見出し画像

映画【バービー】と【君たちはどう生きるか】を観てビートルズに思いを馳せた話。

この夏、グレタ・ガーウィグ監督の『Barbie / バービー』と、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』を観ました。
今日は、その2つの映画に対して抱いたちょっとした感想と、そこから噴出したビートルズへの想いを吐露したいと思います。

※話の性質上ネタバレになってしまうことがあると思いますので、まだ見てないし一切のネタバレはNGです!という方はご注意ください。

バービー

Barbie / バービー

まず、バービーです。
この映画を、わたしは「色々大変だけど、どうにかやってこうね」と前向きに女性を元気づけてくれる映画だなと思って観ました。
主人公はバービーですが、そのお友達のケンの葛藤や気付きや成長が描かれているので、性別に関わらず笑ったり共感したりもできる映画なんじゃないかと思います。
"すごく多方面に配慮しながらも映画だからこそできる魅力的な手法を用いて作られた風刺コメディ" という印象で、だからこそ、その表現方法や結末をどう捉えるかで、人によってずいぶん感想が違ってくるだろうなとも思いました。

物語は、バービー人形たちが暮らす最高にハッピーでパーフェクトなキラキラのバービー・ランドから始まります。

めちゃくちゃ雑にまとめると、『バービーがある原因で完璧な人形の生活にちょっと行き詰まってしまって、それを解消するためにバービーランドから人間の暮らすリアルワールドへ行ってヒントを掴み、またバービーランドに帰ってきて困難に立ち向かいながら問題を解決していく」みたいな話です。

そこに、ケンの人間的な成長物語も絡み合い、一度は混乱したバービーランドがどう再生されていくのか私たち観客は見守ることとなります。
そして、最後にマーゴット・ロビー演じる主人公のバービーは、彼女自身の生き方について大きな選択をして、映画は終わります。

わたしはどちらかというとバービーよりリカちゃんの方が身近で、さらに言うとリカちゃんよりもシルバニアファミリーの方が親近感があるんですが、『トイ・ストーリー』に登場するバービーとケンがすごく好きで、特にケンは、彼が主役のスピンオフのアニメーションも繰り返し観ちゃうくらい大好きなキャラです。
映画でライアン・ゴズリングたちが演じている実写版のケンも、その愚直でちょっと残念な感じがしっかり演出されていて、切なくなりながらも爆笑させてもらいました。
今回の映画でケンは非常に重要な役割を担っていて、「バービーのお飾りのケン」ではなく、後半の「男社会を築こうと奮闘するケン」という扱い方や描き方は多種多様な印象を抱かせるだろうなと思いながら眺めました。

わたしはこの風刺がバリバリきいた超ポップなコメディ風味のバービーを「見事だな」と思いながら笑ったり泣いたりしながら観たんですが、映画を見終わってから色々考えていると、バービーやケンたちと、ビートルズの姿が重なってきて非常に胸が苦しくなりました。

なぜビートルズ?

この映画の何がどんな風にビートルズと繋がるんだと思われるかもしれませんが、わたしは、人形、つまり架空の存在・理想的な存在としてのバービーに、消費され続けたツアー期(前期)のビートルズを投影し、さらに、自分の存在の意味や意義について考えるようになったバービーに、レコーディング期以降(後期)のビートルズを投影してしまいました。

バービーは劇中の重要なシーンで、バービー人形の生みの親であるルース・ハンドラーと対面します。
そして最後に彼女から掛けられる言葉に

Humans only have one ending. Ideas live forever.
「人間には一つの終わりしかない。でも架空の存在は永遠。」

というものがありました。

「私たち人間の命には終わりがあるけど、バービーたちは永遠に生きられる。あなたはどちらを選択するの?」というような文脈で語られましたが、ビートルズという存在は、まさにこの ideals だったんじゃないかとハッとしたわけです。

THE BEATLES

おそろいのスーツを着て髪を切りそろえ、演奏の後にはお辞儀をして…という風にマネージャーのブライアン・エプスタインの演出で売り出されたビートルズは、当然本人たちの実力と魅力があってこそですが、世界中で爆発的にヒットします。

彼らは根が真面目でいい人たちなので(!)、求められるビートルズ像を提供すべく身を粉にして働き、心身をすり減らしていきます。

売れない時代に "To the Toppermost of the Poppermost!!!" という掛け声で鼓舞し合いながら慰め合っていた彼らが、本当に世界のてっぺんに上り詰めて、楽しくて嬉しくてどうしようもないこともたくさんあったと思いますが、多分そういう時間はそれほど長くなかったんだろうなというような気がします。
現に、デビューから3年もたたないうちに「HELP!」と歌い、誰かに助けを求めるまでになっています。

特にジョンはその後どんどん落ちていき「自分なんて生まれてこなければ良かったんだ」みたいなことまで口にするようになっていたようですし、ドラッグや超越瞑想でどうにか命を繋ぎつつ、最終的にヨーコに出会えたことで救われます。

ジョージも同様にデビューから2-3年くらいで「どうして自分だったのか、なぜ自分は選ばれたのか」ということを深く考えるようになり、タイミング的なものも作用して東洋哲学にのめり込んでいきます。

ポールは、きっとジョンやジョージと同じように肉体的精神的にきついことも多々あったとは思いますが、エンターテイメントの世界で生きていく人間としての素質とか資質とか、あと自覚もたっぷりあったような気がしますし、10代の頃からの立ち振る舞いから勝手に想像するに、誰よりも対応力や客観視できる力があって、メンバーの中では一番ビートルズ旋風が巻き起こっている世界にも適応できてたんじゃないかと思います。

