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2023/03/25 クリープハイプ アリーナツアー 「本当なんてぶっ飛ばしてよ」(大阪城ホール)

 半年以上待ち望んでいた2時間は思っていたより一瞬で過ぎ去っていった。大抵こんな感じだよね、幸せな時間よりその幸せを待ち侘びて楽しみにしている時間の方がずっと長いんだから。それで、終わってしまうと終わってしまったことへの空虚感が募るの。今日を忘れたくないなって思う日は幾らでもあるけど、気づかないうちにそんな日の記憶は薄らいでいって、その鮮度を保つのって難しい。冷凍保存できたらいいのに。やっぱり少し寂しいな。でも、幸せだったよ。多分。

 大阪に行くのは3年ぶりくらい。そしてクリープハイプに会うのは昨年4月に金沢文化ホールで「今夜は月が綺麗だよ」に参戦して以来でした。アリーナツアーの実施が発表されたのは昨年9月のことで、僕にとっては受験の為に殆どを捧げていたような時期。受験期はやりたいことを結構自分で制限してきたつもりだったし、その分だけこのアリーナツアーが楽しみだった。受かっても落ちてもライブはあるんだけど、どうせ会うんだったら受かって晴れやかな姿を祐介に見せたい。そんなこともモチベーションの一つにはなってくれていました。ある意味、僕が受験期を乗り切ることができたのはクリープハイプのお陰だったのかもね。

 昼過ぎに大阪城公園に向かうと既にクリープハイプのTシャツやタオルを身に纏う人々で溢れ返っていました。きっと、彼らもまた僕と同じように、クリープハイプの楽曲に救われて今日まで生きてきたんだろうな。普段生きていると孤独を感じることが多くて。別に家族も友達もいるんだから全然不幸な身の上でもないはずなのに。でもその不鮮明な孤独感から僕を救ってくれるのはいつだってクリープハイプでした。ここにいる全員が僕と同じ感覚を持っているわけじゃないだろうけど、でも、少なからずクリープハイプに救いを求める人が同じ空間に集まっていると思えるだけで、なんか、僕の日常が肯定されている気分でした。

 会場内ではオーケストラみたいなSEがかかっていた。開演時間の17:30を過ぎて徐々に音量を上げるSEが最大音量で終わりを迎えると同時にステージが暗転し、メンバーが順にステージ上に。やっぱり最後に出てくるのは尾崎さん(以下、尾崎さんって言ったり祐介って言ったりすると思います)だったね。あの時と同じ風景だ。でも、僕にとって新鮮だったのはステージ上のモニターです。金沢と富山のライブ会場にしか行ったことがなかったから、こんなに大きな会場は初めてで、まだ一曲も披露してないのにもう気分が高揚してる。祐介に会う為に僕は今日までを乗り越えてきたんだよ。この時点で泣いてもいいくらいだったけど何となく泣きたくはなかったから抑えておきました。

 会場の拍手が収まった頃、青く光るステージで鳴り始めたのは「身も蓋もない水槽」のイントロ。その一瞬で会場には"張り詰めた空気"が漂っていた。って言いたいんだけど、祐介は歌い出しから"緊急事態宣言から約三年〜"って感じで歌詞を改変していて、さらには"今日は楽しもうぜ"って呼びかけてくるから、こうなったら今日は祐介を全面的に信頼することにした。続く「しょうもな」と「一生に一度愛してるよ」。もうすっかり定番になってしまったこの2曲だけど、多分バンド側もリスナーの側もこの並びに厚い信頼を寄せてるよね。当然僕もその1人ですよ。どちらもイントロから最大火力をぶっ放してリスナーの心をキャッチしに行ってる感じで、あのサウンドはクリープハイプにしか(と言うより小川幸慈にしか)許されていないんだよね多分。「しょうもな」のアウトロを長めに取って、間髪入れずに「一生に一度愛してるよ」のイントロに繋ぐ感じも僕は大好きでした。

 3曲を終えて舞台は明転。尾崎さんのMCに移ります。あれ、もう3曲もやってたっけ。引き込まれ過ぎて一瞬だったよ。尾崎さんは転売ヤーに対する不満を放ちながらも、"今日、チケットを買って、ここにいてくれてありがとう"と観客への感謝を伝えていました。いや、どう考えてもあなたは感謝される側でしょ。僕なんか尾崎さんがいなかったら最低限度の生活すらできているか怪しいくらいなのに。感謝しないといけないのは絶対に僕の方なのにね。それでも尾崎さんは一曲終えるごとに"ありがとう"って言ってくれる。まあ、クリープハイプに限った話ではないんだろうけど。僕もちゃんと感謝を伝えられるうちに伝えておかないとね。

