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20070512 カンガルーの語源

 カンガルーの語源$${^{*1}}$$説でこんなのがある。クック船長$${^{*2}}$$が現地人$${^{*3}}$$にあの動物は何だと聞いたところ、件の現地人は「かんがるー」と答えたのでそれが広まったが、実は「かんがるー」とは現地の言葉で「分からぬ」という意味だった。

 こう言った説はweb上に溢れている。巷間の人々が雑学としてこの様に捉えているのだ。しかしこの雑学は、本当の意味での「雑学」からすると非常に程度が低い。カンガルーという言葉の由来自体が間違っているという意味ではない。この語源説の論理構成が駄目なのである。稚拙すぎる。

 カンガルーの様に大きな動物に対してその土地の人が名前を付けない$${^{*4}}$$理由がない。完全に話が破綻している。もしかして現地人にとってカンガルーは当たり前の存在であって、それを指し示す言葉がなかった$${^{*5}}$$かも知れない。ただし現地人は、カンガルーを家畜や愛玩動物のように扱ってそれぞれ固有の名前を付けていて、たまたまクックの相手をした現地人は指し示されたカンガルーが誰の物か分からなかったので「分からない」と答えたかも知れない。ここまで説明すれば前述の雑学にも意味が出てくるが、「カンガルーの本当の意味は、現地語で『分からぬ』」だけでは全く面白味も知識らしさもない。

 「かんがるー」の意味は「おぬしの言っている言葉が分からぬ」とすれば、すっきりする。それにしてもカンガルーを指差して「なんだありゃー」と叫べば、普通は相手の言葉の意味が分からなくてもそれを察知してカンガルーに関して話をしようとするだろう。相手に「何言っとるの$${^{*6}}$$」とは訊ねない。もしかしたら現地人はクックを歓迎していなかったので、わざとこう反応したかもしれない。

 この話自体どういう経緯で出来上がったのか非常に興味があるが、根本的に間違っている$${^{*7}}$$ようだ。オーストラリア原住民の言語でグーグ・イミディル語$${^{*8}}$$というのがあるらしい。大きく黒いカンガルーを「gaNurru」と発音して呼んでいることが近年判ってきた。1898年にW.E. Roth$${^{*9}}$$という民族学者によって現地語の「gang-oo-roo$${^{*10}}$$」という言葉がカンガルー$${^{*11}}$$を意味すると指摘されていたが、この説は埋もれてしまっていたようだ。

*1 20070204 このわた
*2 James Cook
*3 20060612  土人
*4 20060114 名もない花
*5 20000425 アラーの他神無し
*6 20060530 ポルノ
*7 kangaroo. The American Heritage® Dictionary of the English Language: Fourth Edition. 2000.
*8 グーグ・イミディル語
*9 Roth, Walter Edmund (1861 - 1933) Biographical Entry - Australian Dictionary of Biography Online
*10 Online Etymology Dictionary
*11 Eastern Gray Kangaroo -- Pictures, Animal Facts, Habitats, Video, Sound, Wallpaper -- National Geographic

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