【事例に学ぶ】 THE ERROR 失敗の法則「雪印 2つの事件」
2023年2月23日にNHK BSプレミアムで放映されたTHE ERROR 失敗の法則「雪印 2つの事件」について、IC(インターナル・コミュニケーション)という視点で「何ができるのか、何ができたのか、これから何をしていけばいいのか」など、ざわ~ズで「ざわざわ」。
番組の内容
THE ERRORは、「失敗」への道のりを丹念にたどることで「失敗から学ぶ」特集番組(全三回)。「雪印 2つの事件」はその二回目となる。
番組の説明には
とある。
全体の構成としては、20年前の事件を過去のニュース映像と新しい取材映像や再現映像をもとに、いかに失敗(エラー)が起きていったかを時系列で紹介し、どう対処して行ったかを当事の担当者のインタビューとコメンテーターの解説を交え、事件が起きる背景から再生していくさまを深掘りして見せるニュース番組のアーカイブ映像を十二分に活かした番組である。ゲストコメンテーターの解説で何がいけなかったかや、何をすれば良かったのかが明確になり共感しながら見ることができた。あえて司会をおかないのも、恣意的な誘導をなくし一緒に考えるという情緒的な演出を狙ったのかもしれない。
「私は寝てないんだ」
2つの事件とは2000年6月に起きた「雪印乳業食中毒事件」と翌2001年9月に起きた「雪印食品牛肉偽装事件」である。
最初の食中毒事件の記者会見の後に、エレベーターに乗り込もうとした当時の石川哲郎社長が、会見の延長を求めるマスコミに対して「私は寝てないんだ」と言い放ったのはあまりにも有名だ。この発言は繰り返し放送され、雪印に対する批判に拍車が掛かかった(2日後に社長辞任を表明)。
経営陣の初動対応への遅れに危機意識の欠如がうかがえるが、安全管理の甘さだけでなく危機管理広報からも教科書的な失敗である。
翌年、交付金の不正受給が発覚
そして再建をはじめたばかりの翌年、子会社の雪印食品が牛肉偽装事件をおこす。当時、BSE(狂牛病)が社会問題となったことで、対象となる食肉を政府が買い取るという処置がとられていた。大量に輸入牛肉の在庫を抱えた雪印食品は、国産と偽り交付金を不正受給した。この不正は内部告発によって発覚したそうだ。さすがに自浄作用が働いたものと思われるが、「舌の根も乾かぬうち」とはまさにこのことではないだろうか。
どん底からの再建
各事業はさまざまな会社に再編され、バターやチーズなどの乳製品部門は、雪印乳業が引き続き継承することが決まる。地に落ちた信頼を回復するため、品質保証体制の整備・強化に取り組む中、社員の有志が「雪印体質を変革する会」を発足。最初は数名の活動だったがやがて全社を巻き込んでの活動となる。北海道の生産者と対話会を実施したり、変革への決意を社員一同の名で全国紙に掲載したり、モニター制度や工場視察ツアーなどを行う。まさに事件を自分ゴト化できた証しであろう。事件当初は、自分には関係ないと怒り心頭な社員もいたことだろう。「なんで俺が謝らなければならないのか」と。
しかし2度にわたる不祥事で会社は解体された。皮肉な話だが2度の事件によって本気になったのだ。
「健土健民」
1925年、酪農民が農民による農民のための生活組織をめざして組合としてスタートしたのが雪印の始まりだ。その創業精神は、健康な土地が健全な食料をもたらし、健全な食料が健全な人間を形成するという「健土健民」にある。しかし、業界のトップになり多角化するにつれて酪農関係者は経営から姿を消したそうだ。番組の中で専門家の方々も指摘しているが、「理念の形骸化」に起因しているのだろう。
番組を観て
もし、ICが機能していたら
そもそも、IC(インターナル・コミュニケーション)が機能していれば、企業理念を深く理解できていたはずだし、立場や部署を越えて常に議論ができたはずである。食品を扱うものとして安全面への危機意識をもっていた社員がいたに違いないし、食肉偽装も内部告発せずとも「それはおかしい」と現場から声をあげられたはずだ。そういった心ある社員がいたのに、その声が共有されなかったこと、言い換えれば企業文化に問題があったと思う。
理念ドリブンには歴史を起点に発信すべき
創業理念は、語り継ぐ風土がないと単なる「言葉」になってしまう。時代に合わないとか、社会背景が違うといった思い込みで「理念」が風化しがちだ。しかし、自分たちの歴史を起点に、理念や精神を絶えずアップデートし続けることでメッセージは整合性がとれる。「また同じ話か」と思われても「語り継ぐ」風土があることが理念をただの言葉にしない唯一の方法ではないだろうか。
トラブルやスキャンダルはどんな企業にも起こりうるだろう。「何が起きたか、どうして起きたか、どう対応したか、その後に何を変えたか」を忘れずに語り継いで、起きてしまった問題をプラスに変えるためにICにできることはたくさんあると改めて感じた。
例えば、再発防止のディスカッションを事件が起こった日に毎年行っても良いだろう。新人研修で信頼回復にかかった道程をしめしても良いかもしれない。
仕事を続けていくと手段(報酬)が目的化しがちだ。しかし、報酬で不満は解消できても満足は得られない。「生きがい」がないとすべてにおいて質(Quality)が低下してしまう。人の価値は失敗ではなく、その後の行動で決まる。企業だって同じだと思う。
もうひとつの失敗
雪印メグミルク株式会社のホームページには、1955年に起きた八雲工場食中毒事件発生後に当時の社長佐藤 貢氏が発した「全社員に告ぐ」のメッセージ全文が掲載されている。45年前にも同様の事件があったのだ。しかし、この時にこの事態を自分ゴト化できた有志たちはいたのだろうかと考えてしまう。
コミュニケーションというと、とかく行動変容をうながす「伝える」ことを前提として考えがちだ。しかしコミュニケーションのゴールは相互のやり取りの中で生まれる「何か」ではないだろうか。誰かと会話をしていると自分では想像もしえなかったことを思いつくことがある。「何か」を得るために会話するのではない、そのやり取り自体が楽しいから「何か」が生まれるのだと、そう思う。
番組の中でお二方の言葉が強く印象に残った。
「会社の文化の責任」は経営者にある。そして社員は、その理解者であり伝道者だ。そしてICを担うあなたは、社内の歴史(ヒストリー)を紐解き、未来(ミステリー)を示すストーリーテラーだ。でも決して一方的に話すだけでは「何か」は生まれない。社員や顧客、取引先やその家族の話を素直に聴いて受け止めて欲しい。
八雲工場食中毒事件のときに、その事態を多くの社員が自分ごと化できなかったからまた同じ轍を踏んでしまったのではないだろうか。CC(コーポレート・コミュニケーション)やICを担う担当者はぜひこの失敗から学んで欲しいと願う。
まとめ:コグレリョウヘイ
この記事について
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