 MCを終えて歌い出したのが「君の部屋」。これも僕の大好きな曲です。言ってしまうとクリープハイプの楽曲は殆どが大好きなんだけど、この曲はTOP5には確実に入ってくるくらいに好き。前回に引き続き今回も歌ってくれてありがとう。今回はいつもよりテンポが速かった気がする。矢継ぎ早に言葉を繋ぐテンポ感によって焦燥とか絶望に近い情動がより現実味を帯びて伝わってきます。音源でも大好きだけど、やっぱり生の「君の部屋」は別格だな。次が「月の逆襲」。僕はこれまでに聴いた全ての楽曲のイントロの中で「月の逆襲」のイントロが一番好きです。一瞬にして会場全体に妖艶な空気を舞わせるあのイントロはどこで聴いても色褪せない。そして「グレーマンのせいにする」。祐介もかっこいいけどそれに劣らずカオナシもかっこいい。あのツインボーカルが僕にとって最高です。カオナシのMCはいつも辿々しくて尾崎さんに上から目線で講評されてて、なんかあの緩い感じもまだ2回しか見てないけど凄く好きです。

 そしてサブスクになくて今まで聴けていなかった「明日はどっちだ」。聴いたことはなかったけど、歌詞は何回も見ていたからすぐに分かりました。"頑張れあたし 明日はいい日だ"。常にどん底に視線を置く祐介の言葉だからこそ刺さる。初めて聴いたけどやっぱり大好きな曲です。「ナイトオンザプラネット」は前回見た時と同じように"思わず止めた最低の場面〜"の部分の歌詞を尾崎さんが朗詠してからイントロに移る構成でした。僕がクリープハイプを聴くようになって一年余りが経った頃にリリースされた楽曲で、それ以前も勿論クリープハイプを好きではあったけど、この曲によってその"好き"が強い確信へと昇華したのを覚えています。ちなみに、僕が2022年に一番聴いた楽曲は「ナイトオンザプラネット」でした。

 その後、2020年に実施予定だったアリーナツアーが新型コロナの影響で中止となり、3年越しの実現となったことが尾崎さんの口から語られた。当時、僕はまだクリープハイプを認知すらしていなかった。それなのに、3年にも満たない短期間のうちにこんなにもクリープハイプに取り憑かれるように縋っているなんて。でも、メンバーやスタッフを含め、この会場にいる多くの人にとっては、3年越しの夢が叶う瞬間だったのです。きっと、僕以上にクリープハイプを愛して、クリープハイプに救われてきた人があの場所には幾らでもいる。そんな空間に居合わせることができているのって、何よりも幸せなことなんじゃないかなって思っています。

 尾崎さんの"じゃあ後半もよろしくお願いします"の言葉とほぼ同時に始まったイントロは「本当なんてぶっ飛ばしてよ」。アリーナツアーの発表と同時に30秒ほどだけ公開されていた楽曲でした。当時の僕は全容が分からないのにその30秒のteaserを何回も何回も聴いて期待を膨らませていました。それから3ヶ月近く経って配信されたけど、やっぱり期待して正解だったって思えました。イントロからアウトロまで、僕の愛したクリープハイプそのものでした。あの独特だけど最高にかっこいいサウンドも、単純なのに歪曲した言葉選びも。そして僕が一番嬉しかったのは「一生のお願い」かな。ほんと大好きな曲だけどセトリに入ってるなんて予期していなかったから、"一生のお願い 聞いて"と弾き語る歌い出しで僕の心は完全に囚われていました。だって想定外過ぎて。どん底の生活と性愛を描く楽曲が多いクリープハイプでは珍しい幸せを描く楽曲。でも、その幸せも全然特別なものなんかじゃなくて、寧ろ取り留めのない日常の中にある。「燃えるごみの日」や「四季」なんかもそうだけど、そんなところが僕がクリープハイプを好きな理由の一つでもあります。その後は「愛の標識」「火まつり」「週刊誌」と言った初期からの人気曲や、「栞」「イト」と言った近年の定番曲を織り交ぜて展開。当然のように全部かっこよかったし、もう僕の為だけにこのライブをやってるんじゃないかって思えるくらいに大好きな曲ばっかり。僕の日々の精神状態に一番ぴったり合うのがクリープハイプなんだと思います。「栞」は桜色の照明に彩られたステージに花弁のような紙吹雪が舞っていて、MVで散々見てきた光景を自分の目に焼き付けていることが嬉しくてMVに出てくる女性たちと同じように涙を浮かべていたし、「愛の標識」の最後に"死ぬまで一緒愛されてると思っていいですか?"って問いかけてくる辺りも、ちゃんと僕らのことを分かってくれている気がしました。