リンゴについては他のメンバーより発言もエピソードも少なめなのでちょっとよく分からないところもありますが、体の弱かった幼少期に「今夜が峠です」と2–3回言われた経験を持っていたり、バンドを飄々と渡り歩いたり、レコードデビュー直前という最もヒリヒリするタイミングでビートルズに加入してうまくやっていけるハートの強さや柔軟性を持っていることを考えると、ある程度受け流すことができてたんじゃないかなと想像します。

本人たちも語っているように、ビートルズは4人がいつも一緒にいたからそういう危機的状況を乗り越えられたというのは大きいと思いますが、世間から求められるイメージや要求そのものに疲弊してしまうというのは、私たち人間には当然起こり得ることでしょう。

それに応えられるのは、「自分はパーフェクトで、最高で、みんなに絶対に愛されている存在!」と何の疑いもなく思えるバービー人形くらいでしょう。

What Was I Mede For?

このバービーの劇中のサントラには素晴らしいアーティストが複数参加していますが、その中にビリー・アイリッシュの "What was  I made for?" という楽曲があります。
まさにバービーが自分の存在意義について悩んでるシーンや、エンディングで流れてきます。

これ、楽曲もMVもめちゃくちゃいいのでぜひサブスクや動画サイトで探して観ていただきたいんですが、歌詞の中に

When did it end?
all the enjoyment
I’m sad again

Billie Eilish 'What was I made for?'

っていうフレーズがあって、もう私にはこれが1960年代半ばのビートルズ、特にジョンを歌ったようにしか聞こえなくなってしまい涙腺崩壊でした。

彼らはマネージャーによって「政治的な発言をしない」など言動にも制約がありましたし、一番楽しいはずのライブでは歓声や悲鳴のせいでだれも演奏を聴いていない・自分たちさえ聞こえない状態で、「ビートルズに触ってもらったら病気が治る」みたいな人たちが楽屋に押しかけてきたり、あげくに「周りの若者が成長している時に、ビートルズはロックスターをやって時間を無駄にした」みたいなことまで言われ、"What was  I made for?" と思わずにいられない環境に追い込まれていきます。

「ビートルズは早々にライブを止めてしまって残念」なんて思うこともありましたが、あのタイミングでツアーを辞めていなければその後の音楽が誕生していなかった可能性も十分あり得ると思うので、今回この映画バービーを観て、「ビートルズには思い切って狂ったサーカスから降りてもらって良かった」と思い至りました。

バービーはアメリカでは、私も大感動・大興奮した『ザ・スーパー・マリオ・ブラザーズ・ザ・ムービー』を上回る勢いで大ヒットしているようですが、日本公開前にSNSで「Barbenheimer(バーベンハイマー)」のミームが炎上したことで話題になってしまいとても残念です。
原爆を悪ノリ的なムーブメントで扱うことに対してはまったく共感できませんし当然不愉快だし不適切だと思いますが、あのミームと映画の内容とはまったく別問題だと思いますので、気になっている方はぜひ観てほしいなと思います。

ちなみに、『バービー』には、映画『イスタデイ』に出演していたケイト・マッキノンも重要な役で出演しています。

君たちはどう生きるか

そして、この夏に観たもう一作は宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』です。
テイストも扱っている題材も全く違いますが、図らずもわたしが近いタイミングで鑑賞した為、「こちらもテーマはある意味 "What was  I made for?" だな」と思って観ました。

バービーも風刺的なコメディの裏に様々な想いや意図が隠されていて、わたしが読み取れていない部分もたくさんあると思いますが、この宮崎駿監督の最新作は「なんで?」とか「どういう意味?」とか思うことが多々ありました。
なので、「ざっくり筋をお伝えする」ということもちょっとできませんが、過去の作品に思い入れのあるジブリファンへのファンサービス的な要素も感じつつ、生と死について、そして、しんどい世界でも生きていかなければならない私たちに考える時間を与えてくれるような、そんな優しさも感じました。

『バービー』は、"ファンタジーの世界からリアルな人間世界にやってきて戻る" という話で、『君たちはどう生きるか』は、"人間世界から異世界に行って帰ってくる" という逆パターンで、その両者の近しい構造にもちょっと興奮しました。

そして何より、宮崎駿監督の圧倒的な生き様を見せつけられた気がします。
監督は今年2023年で82歳になられていて、ちょうどリンゴ・スター(83)とポール・マッカートニー(81)の間の年齢です。

リンゴとポールも同じようにエネルギッシュでピースフルでヘルシーな生き様を見せてくれていて、「"Humans only have one ending" だけど、それに至るまでのプロセスはひとりひとりまるで違うし、色々あっていいんだよ」とまさに「どう生きるか」という背中を私たちに見せ続けてくれているようでかっこよすぎるな、、と改めて思いました。

わたしにとってビートルズという存在は "Ideals" でもあり、 生き様を見せてくれる "Humans" でもあり、「ほんとBeatles forever だわ…」と思わせてくれるような2023年夏の映画鑑賞体験となりました。

そして、戦争や平和についても思うことの多いこの時期に、生きること死ぬことについて考えさせられる映画を観られたことはとてもありがたかったなと思います。

以上、まったく映画に造詣の深くないわたしの個人的な感想およびビートルズについての妄想と感謝を連ねましたが、映画を観てみよう、サントラ聴いてみよう、ビートルズについてもっと知りたい、など思っていただけたならこの上なく嬉しいです。

▼同じ内容の動画ver.もあります。


この記事が参加している募集

私のイチオシ

映画感想文

サポートしてくださると、もれなく私が喜びます♡