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小さな家族の話

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母をさがす

 ショッピングモールで、母とはぐれたことがあります。  自分が子どもの頃の話ではなく、ほんの数年前の話です。  あの時は本当に、心底焦りました。  ◇◇  かなり広いスペースで展開している百円ショップに二人で入ろうとした時のこと。母が、ちょっとトイレに行ってくる、と言いました。  トイレの入り口は店の入り口から20メートルほど先に見えており、何も心配はありません。 「ここで買い物しながら待ってる。行ってらっしゃい」  娘に見送られ、母は小柄ながらも丸々とした身体を揺

また、見送る

 11月の終わり、叔母が亡くなった。  わずか数年の間に、私の大好きだった父の弟が、私の大好きだった父が、私の大好きだった母の弟が亡くなっている。  そして今また、私の大好きだった、母のもう一人の弟の奥さんが、亡くなった。    大好きな人ばかり、どんどんいなくなる。いや亡くなる。  いなくなると亡くなるは違うか。いやもう同じ意味だ。  楽しいことも、悲しいことも、続く時は続くものだ。止められない。 ◆    お通夜の前日から葬儀を終えて帰途につくまで、もう何度も見た光

ミモザの日

3月8日はミモザの日。 ちょっといろいろありすぎて今年も忘れそうでした。 とはいえ、「国際女性デー」とは何の関係もありません。 今日は単なる日記、そしてただの猫の話です。 つい先日の特集「#猫のいる幸せ」でも記事を書いた、うちの猫が、この名前だという話です。 もうあの時さんざん持ち上げたので、彼女についてさらに書くことはそう残っていません。 でも今日はちょっとツイッター以外のところで気を紛らわせたかったので、巷で賑わっている様子の「ミモザの日」にこじつけて、飛びつきまし

光陰ニャの如し

 「ミモザ」と名付けた、今年16才になる雌猫と暮らしている。  ツイッターでは時々彼女の様子をあげていて、フォロワーさんたちにもかなり馴染みの顔になっていると思う。  だらだら書いた自分の駄文(うまいこと韻を踏めたw)より、彼女のぼーっとした顔などただ写した画像の方が好感を持たれているのは、ちょっと悔しい気もするが明らかである。    人間にすれば70代後半というところか。  我が家の歴代の猫たちの中では一番の長寿となった彼女だけど、うちにきた当時はこんなにかわいかったの

大寒だけど羊羹はまだ食べない。

 年末に虎屋の羊羹が届いて、仏前に供えてある。  小ぶりな箱だがずっしりと重く、白地に赤い文字の包装が端正で麗しくて、我が家のさみしいお正月にも彩りを添えてくれ、ありがたかった。小豆のやさしい舌触りと甘味は、亡き父の好物でもあったから。  しかし、まだ包みを開けていない。  正直に言うと、開けられないのだ。  開けてしまうと劣化が始まる。私と母のふたりでは、到底食べきれない一本ものの羊羹は、さながら我が家にとっての甘い生の「のべ棒」で、その確かな味わいの記憶に舌を濡らし

木魚と猫

 「...こんにちは。エリザベスカラーですか、これは」  「そうなんです。薬をつけてもすぐに舐め壊してしまうので」  「へえ、こういうのがあるんですね。手作りですか?」  「いえ、ネットで買いました。あ、本日は宜しくお願いいたします」  「よろしく」 ◇◇◇◇  憎きコロナの勢いはまだ当分収まらないだろう、とたやすく見当がついてしまった6月のうちに、去年の初盆に参席してもらった親戚一同にはハガキを出しておいた。  『父の三回忌法要は家族のみで執り行うことといたしました。お