 「社会の窓と同じ構成」では"幸せになる確率1%以下"から暫く無音の時間が続き、会場では微量の歓声が起こる。すると祐介が"今日は声出しありって聞いてるけど?"と煽りを重ね、次第に歓声が大きくなっていった。そう、このツアーはクリープにとって初の声出し解禁のライブ。僕が初めてライブに行ったのは既にコロナ禍に慣れてしまった頃であり、声出しそのものが今回のライブが初めてでした。そしてその歓声が布石になるかのように遂にお待ちかねの「HE IS MINE」。僕もようやく、クリープハイプのファンになれた気がしています。祐介は「別にやってもやらなくてもどっちでもいいんだけど」とか言ってたけど、会場全体があのフレーズを叫ぶと、上方から銀テープが弾けました。ほら、やっぱりあれやって欲しかったんじゃん。普段生きている中で幸せを感じることなんて殆どないけど間違いなく今が一番幸せだよ。

 終盤、尾崎さんが語っていたのは「テレビにも出ないし目立ったヒット曲もないのに、なんでこんな大きい会場でライブをやって、こんなにも多くの人が会いに来てくれるんだろうね。」といったことでした。確かに、クリープハイプはバンド好きの人間からは絶大な人気を誇るけど、無関心層からは意外と知られていなかったりする。僕の高校時代の同級生にも知らない人の方が大多数だった。でも、僕はそれでいいと思っています。クリープハイプを必要とする人がいて、そんな人たちにちゃんと楽曲が届いているんだから。クリープハイプだけが人生の救いとなっている人だって存在している。そういう人に届いていれば、それでいい。絶望しかない毎日の中でそれでも捨てきれない僅かな希望を切実に歌う「イノチミジカシコイセヨオトメ」なんか特に、そんな僕らの為に存在している楽曲だと思います。

 最後に"普通の人間が普通の日常を生きる為の歌"として「二十九、三十」を披露。泣かないようにしてたけどこの曲を聴いたら流石に涙が出てきました。僕はこの三年間でこの曲にどれほど救われてきたことだろうか。いや、きっと僕だけじゃないはず。クリープハイプにしては前向きなメッセージを乗せるこの曲。でもこの曲だって、リスナーが抱える絶望に寄り添いながら、そんなどうしようもない今を肯定して背中を押してくれる曲です。「イノチミジカシコイセヨオトメ」は"後向きな希望の歌"で、「二十九、三十」は"前向きな絶望の歌"だと、僕は思っています。こんなにも対照的な2つの曲だけど、どっちも祐介らしい。祐介は、明日になっても変われないことも、報われる"いつか"なんか来ないことも、全部理解している。でも、だからこそ、祐介は僕らの為だけに歌うんだよ。どうせ明日も大していい日にはならないし、そんなことくらい分かっているけど、それでも明日も生きてその絶望さえも堪能してやろうって思わせてくれるのが、僕にとってのクリープハイプと言う存在なんです。明日からも、ちゃんと生きてみる。頑張れあたし、明日はいい日だ。

【セトリ】
1.身も蓋もない水槽
2.しょうもな
3.一生に一度愛してるよ
4.君の部屋
5.月の逆襲
6.グレーマンのせいにする
7.キケンナアソビ
8.ボーイズENDガールズ
9.明日はどっちだ
10,傷つける
11.ナイトオンザプラネット
12.本当なんてぶっ飛ばしてよ
13.一生のお願い
14.チロルとポルノ
15.愛の標識
16.栞
17.イト
18.火まつり
19.週刊誌
20.社会の窓と同じ構成
21.HE ISMINE
22.ポリコ
23.おやすみ泣き声、さよなら歌姫
24.イノチミジカシコイセヨオトメ
25.二十九、三十

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