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20060901 負結晶

 「負結晶」という言葉があるしい。「まけけっしょう」ではない。「ふけっしょう」と読む。結晶の中にできた気泡の内面に規則正しい結晶面$${^{*1}}$$が現れた状態を指す。水晶の中$${^{*2}}$$や固体化したヘリウムの中でも現れる$${^{*3}}$$らしい。

 一方、光学的な「負結晶」と言えば全く別の意味になる。方解石など結晶の中で光が二つに分かれてしまう現象を複屈折$${^{*4}}$$という。普通に結晶中を透過する光を常光線、結晶の中で普通とは違った振る舞いをするもう一方の光を異常光線と呼ぶ$${^{*5}}$$。そして常光線よりも異常光線の方の光の速度が速くなる結晶を「負結晶」$${^{*6}}$$というらしい。逆に常光線の方が速い場合は「正結晶$${^{*7}}$$」というようだ。

 結晶学的な「負結晶」は興味深い言葉である。なぜこれを「負」と呼んだのか。結晶の表面の規則正しい面$${^{*8}}$$は、結晶の外に面している。大げさに言えば普通の結晶の表面は宇宙に対して向いていることになる。負結晶の場合は、それが内側になっている。つまり内側に宇宙を包含しているとも言える。ただし負結晶がちゃんと宇宙を包含していると言うには、この世が負結晶以外全て結晶になっていないといけない。この発想は赤瀬川原平$${^{*9}}$$の電球の話から来ている。電球の中に宇宙と同じ真空$${^{*10}}$$を包含している、つまり電球は宇宙を裏返している状態だという発想である。

 負結晶の場合、気泡の中が真空になることはないが、とにかく結晶を「裏返した」状態だ。「負」という感覚ではない。逆とか反転といった感じである。「逆結晶」とすると結晶学で出てくる逆格子$${^{*11}}$$という言葉と混同するからだろうか。それにしても結晶というのは、何となく思い浮かべにくい。

*1 Technische Ausr&uumlstung in Sektion 4.3 Infrarotmikroskopie
*2 toku9912-04.jpg
*3 mukai-s/mukai-abst.pdf
*4 14.jpg
*5 偏光プリズム
*6 光技術用語辞典
*7 偏光に関する光学素子
*8 地質標本館講演会
*9 20050121 偽札
*10 20000329 真空(2)
*11 逆格子

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