が撃ってくるとは、子供でも普通は思わない。少女の表情を見てもこわばっているが、殺される恐怖というのは感じられない。

 もう一つ写真があった$${^{*10}}$$。戦場というより往来である。最初の写真と撮影時刻は殆ど変わらないだろう。どうも少女は単に手を振っただけ$${^{*11}}$$のような気がしてきた。

 写真は、加工されていなければ大抵は事実を表現している。しかしそれに付け加えられる解説や写真の組み合わせによっていくらでも間違ったもしくは意図した特定の印象を伝えることができる。今回はそれに見事にはまってしまった。

 結局、本当のところはもっと調べなければ判らない。真実の姿を曲げてでも戦争の悲惨さを伝えたいと考えることもあるだろう。悲惨さを伝えることは正しいが、真実を曲げるというのは正しくない。しかしそれもこれも戦争が元凶なのである。

*1 20051014 石垣島・西表島・沖縄本島
*2 沖縄の歴史・文化・自然を体験できるテーマパーク「おきなわワールド-文化王国・玉泉洞」
*3 white_flag.jpg
*4 青い鳥文庫 白旗の少女
*5 white_flag2.jpg ※もっと鮮明な画像
*6 The Classic Camera スピグラ
*7 Anniversary Speed Graphic
*8 Graflex.Org: Speed Graphics, Large Format Photography, and More
*9 The girl with the white flag
*10 命どぅ宝 白旗の少女
*11 06030524.jpg

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